第7話
日が暮れるまで廸子にセクハラすることを考えている。
と、町の人に思われがちな俺であるが、実際の所はそんなことはない。
ニートはニートでそれなりに忙しいのだ。
実のところ、結構いろんな家事をしていたりする。
ニートやるのも楽じゃなくてね。
やっぱりいろいろとやらないと肩身がせめー訳ですよ。
という訳で、今日は俺の日々の生活について語っていこうと思う。(なドキュメンタリー感)
まず、朝は六時起床。
これは単純に俺の事情。規則正しい生活をさる事情で心がけている。
あと、まぁ、ちょっと朝が弱くて。
早く起きておかないと、今一つ頭が回らないのだ。
なんで、あくまで起きるだけ。
決戦兵器オフトゥンに包まりながら、ぽやぽやとソシャゲなんかをしつつ、七時までだらだら。
それから、台所から飯の匂いがしてきたくらいでオフトゥンから出る。
七時半。
親父、お袋、そしてちぃちゃんと朝食。
寝巻で行くと、親父が怒るので着替えてからだ。
別にスウェットで一日過ごしたっていいのに。
というか一人暮らしの時はそうだったのに。
田舎にお洒落ととか必要ないのに。
やれやれである。
まぁ、ちぃちゃんの教育には間違いなく悪いので、しぶしぶ着替えている。
こればっかりは本当に、どうしようもない。
将来ちぃちゃんが、俺のようなろくでなしになる方が困るからな。
まぁ、しっかりもののちぃちゃんに限って、そんなことはないと思うけど。
「じぃじ、ばぁば、いってらっしゃー!!」
八時半ごろ。
親父たちがそれぞれ出勤。
と言っても、親父は定年退職を迎えている。
今は山の中にあるスーパーで、清掃スタッフをしている。
出勤とは言ったけれども、ほぼ趣味みたいなもんだ。
年金も、悪くない額貰っているんだから、休んどけばいいのに。
ま、家に居ても息子と孫と一緒になってテレビを見るだけだから、気持ちは分からんでもないがな。
十時まではちぃちゃんと教育番組を見る。
ちぃちゃんは割と勉強熱心で、小学校高学年向けの番組も見たりするから侮れない。まだ五歳児なのに、二桁の足し算なんかも見様見真似でやるから、贔屓目にしても将来が楽しみである。
彼女の一番好きな番組は人形劇。
この辺りはなんというか歳相応でちょっと安心だ。
十時半。
同居している姉貴が夜勤から帰って来るので子守を交代。
姉貴はちぃちゃんとお風呂に入り、お話をして、それから昼飯を造って食べる。
この一連のやり取りの中に俺は不要なため――と言いつつ、居たら居たで人並みには相手はしてくれるが気を使って――俺は極力家の外に出ることにしている。
行先は、渓流沿いにある公園か、あるいはちょっとした登山道の途中にある公園。なんにしても、昼間から男がぶらぶらしていても怪しくない場所である。
散歩するのもニートは楽じゃないよまったく。
正午。
神原家を訪れる。
バイトに行く廸子を、勤め先まで送るのだ。
バイトの身支度を整えた廸子を、車に乗せて職場までエスコート。
もちろん毎日ではない。彼女にもシフトの都合がある。なので出来る時だけ。
俺もコンビニに行きたいし、そのまま市内まで買い出しに繰り出すこともあるので、そこは時間が合えば積極的に一緒に行くようにしていた。
助手席に廸子をのせて、あーだこーだと話すのは割と楽しい。
いい気分転換である。
たぶん、一日の内で一番楽しいのがこの時間だろう。
といっても、コンビニまでだから十五分もかからない。
彼女を降ろして、また、迎えに来ると約束すると、そのまま俺は市内へ行くなり、親父の働くスーパーに行くなり、まぁ、その日によりけり。
ただまぁ、午後三時までには帰れるようにしている。
という訳で。
午後三時。
眠る姉貴からちぃちゃんのおもりを再び任されるべく俺は家へ戻る。
女手一つで子供を育てるってのは、なかなか大変なものがある。
いろいろと思う所はあるんだけれども、そこは家族だ。
俺は姉貴の子育てに協力している。
この時間は教育番組もいいのがやっていない。
