籠の外16

「またな〜!」


嬉しそうに手を振るシュガーとは違い、俺は嫌な予感がしていた。


「アイツ、良い奴だったな!いっぱい食い物くれたぞ」


相変わらずシュガーは林檎の袋を覗いてウキウキしている。


「それならいいんだけどな・・・」


俺は潔く両手を上げ降参のポーズをとると、坂の上からやってきた屈強な男達に様々な形の刃物を向けられ、あっという間に丸く取り囲まれてしまった。


「ん?何だお前ら!オイラ達は何もしてないぞ!」


跳ねるシュガーに男の一人が鼻先まで刃を近づける。

するとその中でも一番大きな男が口を開いた。


「黙れ盗っ人が、その脇に抱えた林檎が何よりの証拠だろう」


男が顎で指したのはさっきナナとかいう女性がくれた紙袋に入った林檎だった。

それを聞いて俺は大体の状況を理解した。


「これはさっき偶然ぶつかったナナって言う女性から貰った物だ。俺たちは一つも取ってなどいない。だが、林檎が転がった時に傷物になったかもしれない。弁償しろと言うなら労働で返す」


まぁ、信じては貰えないだろうなとたかを括っていたが、男達は意外にも刃物を下ろした。

そして、俺たちはあっという間に哀れむ視線と笑いの的になった。


それは余り気分のいいものでは無かったが、察したのか先程の男が口を開いた。


「なんだお前らナナにやられたのか!とんだ災難に会ったな。ナナに会っちまってその上弁償しろなんてそんな悪魔みたいな事言わねーよ!それを返して貰えりゃ十分だ」


男の意見に皆賛同したらしく口々に『そうだ』『そうだな』と言うので、俺はシュガーから林檎の袋を貰うと彼等に返してあげた。


袋を受け取り満足したのか来た道を帰り始める一行だが、ふとさっきの男がこちらを振り返った。


「そういや、あんちゃんナナの事知らねぇ見てぇだったが、ポケットは平気か?」


ハッとして持ち物を点検すると、案の定さっきキャロルから貰ったチョコの箱が無くなっていた。


「ま、ナナを知った代金だと思って諦めるんだな」


去っていく男達を後目に俺は深くため息をついた。


「なーコウジ、ナナは悪い奴だったのか?」


「さあな。少なくとも泥棒って事は分かった」


少し肩を落としたその時、後ろから聞き覚えのある声がした。


「こんな所に居たのですか、探しましたよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る