第3話 狩りとお弁当
わたしの家は代々アーベ領領軍の司令官を司っている。
フックのボディ家は、代々アーベ領の代官職を賜っている。
領主のアーベ家、行政のボディ家、守兵のワダ家の3家が、アーベ領を支えている。
だから、3家は結びつきが強い。
お互いが婚姻関係を結んでいて、わたしのお姉ちゃんも、アーベ家に嫁いだ。
今日は森に出る害獣の駆除をする日。
秋も深まって来ると、冬眠を控えた動物達も気性が荒くなってくる。
食糧を求めて森から出てくるものも多いため、毎年駆除が必要になるのだ。
害獣指定される動物達には申し訳ないと思うのだけど、街の人達の安全を守るためにはしょうがない。
当然この時期には、街の人達にも注意を呼びかけているけどね。
お兄ちゃんやフックも狩に参加する。
わたし達女性陣は早朝から、お弁当の準備だ。
いつもは各家の使用人に料理は作ってもらうんだけど、この日だけは伝統的に、わたし達女性陣だけでお弁当を作るのが、慣例になっている。
別にフックを意識したんじゃないんだけど、アンリおばさんの店の大皿料理を真似てみた。
前におばさんに作り方を教えてもらっていたんだ。
狩りには、30人くらい行くから、いくら多くても大丈夫だよね。
昨日の夜から仕込んでいた材料を出してきて調理を開始する。
「リンダちゃん、気合い入ってるねぇ。今年からフック君も狩りに参加するものねぇ。」
手伝いに来てくれている近所のおばさんが、からかってくる。
「でも上手いモンだね。
リンダちゃんは良いお嫁さんになれるよ。」
「もおう、おばさんたら。
別にフックのためじゃないよ。」
「いいから、いいから。
知ってるよ。
アンリに聞いたよ。フック君の大好物なんだってね。」
おばさんの一言で、調理場は大笑いに包まれた。
『穴があったら入りたい』って、きっとこんな時に使うんだろうな。
「さあ、出来上がったらどんどん入れていって下さいねー。」
わたしも急いでお弁当を作り終えて、狩りに持って行くバスケットにいれた。
初めて作ったけど、上手くいったと思う。
アイツは気付いてくれるかな。
15歳になって成人すると狩りに参加出来る。
俺はアカデミーに行ってたから、今年が初参加だ。
自分よりも若いヤツもいるから、初めてだとしても、貴族としての威厳を見せつけなきゃな。
………………………………
……………………
…………
意気込んでみたけど、結果は散々だった。
弓を射っても獲物まで届きやしないし、罠にかかったイノシシを捕まえようとして、反撃を食らったりと、良いとこ無しだった。
正直、お弁当の味も覚えていないほど、へこんでた。
俺は散々だったんだけど、狩り自体は近年稀にみる大収穫だったみたいで、皆んな大喜びでアーベ家の屋敷に戻った。
「さあ、皆んなご苦労様。
今年は皆が頑張ってくれて、大収穫となった。
冬に配布する干し肉も今年はいつもよりたくさん配れそうだ。
期待しておいてくれ。
今日は無礼講だ。皆んな遠慮なく飲んで食べて欲しい。」
アーベ様のあいさつを皮切りに、大宴会が始まった。
3家の使用人が料理や給仕してくれるので、わたし達女性陣も参加出来る。
わたしは、参加してくれた領民の皆んなに酒を注ぎながら、1日の労を労って廻る。
これも、いつもの慣習だ。
参加してくれた領民は、皆無償の有志で集まってくれている。
顔触れは毎年だいたい同じだから、顔見知りの方が多い。
「リンダちゃん、お弁当美味しかったよ。
貴族のお嬢様なのに上手いもんだ。
可愛いし、機転もきいて、その上に料理も上手だし、まさしく才色兼備だね。」
「おじさん、今日はご苦労様でした。
お弁当褒めてくれてありがとうね。」
わたしは、皆んなが次々に褒めてくれることに、少し調子に乗っていたみたい。
アイツが落ち込んでるのを見逃してしまっていた。……
一通り廻り終えて、わたしはフックの横に座る。
褒められて少し有頂天になっていたわたしは、フックに話しかけた。
「わたしの作ったお弁当どうだった。」
「………」
「ねぇ、ねぇったら。
わたしの作ったお弁当どうだった!?」
「……ん、リンダか。弁当?あっ、美味しかったよ。」
気持ちの入っていない、おざなりな返答。
「あんた、わたしのお弁当美味しくなかったの。
はっきり言いなさいよ!」
「美味しかったって言ってるじゃないか!!
煩いな!ちょっとほっといてくれよ!!」
そう言って、フックは部屋を出て行った。
なんなのよ!!まったく!!
せっかくアイツのために一生懸命練習して頑張って作ったのに。
皆んなが美味しいって褒めてくれたのに。
なんで一番褒めて欲しいアイツが、あんな態度なのよ。……
堪え切れずにわたしは泣き出してしまった。
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