第98話
「えぇっ!? VR婚活ですって!?」
ちょっとおおげさに驚いてみた。
なにやってんだアンタ。
そんなのオンラインゲームが流行った時代からやられてきたことじゃねえか。
ラノベでもやりつくされた感あるわと。
そう言ってやりたいのをぐっとこらえた。
だって話題を振ってきたのが、ババアと同じレベルで扱いの厄介な人物。
チャン美香先輩だったから仕方ない。
返答ひとつでマミミーマートが血の海ですよ。
そして、そんなことしたら今度は豊田家の庭も血の海ですよ。
ここは言葉を慎重に選びます。
「そうなのー!! こうね、可愛いアバターを操ってね、楽しくおしゃべりする感じの婚活なのよー!! 相手の容姿が分からないから、先入観なく話せるし、アバター使っているからか適切な距離感が保てて結構いいかんじなのよ!!」
「へー!! すごーい!!(迫真の抑揚)」
「すごいでしょう!! このためにOculus(PC用VRデバイス)買っちゃったわよ!! いやまぁ、なんてーの。アレも結構お高めのデバイスでしょう。そんでもって使える人はそれなりにIT関連のスキルが必要でしょう。もうその時点でいろいろと振るいにかけられているから、身分証明も兼ねてるみたいな」
先入観なく話せるうんぬんどこ行った。
いきなりげんじつてきなこといいだすみかちゃん、ようくんきらい。
またろくでもないことに手を染め始めやがった。
結婚するの諦めてなかったんかい。
俺と廸子はあきれの視線を交わす。そんな俺たちのアイコンタクトにも気づかない様子で、美香さんはまくしたてるように話を続ける。
「まぁけど、中にはオタクっていうの、引きこもりの人ととか、あとはちょっと変な感じの人とかも混ざっていてさ。そういうのと当たるとちょと厄介よね」
「パンツ何色とか聞かれたんすか?」
美香さんの年齢とか知っていたら絶対に言わないけど。
アバターで若作りしてたらそういう質問くらいくるかもね。
なにせ、音声通話の時代からやられてきた犯罪だからな。
そう、パンツの色を聞くのは犯罪。
セクハラと犯罪の区別はちゃんとつけて行うのが、セクハラマイスター。
俺はこう見えて、廸子のパンツは手に入れたけど、廸子にパンツの色を聞くような人の道にもとるド外道な行いはしていない。セクハラをするものとして、越えてはならぬ一線をちゃんと理解しているのだ。
「いや、聞かれなかったよ? 写メで自撮り送ってとかそんなん」
「くっ、なんで聞かないんだ!! テレフォンセック〇の前戯みたいなものじゃないか!! これだから電話回線を知らない若い世代は困る!!」
「……なんでここで陽介が怒るのかよくわかんないけど、よかったっすね、こんな度し難い変態をネットでも相手することにならなくて」
「ほんとにねー」
失敬な。だから、俺はパンツの色は聞かないっての。
よっぽどのことがない限り。
ともかく、まぁ、順調に言っているならそれに越したことはない。
美香さんてば、相当婚期については焦っているものな。
なんか仕事の方も、順調と見せかけてちょっと暗雲が立ち込めてきている感じだし、そろそろ結婚してリタイアしちゃうのもありかもね。
一応、本社から出向ってことだから、給料も本社勤めと同じだけもらっているはず。片田舎じゃなかなかいない優良物件。さらに実家も太いと来ている。
美香さんが渋らなければなんとでもなる――。
はずなんだけれどなぁ。
まぁ、過去の悪行とかやんちゃが響いているのかね。
どうしてまだ未婚なのか、俺もようわからんよ。
いいんじゃない、もう、この際玉椿町の男に限らず手広くやっちゃえば。
わざわざこんな僻地に旦那に来てくれる人は少ないかもだけれど、可能性はゼロじゃない。それに賭けようという美香さんの心意気を、俺は買った。
うん。
それは、それとして。
「美香さん、いったいどんなアバター使ってんの?」
「うへ!? ちょっと、陽ちゃんそれを聞いちゃうの!? セクハラだよセクハラ、普通にセクハラ!!」
「いや、セクハラじゃないでしょ。そんなセクハラになるようなお見せできないアバター使ってんですか? それじゃ逆に、美香さんがセクハラってことになりますよ。いいんですか、自らセクハラアバター使ってるって認めちゃって」
