第45話

 廸子ちゃんのための出張スマホ講座。

 という訳で、俺は久しぶりに神原家におあがりしていた。


 蒼い顔をして、部屋で待ってた廸子。彼女は俺の顔を見るなり、助けてくれとすがりついてきた。


 いったい何をやらかしたのか。


 架空請求、ランサムウェア、出会い系のメール。

 いろいろ考えられるが、まぁ、超絶機械音痴の廸子である。きっと俺の斜め上、あるいは下のトラブル起こしてテンパっているんだろうな。


 幼馴染の今にも空が落ちてきそうというあわてぶりに対して、俺はすこぶる落ち着いていた。というか、まぁ、スマホ買った時から、こんなことになるだろうとはなんとなーく思っていた。


 すすめた手前、ケアはしますよ。

 ええそりゃもちろん。


 ただし、お代は体で払ってもらおうかね、いひひひ。

 まぁ、家に爺さん居るのでそんなこと口が裂けても言えないんですけどね。僕は、畳みで犬神家の一族状態にはなりたくありません。(ぶるぶる)


 さてさて、いったいぜんたいなにやらほい。


「よよよ、陽介!! どうしよう、昨日からなんか変な文字が携帯に表示されてて!! これ、変なお金とか請求されない奴だよな!? なぁ!?」


「……ニュースの通知じゃねえのよ。ほうほう、働かない彼氏にどうやってやる気を出させるか。元親が教える脱ニート法。ニートでも結婚できる10の方法」


「読み上げるんじゃねえ!!」


 はい、思った通り、しょうもない話でした。


 スマホの通知機能。

 誤動作でもなんでもない、正常動作の奴でした。

 ほんと、機械音痴あるあるよね。


 最近のスマホはニュース通知オンにしとくと、自分の嗜好にあった記事をポップアップしてくれるから便利でかなわん。いやはや、俺も、何度記事に助けられたことか。おかげさまで、今日も元気だFanzaが捗るってもんです。


 やめてグーグル先生!!

 もうこれ以上、俺のクレカをいじめないで!!

 もうリボ払いも限界に来てるの!!


 冗談はさておき。


 こんなんトラブルの内にも入らない。


「ほい、通知しないに設定しておいたから、これからはもう出ないぞ」


「本当か!! お金かからない奴か!! もう大丈夫な奴なんだな!!」


「大丈夫な奴だから。というか、ビビり過ぎだろ」


「だって、何もしていないのに、急にこんなの表示されるようになって。そりゃびっくりするじゃんか。くすん」


 はいはい拗ねないの廸ちゃん。

 まったくこのギャルは、昔っから機械を使わせたらてんでダメなんだから。

 スマホに変えたけれども、まったくその恩恵にあやかれていない。

 もうちょっと、こう、なんというかね、今どきの女の子なんだから、いろいろとやることがあるだろう。


 それこそ、インスタとか、ツイッター、ライン。


 ……うぅん。


 どれもやってる姿が想像できないのが致命的なんだよな。

 つむつむとか、そういうゲームすら想像できない。

 ほんと、買ったはいいけど、これ、ガラケーでよかった奴なのでは。


 首を傾げる俺。

 そんな俺の前で、いやー助かったと廸子がほほ笑んだ。


 まぁ、彼女がいいなら、それでいいか。なんか知らんが嬉しそうだし。


「いやけど、ほんと助かったよ陽介。アタシ一人だったらどうなってたことやら。やっぱり持つべきものは機械に強い幼馴染だな」


「まぁ、そう言ってくれるとありがたいやら何やら」


「やっぱスマホ使いこなしている奴は違うよな。すっと解決しちゃうんだもの。アタシだったら、一日中悩んでたぜ、これ」


「それは悩みすぎだろ」


 けどまぁ、自力で解決はできなかっただろうな。

 廸子の機械音痴はほんと、摩訶不思議のレベルだからなぁ。


 これじゃインスタもツイッターも期待できねえ。使わないなら炎上することもない、逆に安心ってもんだ。

 インターネットを使う上で大切なのは身の丈にあった使い方をするということ。炎上の大半は身の丈以上にやりすぎたの一言に尽きる。


 今の所、廸子は身の丈にあった使い方をしているから、きっと大丈夫――。


「ところでさ、ツイッターっていうの? なんか二十四時間、連絡取れる奴!! アタシもやりてーんだけど!!」


「なんでそこで身の丈以上のことをしようとするのよ、廸ちゃん!!」


 俺は思わずずっこけた。

 仕事が終わって、せんべえかじってのほほんとしてた所に、つるりとずっこけた。咥えていたせんべいがクラッシュして、粉となって、俺の顔に降り注ぐのを、ただ、俺は眺めていた。


