第2話 鈍感なアイツ
「やあ、フック君お帰り。
リンダもお迎えご苦労様。
寒かっただろう。こっちに来て暖まりなさい。」
お父様の優しい声に、わたしとフックは暖炉の方に近づく。
「父上、母上、ただいま戻りました。」
「うむ、お疲れだったな。
少し遅かったようだが。
リンダちゃんが、朝からお前を待っていてくれたのだぞ。
ちゃんとお礼を言ったか?」
「はい叔父様、明日買い物に付き合ってもらうことになりました。」
「それは良かったわ。リンダちゃん、フックにたくさん買ってもらいなさいね。
フック、明日は寝坊はダメよ。」
「「「ははははは、」」」
フックは笑いの種にされて、少し不満気だけど、皆んなひどく楽しそうだ。
いつもの光景に、すっかり身体が温まったわたしは、いつものように、皆んなの輪に入って行った。
翌朝
「フック、早く起きなさいよ。
もうとっくに、リンダちゃんが来てるわよ。」
「もうちょっとだけ、もうちょっとだけだよ。」
「本当にあなたは変わらないわね。
ちょっとは、大人になったのかと思ったのに。
はやく起きなさい!!」
叔母様の怒りのこもった言葉に、フックはしぶしぶ起き上がる。
「リンダちゃん、ごめんね。
あっちでお茶でもしながら、待ちましょうね。」
「はい、ご馳走になります。」
小1時間ほどして、やっとフックがリビングにやってきた。
「さあリンダ行くぞ。」
「フック、朝ごはんはどうするの。」
「母上、もうすぐ昼だから、外で昼ごはんとして、何か食べますよ。」
「リンダちゃん、美味しいものを奢ってもらいなさいね。」
「叔母様、お茶美味しかったです。
行ってきます。」
「本当、リンダちゃんはよく出来た娘だわ。
是非フックのお嫁さんになって欲しいわ。
でもフックがあれじゃね。」
2人が出ていった後、フックの母ヨネンはため息をついた。
街に出たフックとリンダは、商店街をウロウロしていた。
「ねぇフック、あの腕輪かわいくない?
ねぇ、こっちの指輪も綺麗ね。」
「リンダもう何軒目だよー。
欲しかったら全部買えばいいだろ。
貴族は市井でたくさんお金を使わないと、経済が回らないからなって、アカデミーで習ったぞ。
父上も同じようなことを言っていたしな。」
「そんなこと、分かってるわよ。
でも、今はそんなことじゃないの。
本当、フックは何にもわかってないんだから。」
本当、フックってバカじゃないの!
女心って全くわかって無いんだから。
好きな人と、こうして綺麗なものを見ながら、歩き回るのが楽しいんじゃない。
何か欲しいわけじゃないのに。……
まぁ、お子様のフックには無理だわね。
「さあ、フック次の店に行くわよ。」
リンダに引っ張り回されて、そんなに広くない商店街をかれこれ3回は歩いている。
よく飽きないもんだ。
欲しいものを迷うんだったら全部買えばいいのに。
俺だって、王都で家庭教師をしてお金を貯めていたんだから、ここで買うくらいのお金は持っているんだからな。
フックの心の声は、おそらくリンダには伝わらないだろう。
「リンダ、そろそろ昼を食べないか。
俺腹ペコだよー。」
「それはアンタが寝坊して、朝ごはんを食べなかったからでしょ。
まぁいいわ。わたしも少し減ってきたから、付き合うわ。」
「じゃあ、いつものアンリおばさんのところに行こうぜ。」
フックは、わたしの手を引っ張り、商店街を走りだした。
アンリおばさんの店は、わたし達のお気に入りの食堂。
美味しいだけでなく、雰囲気がいいのよね。
お客さんも女の人が多い。
この街には珍しいオシャレな店。
アンリおばさんは、昔王都で食堂をしていて、ここに引っ越してきたって言ってたから、洗練されているのね。
わたしも、王都に行ってみたいな。
「アンリおばさん、久しぶり。いつものやつね。
リンダはどうする?」
「わたしは、お任せでお願い。
おばさんのセンスに任せるわ。」
「任せて。量はどうする?」
「そんなには、食べられないけど、デザートは多めにね。」
おばさんが作る料理は見た目も綺麗で美味しい。
しかも、メニューがどんどん増えていくから、おばさんに任せるのが一番なのよね。
しばらくして、料理が出てきた。
わたしの前には、色とりどりの小鉢が並ぶ。
初めて見たものもたくさんあって楽しくなっちゃう。
お客さんに女の人が多いのは当たり前ね。
フックの前にはこれでもかというくらいの大きなお皿に山盛りのパンと肉、野菜が乗せられている。
だいぶ前に、フックのリクエストにアンリおばさんが応えてくれたものだ。
最近は、パーティー料理として人気があるみたいだけど、このオシャレな店でこの料理を1人で食べているのは、フックだけじゃないんじゃない。
ちょっと恥ずかしいんだけど、フックが大きな口を開けてガツガツ食べる様子は清々しくって好きかも。
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