第21話『魔王であり続けるという事』

「ブルーノよ。おぬしは我より強い、最強の四天王"影"を倒す力を持ちながらもさらなる力が必要と申すか?」



「ああ必要だ。アリスはいま教会の刺客と勇者に狙われている。だから結果として、勇者も教会も打ち倒せるだけの力が必要だ」



 勇者と教会の脅威に勝つためには四天王より強い力が必要だ。

 "影"が四天王最強であり魔王よりも強いというのであれば、

 この城に教会で攻め込もうとしたら守り切ることはできないだろう。


 遺跡都市で勇者一行と俺が出会ったのはあくまでも偶然であり、

 向こう側も最高のコンディションで挑めたわけではないだろう。


 レベル・アップとやらで無限に強くなる可能性を持つ存在、それが勇者。

 たった2度の戦いで勝てたからといって油断はできない。


 勇者が万全のコンディションで魔王の首を狙いに来たところを、

 打ち倒す。そうでなければ安息の日は訪れない。


 クルスが敗北したとしても王都での決闘や、遺跡都市での決闘の

 ように"そんな決闘はなかった"として扱われるだろう。


 完全なる決着を付けるなら絶対に言い逃れが出来ない状況で、

 完膚なきまでに叩き潰すしか方法はない。



 不気味なのは勇者の背後にある教会の存在だ。

 教会がどの程度の規模の組織で、アーティファクトを

 どの程度扱える存在なのか分からない。



 だから、俺は勇者と教会を相手にしても絶対に負けない力を持たなければならない。そして、勇者も教会も同時に捻り潰せるチャンスが遠くない未来に訪れる。



 俺は脅威となる存在をブチのめし、王都に居る俺の父と母に、

 アリスとのことを伝えなければならない。



「おぬしは、それだけの力を持ちながらも望むものが小さいのう。欲が無いのか?」



「もちろん俺にも欲はある。アリスと安全に暮らす日々、それこそが俺が望む物のすべてであり、それが俺にとって幸せをもたらすものだからだ。だからこれこそが俺の欲だ」



「なるほど。富や名声や武勇や妻子の数こそが幸福と心得ている者が多いので、我の方が幸福の定義を狭義に考えておったようじゃの。……おぬしの言う言葉は我の立場を振り返ってみても一理ある。我は永劫に近い時を王として生き続けてきたのじゃが、それでも正直我には分からぬのじゃ……幸せという物が何かを」



「幸せが分からない、とは?」



 この世界で最も長い年月をホムンクルス体への転生によって生き続け、

 名誉も、財も、権力も、不死の身体も、知識も、

 ありとあらゆる全てを手に入れてきたはず。


 そんな魔王ですら手に入れることが出来ない幸せとは、

 いったいなんなのであろうか。



「不死であること。王であることは幸せとは関係ないと?」



呵呵かか。むしろ逆じゃな、不死であることも、王であることもそれは我に課せられた義務であり責務じゃ。それはもはや我にとって呪いにも近いものじゃ……幸福などという概念からは最もかけ離れた物と言っていいじゃろう」



「……呪い」



「呪いとは言ったが……確かに、の望みと幸福はそこにこそあったのかもしれぬ。じゃが、長い年月が経ち、いまの我にとって、それは幸福とはほど遠いものとなってしまったのじゃな」



「…………」



「もちろん、いまも我が王として統治する以上はその国を守り、発展させる。これは必ず果たさなければいけないという責務であると思っておる。じゃが、それは……おぬしを見ていると、幸福というものとはまったく違うもののように思えてくるのじゃ」



「ならば人としての幸せを求めてみては?」



 転生により記憶を継承しながらずっと国を統治する王として、

 機械的に生きるような生き方は個人が背負うにしては度を越して重すぎる。


 ならばいっそ自分自身の王という呪縛から解き放たれて10歳の、

 年相応の少女として生きるという生き方もあるのではないか。

 そんなことを思った。



呵呵かか。なるほど。そういう生き方もあるかもしれぬの。我の一代目の思想から離れるかもしれぬが、我が王を退き、優秀な後進に任せるのも面白いかもしれぬのじゃな……さて、着いたぞ。この部屋こそがおぬしが短時間で強くなる可能性を秘めたアーティファクトが置かれた部屋じゃ」



 その部屋は遺跡都市でアリスの記憶映像を見た部屋と似ていた。

 旧人類が使っていた"機械"という遺物であふれている部屋であった。

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