なので、ちぃちゃんとお勉強したり、お絵かきしたり、トランプしたりして時間を過ごす。
子供の相手は疲れるが、それにも増して充実感がある。
できることならずっとこうしていたい。
だが、そうも言ってられないのが人生だ。
とほほ。
モラトリアムは続かないから甘美なのだ。
そうこうするうちに五時。
おふくろが先に帰って来て、次に親父が帰ってくる。おふくろが料理を作り終えるまでに、風呂を掃除しておいて準備する。
一番風呂は、一応我が家の大黒柱の親父。
次におふくろ。最後に俺。こればっかりは仕方ない。
働いてない奴がおこがましいってもんである。
そして、満を持して夕食。
の前――風呂掃除から夕食までのわずかなタイミングで、俺は再び車を走らせてマミミーマートへと向かうのだ。
廸子の仕事が一段落した頃合いである。
へとへとになって、目も霞んでいる感じの彼女。
時々、助手席で無防備に寝る。
俺が凶暴な男だったらこのままどこか分からない場所に連れて行かれるぞ。なんてことを思ったりする。いくらなんでも男に対して無防備すぎるその姿勢は、ちょっと心配だった。だが、心配したところで俺が凶暴になる訳じゃない。
きっと俺のことを信頼してくれているからこその態度なのだろう。
そう信じて、彼女を家まで送る。
到着するや、はっと目を覚ます彼女に、おつかれさんと声をかけて背中を見送る。
ありがとうなとはにかんでこちらを見る金髪の幼馴染は、夜なのに眩しい。
苦しそうだが、それでも、はつらつと自分の人生を生きているように思う。
俺なんかと違って。
そんな感じで、再び自宅に戻ると、親父が風呂から出て、ダイニングに料理が並べられているのだ。
夕食。
家族でのテレビ視聴。
風呂。
そして就寝。
ちょっと早めにちぃちゃんをねかしつけてから、俺は自分の部屋に戻る。
そして、台所から持ってきたカップの水を飲み干してから、布団に入るのだ。
時刻はだいたい十時過ぎ。
それが俺の一日。
これが俺の毎日の繰り返し。
「……こんなんでいいのかな」
そんな疑問を抱かない日はない。
三十歳、働き盛りの男の人生としては、終わっている部類だと言って問題ないだろう。けれども気ばかり焦って、何も解決しないのだから仕方ない。
受け入れるしかない。
廸子だって、爺さんとの生活を受け入れている。
もっと、自由に青春を謳歌したかっただろう。
身内の介護に振り回されず、まっとうな日々を過ごしたかっただろう。
市に出れば、まだ友達だっているに違いない。
それに、恋人だって。
あんな金髪ヤンキーでもできるかもしれない。
――なんだか、な。
「なんで人生って、こんなに生きづらいのかな」
そんなことを考えながら、俺はそっと瞼を閉じる。
働いていないのに、なんだか酷く疲れた俺は、それで結局、十五分くらいで眠りに就くのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
「という訳でね。お前にセクハラを仕掛にくるのには、俺なりの思惑というか、気遣いがあってだね。廸子ちゃん」
「……ほう」
「お前だって、もっと自由に生きたいだろうなって。もっと楽しく、自分の望むように生きたいだろうなって。だから、ちょっとふざけた話でもしてやって、お前の抑圧された感情を解き放ってやろうと」
「……それと、肉まん二つ、人肌で温めてくださいがどう繋がるんだ」
はい。
すべりましたですよ、どうもすみません。
直球過ぎる、下ネタは貧乳の廸子さんには通じませんでしたよ。
ぎろり睨んで俺をけん制してきましたよ。
そら当たり前か。
まぁ、その、なんだ。
「……廸ちゃん、疲れているの? 大丈夫? おっぱいという名の肉まん揉む?」
「揉むわけねーだろ!!」
冗談はさておき。
俺は、廸子には笑って生きていてほしいんだよ。
なんてーかな。
やっぱりほら、幼馴染としてはさ、心配なんだよ。
こんだけふざけていても、さ。
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