世界的ロックスター、ブルーローゼズの魅力を語る
青いバラ8本目 ローディー、トーマスの話 1
ブルーローゼズの存在を知った頃、俺は地元マンチェスターで活動していた、あるバンドにくっついてローディーをしてたんだ。ローディーっていうのは、ライブをする時に機材をセッティングしたり、最中のトラブルに対処したりする、まぁ、いわゆる「縁の下の力持ち」のような存在のことだな。
ブルーローゼズは、そりゃあすごかったよ。
彼らはずっとインディーで下積みを積んできたんだけど、地元の音楽好きな連中の間では、ずっと彼らにまつわる噂で持ちきりだった。どんな噂だって? 「こいつらはすげぇ。こいつらが次に何をやるかが楽しみだ」って内容さ。どの辺がどんな風にすごいのかは、これからおいおい話していってやるよ。
まぁ、そう焦るなよ。偉大なロックバンドには、特筆すべきエピソードがてんこ盛りで、そのストーリーは気が遠くなるくらい長いって相場が決まってるんだ。何より、そんな貴重な思い出話を俺みたいな世界的ロックスターの口から直に聞けるんだから、これをたまたま開いて読んでるやつらは本当にラッキーだと思うね。この状況を楽しまなくちゃ。まぁ、これからもいろんな彼らの関係者がいろんなことを話すと思うし、本当に長くなるから、とりあえずリラックスしてコーヒーでも淹れてこいよ。おっと、俺の分も頼むな。もちろんブラックで。
そうだな。まず初めに、俺が何者かを話すことにしようか。
俺、トーマスは北アイルランド人の血を引く父親と、彼がイングランドの北部の田舎町で出会って恋に落ちた、俺たちのおふくろの間に生まれたんだ。俺たちは三人兄弟で、俺の上に兄貴がいて、次に次男の俺が生まれて、末っ子は、そう、お前らもよく知ってる通り、あの悪ガキさ。俺たちを育てたおふくろはマジで大変だったと思うぜ。だって、自分の息子にうちのロックバンド、クラウドバーストの悪名高いフロントマンのウィリアムがいるんだからな。え? 俺? そういう俺はどんなガキだったかって? 俺はあいつに比べたらずっとまともだよ。ガキの頃からな。くだらない質問をするんなら、これからすぐ日本に飛んでお前らの悪口を言いまくってやるからな。ジョークだよ、ジョーク。俺って、卓越したソングライティングの才能だけでなく、お笑いの才能もあるからさ。こないだも最新アルバムとツアーの宣伝のために投稿したコメント動画がさ、「キャラが立ってて面白すぎる」ってわけで、SNSでバズりまくってるらしいんだよ。俺が所属するレコード会社の担当者が血相変えてさ、「トーマス、見てください! いいねの数が止まりません!!」なんて、自分のノートパソコンの画面を俺に見せてきたよ。話題になるのが嬉しくてしょうがないって感じで、興奮して黄色い悲鳴を上げてさ。彼女のあの時のテンションの方が俺にとっては面白かったけどね。ははは。思い出しても笑えるな。
調べてみると、どういうわけか知らないけど、俺がコメントしてる動画は日本でウケてるらしいんだ。まぁ、俺としては普段通り、思いついたことをそのまま言っただけでさ。そこまでウケを狙ってたわけじゃないんだけど。実は、俺の日本人の友人が教えてくれたんだよ、「日本には五月病というものがあって、五月は元気がなくなる日本人が多い」ってさ。鬱っぽい気分になって、重症になると会社や学校に行きたくなくなるし、最悪の場合、自殺する人間もいるそうだ。
俺は信じられなかったね。だって、五月なんて一年で最もステキな季節だろ? だって、その頃には俺が愛するリヴァプールFCが優勝を決めるだろうし、何と言ったって、俺の誕生日もあるんだぜ? 最高だろ? 気分が落ち込んだり、自殺したりする理由がどこにあるんだよ。信じられないね。俺のファンなら俺の生まれた日がある五月が毎年巡ってくる事実に大喜びするはずだろ? シンプルにそう思ったから、そのまま言ってやったんだ。それが面白かったみたいだな。ついでに、「それでも元気が出ないなら、どっかの音楽配信サイトに飛んで、俺のイカした新曲をパソコンにいっぱいダウンロードして聞くんだ、それが特効薬になる、こんなちっちゃい部屋の真ん中で踊っちゃえよ。曲が終わる頃には君たちの気分はスッキリさ」って言ってやったんだ。ちゃんと自分の曲の宣伝もしてるだろ? いくら俺が世界的なロックスターでも、でっかい新しい家を買ったばっかりだから、俺も金稼ぐのに必死なわけよ。いつでも俺は仕事熱心なのさ、根が真面目だからね。ははは。まぁ、とにかく、日本の人たちにはいつも支えてもらってて感謝してるよ。彼らはとっても勤勉で真面目だから、いろんなことを真に受けちゃって、きっと深刻に悩むんだろうな。
おっと、話が大幅にそれちまったな。一体、何の話だったっけ? あ、そうだ、俺が何者かって話ね。OK、続けようか。
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