エピローグ

 あれから何時間が経ったのか。すでに日は沈み始めていたが、未だに勉太は空中にいた。


「勉太……!」

「……近藤?」

「帰りが遅いから心配して来たんだよ……病院に戻ろう」

「心配……?あの時、僕を捨てておきながら今更、心配だって?」

「それは……」


 その言葉に近藤は俯く。


「……分かっているさ」


 松葉杖を片手にした、近藤の痛々しい姿を見て、勉太は言う。


「その怪我で僕を助けにこれるわけないことくらい……分かっている」

「それなら……!」

「でも、もういいんだ……僕らの仲間関係を修復するなんて。安田も相澤も、あれから一言も口を利かないじゃないか。それに……僕はもうすぐ死ぬんだから」


 勉太は目の前に広がる地面を見つめた。


「……どういうこと……!?」

「あの女のせいさ。僕の体は浮いているんじゃない、んだ。いつまでも地面に辿り着くことなく、重力によってずっと加速している状態なんだよ」

「は……?何よそれ!?何の魔法なのよ!?」

「魔法……じゃないかもしれない、あいつの態度を見る限り。それに呪文も唱えなかった。あれはまるで僕らと同じ……」

「固有スキル……!?」

「分からない。でも、能力が解除されれば僕は終わりだ。このまま……たぶん時速二百キロくらいで地面に叩きつけられる。死体は原型も留めないだろうな」

「…………」

「だから、もう僕たちは元に戻れない。お前はお前で、好きに行きていけばいいさ。……思えば、僕は交通事故がきっかけでこの世界に来たんだよな。その時よりずっと速い衝突だよ、きっと楽に死ねる」




 ゴトン


 近藤の右手から生み出されたスーツケースが、地面に転がった。


「約束して。生き残ったら、また一緒に冒険に行くって」

「近藤……?」

「あたしはもう嫌だから。誰かを見捨てて生き延びて、それで悲しい気持ちをずっと背負い続けるのは……もう嫌」


 そう言って、彼女は開いたスーツケースを勉太の真下に置いた。


「『貨物運搬ディスコ・トレイン』……これまで色々な物をここに投げ入れてきたけど、投げ入れたことで新しく傷が付いたことは一度も無かった。この中に落ちれば、勉太も助かるんじゃないかな」

「……!!」

「生きた人を入れたことなんて無いけど、でも可能性はあると……あたしはそう思うの」

「近藤……!」

「だから約束して。生き残ったら一緒に……もちろん安田も相澤も含めて、また冒険に行こうよ……!」




「あれから数時間」


 ガブリエラは一人、夜空に瞬く星々へ語りかける。


「『空白ディオス・シュライン』を解除して、あなたがどこへ向かうのか。いずれにしても、私が進むのは別の道。……さぁ、次の神へ行きましょうか」

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