籠の外15
坂の上から響く甲高い声に顔を上げると、沢山の林檎と共に駆け下りてくる女性と目が合った。白いベレー帽が風で飛ぶと、薄いピンクの髪がふんわりと広がる。
「あ、え!?!?ど、どう」
突然の事にどうすればと考えようとするが、勿論そんな暇など無い。
あっという間に彼女と俺はくっついた。
と、いうより衝突した。
こういう時、漫画やアニメなら押し倒されてラッキーが起こる筈なのだが・・・
現実は実に無慈悲である。
「いっつ・・・大丈夫ですか?」
派手にぶつかった勢いでそれぞれ転がったみたいだ。幸い服装が厚手のお陰で怪我は打ち身ほどですんだらしい。
立ち上がって彼女へ手を差し伸べた。
「いったぁ・・・ちょっとさ、もう少し抱きとめるとかなんとか・・・」
不機嫌そうに乱れた体勢を整えつつこちらを見上げた彼女は、真っ直ぐに俺の目を見つめていた。
肩に付かないくらいのピンク色の髪は陽光を吸い込んで柔らかに光を放ち、白い肌の中には薄赤い唇と黄色い大きな瞳が2つ。
一瞬背筋に悪寒が走った。何故かあのおぞましい大蛇が脳裏を過ぎったからだ。
「あの、もしかして俺の顔に砂でも付いてますか?」
そう聞くと彼女は数回瞬きをして微笑んだ。
「いいえ、何でもないの。ぶつかってごめんね」
その優しい笑顔は俺を虚像ごと包み込んで安心させてくれた。
「いや、こちらこそ。ちゃんと受け止めれなくて」
その時、後ろからひょっこりと影が現れた。
「おいおい、大丈夫かー?この丸いヤツはオイラが集めておいたぞ!」
そういえば、シュガーの存在をすっかり忘れていた。
「怪我はありませんか?」
彼女は俺の手をとって軽々と立ち上がって、ポンポンとスカートに付いた砂を払った。
「少し擦りむいたみたい。まぁ、これぐらい平気ね」
見かけによらず強い人なんだな。それが俺が彼女に抱いた第一印象となった。
「オイラ、シュガー!それとこっちがコウジだ。よろしくな!」
すると早速いつも通りシュガーが自己紹介と握手を求める右手を差し出した。
しかし彼女はシュガー右手ではなく、左手に抱えられた紙袋に入った果物を一つ掴んだ。
「それ、あげるわ。私とぶつかってくれたのと、拾ってくれたお礼ね」
彼女は果物を服で拭うと、シャリッと爽やかな音を立てて齧った。すると驚いたように目を輝かせて齧りとった断面を眺めて呟いた。
「んー!甘い!この林檎当たりね!」
「何処だー!何処行きやがった!出てこい!!」
その瞬間、彼女が落ちてきた坂の上から沢山の人の声が聞こえてきた。
すると彼女はサッと荷物を肩にかけ、一言だけ残して突風のように去っていった。
「私はナナ。貴方とはまた会える気がするわ!」
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