 あぁ、目に、せんべえが沁みるぜ。


「なに言ってんだ!! こんなのでいちいちビビってるお前に、ツイッターなんかできるかい!!」


「えー、けど、皆やってるっていうじゃん」


「随分前の話。既にツイッターは衰退しました。今やってる奴らは、古い時代に魂を縛られた旧世代の奴らでございます」


「けど、やってんだろ陽介?」


 やって、おります。

 結構古参に入る部類のアカウント持ってます。

 アカウント名的に、これ、初期に取得してなかったら、絶対に手に入らない奴だよなという、そういうアカウントを持っております。


 そして、これからもそれを使い続ける予定でございます。


 ツイッターはね、情報を発信するものじゃないんだ。

 むしろ、情報をキャッチするものなんだ。

 自分で調べなくても嗜好の近い人たちを集めると、自動で情報が入ってくる。

 そういう便利ツールなんだ。


 そして、時々、えっ、これ、タダでいいんですかっていう、画像情報が流れてきたりするんだ。本当に、それがタダだったりするから、これが怖いんだ。


 そんな画像は、俺たちフォロワーが応援してあげないと、すぐに消えてしまうんだ。作者のモチベーションにRTとファボが直結している、魔のコミュニケーションツールなんだ。

 いったい誰がそうしたのか、どうしてそうなったのか分からない。


 けれど、とにかく。


「俺はツイッターをやっている。それは紛れもない事実だ」


「ほら、やっぱやってんじゃん」


「しかし!! 廸子!! それをお前に教える訳にはいかん!! お前に、俺のツイッターのアカウントを教えることはできない!!」


「えぇ!? なんでだよ!! それでいつでもおしゃべりできるんだろう!!」


 おしゃべりできる。

 できるけれども。


 一緒に破廉恥なおしゃべりも流れてくる。


 RTミュートなどの高度な機能を使えない廸子には、きっと俺のTLに溢れかえっている、アダルトで大人な情報群はめまいがするようなものとなるだろう。

 いや、実際、眩暈を覚えることだろう。

 そして、次の日コンビニで会うなり。


「スケベー!!」


 と、怒鳴られるのが目に見えている。


 違う、スケベじゃない。

 ツイッターをしていると、自然とそうなるものなのだ。

 男がツイッターをしていると、そうなってしまうものなのだ。


 これは男がスケベなのでも、俺がスケベなのでもない、ツイッターがスケベなのがいけないのだ。


 なので。


「廸子。もっと簡単に、可愛いスタンプとかでメッセージのやり取りができるアプリがあるんだけれどな」


「えっ!! 可愛いスタンプ!! なんだそれ、ちょっと教えろよ!!」


「LINEって言うんですけどね……」


 俺はあえて話題を逸らして、彼女に違うアプリを勧めるのだった。


 ふぅ、やれやれ。

 百合ッ子大好きレズレズ令嬢BOTの秘密は護られたか。

 よかった、俺が百合漫画片っ端からRTしまくる、百合の者であると、廸子に知られなくて本当によかった。そして、ちょっと過激な百合も許容しちゃう、むしろそっちの百合がメインの者と知られなくてよかった。


 いや、普通のスケベもいいけどさ。

 インターネットという仮面舞踏会の中でくらい、変わった自分を演じて見たい、そういう欲求もあるよね。


 ある、よね。


「おー、可愛い!! これ、なんてキャラだ!! 漫画? アニメ?」


「ふふっ、これは、ゆるゆ〇の〇〇〇アッカリーンと言ってね――」


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