ある少女の恋物語 ~最強魔法戦士は戦わない スピンオフ① ~

まーくん

第1話 幼なじみ

秋はわたしの好きな季節。

森の木々は色づき、冬眠前の動物達は冬のエサを求めて、活発に動いている。


でも本当は、彼が生まれた季節だからかも。




わたしの名前はリンダ。


キンコー王国アーベ領に住むワダ男爵家の二女で14歳。


彼の名はフック。フック・ボディ。


ボディ子爵家の嫡男で、18歳。


家同士が古くからの付き合いがあり、ボディ子爵様もお父様も昔からの親友。


お姉様とは年齢が10歳も離れているから、小さな時からわたしの遊び相手はフックだった。


だから、わたし達も物心ついた時には、気のおけない親友になった。


でも『親友』が『想い人』になったのはいつから?


わたしの想いは、たぶんアイツには届いてないの。


だって、アイツはバカでマヌケで鈍感なんだから。



今日、アイツが王立アカデミーを卒業して、アーベの街に戻ってくる。


わたしは、朝から街外れの検問所にいた。


王都からの馬車は1日に5本。


最初の馬車はお昼前に着いた。


アイツは寝坊助だから、こんな早い時間の馬車に乗っているはずがない。


わかっているけど、アイツを探してしまう。


………


やっぱりいない。


わかっているのに、何かイライラする。


次の馬車は1時間後。


詰所にいるツバサおじさんが、『こっちで待ったら』って呼んでくれているけど、なんとなくここを動きたくない気分。


丁寧にお礼を言っておく。


次の馬車が着いたようだ。


この馬車かも!


わたしは馬車に近づき降りる人からアイツを探す。………


いなかった。


平気なふりをしていたけど、わたしが生まれる前からこの詰所にいる、ツバサおじさんはごまかせない。


「はい、リンダちゃん。熱いから気をつけてね。」


少し肌寒く感じる季節、暖かいスープは本当にありがたい。


「おじさん、ありがとう。とっても美味しいね。」


「詰所で待ったらどうだい?

馬車が来たらすぐに分かるさ。」


おじさんの気持ちは嬉しいけど、今はここで待ちたい気分。




次の馬車も、その次の馬車にもアイツは乗っていなかった。


何かあったのだろうか?

不安だけが募る。




夕焼けが山の中に消える頃、最後の馬車が、到着した。


「ふあーぁ、やっと着いたか。

やっぱり遠いよなぁ。」


馬車から降りてくる人の中から、呑気な声が聞こえてくる。


アイツだ。


『お帰り。大変だったね。』って言うつもりだったんだけど、違う言葉が出てくる。


「あんた、何してたのよ。

朝から待ってたのに、風邪をひくじゃないさ。

このアンポンタン!!」


違う、こんなこと言うつもりじゃなかったのに。


でも、出てしまった言葉は消えない。


「なんだよ!待っててくれなんて、誰が頼んだんだよう。」


やっぱり怒るよね。


わたしが悪いのは分かってる。


でもアイツの顔を見て、安心したら悪態ばっかりが出てしまう。


「だって…………」


『心配したんだもの』

たったこの言葉が続かない。


「だって何だよ!」


「まぁまぁ、フック君もそのくらいにしときなよ。


女の子を泣かしちゃいかんよな。」


ツバサおじさんが、助け船を出してくれた。


ありがとう、ツバサおじさん。


おじさんは、そっとハンカチを渡してくれる。


いつの間にか、わたしは泣いていたみたい。


本当に、ツバサおじさんって女心が分かっているわ。


アイツも爪の垢をもらって飲めばいいのよ。


「フック君、今日はお屋敷で卒業祝いのパーティーがあるんじゃないのかい。


リンダちゃんは、パーティーに遅れないようにって、朝から迎えに来てくれてたんだよ。


ちゃんと、お礼を言わなくちゃ。」


ツバサおじさんはそう言って、アイツの肩を軽く押す。


「リンダ、ただいま。待たせてごめん。」


「ううん。わたしこそ喧嘩腰でごめんなさい。


改めて、『お帰り、フック。』」


「ほら、早く行かないと、パーティーで皆んな首を長くして待っているよ。」


「やべえ。リンダ急ぐぞ!」


「うん。」


わたしはフックの荷物を半分持って、ボディ家へと向かった。


横には、ボディ子爵様の怒った顔を想像して少し青ざめている、フックがいた。

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