「ぐ、ぐぬぬ」
「アタシも美香さんのアバター見たいなー。どんなの使ってるんすか。あれですか、猫耳とか生えてるような奴とか? あ、いっそ、サンリオのキャラとか?」
廸子や。
発想がお前は本当にかわいらしいな。
この目の前の女は柔道バカ一代。
女だてらにクマを殺さんとする女ぞ。
そんな奴が使っているアバターが、女っ気のある奴なわけない。Vの者として、普通に映像として売れますよこれみたいな、そんなできなわけがない。
まぁ、よくて、VRキャラクター生成マシーンでカスタムしたキャラ。
悪くてなんかこうデフォルトキャラクター。
なんにしても、Vチューバー的なものを求めることは難しいだろう。
「……見せなきゃダメかなぁ」
「ダメってことはないですよ。ただね、俺はこう見えても、情報系の学校出てますからね。何かとアドバイスすることはできるかと」
「アタシはそういうのわかんないですけど、かわいいのとか目がないので」
俺より廸子の方が食い気味だ。
こいつ、これで結構オタク趣味な所あるからなぁ。
後輩二人にロックオンされたら仕方ない。
やれやれ観念するかという感じに美香さんはスマホを取り出した。
「いやね、まぁ、私ってばほら、凝り性じゃないの。何やるにしても、中途半端なのは嫌だなって思ってね。バイクでも、仕事でも、そしてVRお見合いでも」
「……まぁ、そこんところは」
「……長い付き合いですから」
「部下にね。そういうの作るの趣味にしている子がいてさぁ。じゃああんた、私のアバター作りなさいよ、今度のボーナスの考査ちょっと良くしておいてあげるからって言ったらさ、翌日休んで作ってきおりおったわ。はい、これが私が使っているVRアバタービック・ザ・ベアキラーちゃんよ」
そこに出てきたのは、なんかこう、一昔前に流行ったかぶりものヒロインをでかくして、さらに筋肉質にした感じのキャラクターだった。
まず、性別は。
そう問いたくなるビジュアル。
なかなかショッキングなキャラクター。
それを平然と使って、VRお見合いをする美香ちゃん先輩に、抱いた感情はもはや言うまでもないだろう。
恐怖。
俺と廸子は、こんなアバター使って、バーチャルとはいえ活動できる先輩に恐怖した。羞恥心をいったいどこに置き忘れてきたのかと恐怖した。
そして、これで出来る恋人なんて、それこそオタクや引きこもりよりよっぽどタチ悪い奴だぞと、言ってやりたかった。
言いたいけど言ってやれなかった。
うぅん。
部下、絶対これわざと狙ってやっただろう。
「いやー、これが結構、アタシも気に入ってってさ。こう、強そうじゃん。他の人たちはなんか、出来の悪いアニメみたいな格好してやってくるんだけれど、一人だけこれだから浮くわけよ」
「えぇ、そりゃ、もう、浮くでしょうね」
「そうだと、思います」
出来の悪いアニメの顔でわいわいするのが目的の奴ですからね。
GTAにふざけたMODぶち込んでみましたみたいなアバター出てきたら、そりゃ浮きますよ。オタサーのクマみたいなことになりますよ。
それでなくても浮き気味なのに。
ほんまもう、部下、そういうところやぞ。
もっと協力したれや、上司の幸せに。
「なによなによそんなかしこまって。いやけど、浮いたとしてもそれが何かってもんでさぁ。逆にそれで弄ってくれるからラッキーみたいな。ようは考えようよね」
「強い」
「さすが美香さん、強い」
「よかったらリアルで手合わせ願えませんかみたいなメッセージがきたりするのは厄介だけれどね。けど、やっぱり人間、大切なのは中身よ。これくらいはっちゃけてるくらいの方が、人間の本質が分かってちょうどいいと思うの」
うん、そうだね。
けどそのアバターを平然と使っている時点で、あ、ヤベー奴だって、周りにも伝わってるから。もうマイナスから始まる未来しか見えないよね。
……美香さん。
「逞しく生きて」
「強く生きてください、美香先輩」
「おっほっほ、これでなんとか伴侶ゲット。本社の役員人事に必要な条件を満たして、さらにキャリアアップよ。見てなさい上層部――アイルビーバックよ!!」
タフだな、美香さん、ほんとタフ。
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