青いバラ6本目 ジョシュの話 2

 イワンがブルース・リーにのめり込んでいったのはよく覚えてる。


 公園の砂場で遊ぶのにも飽きた頃、あいつのうちに遊びに行ったんだ。彼の親父さんが集めたコレクションは、ビデオをはじめフィギュアなんかのグッズもあって、それはもうすごい量だった。あれは圧巻だったな。俺たちは「燃えよドラゴン」のビデオを一緒に見たんだ。確かにカッコいいなとは思った。大味の、外国人にいかにもウケそうなバトルシーンの数々と、東洋人のルックスを持つカンフー使いの主人公との対比が良いよな。俺は、東洋の人たちには「繊細そう」という印象があるんだ。日本のスタジオジブリのアニメーションを見ても、色使いやストーリーから、いかにも繊細そうな感じがするだろ。そういえば、あいつのうちのダイニングに、どういうわけか真ん中から真っ二つに割れたテーブルがあったな。あれは何だったんだろう。


 俺はといえば、やっぱり絵を描くことが一番好きだった。イワンはどちらかといえば体育会系だけど、俺は、典型的な文化系。絵を描いたり、好きな本を読んだり、時には空想にふけったり。"ナード"なヒーローを目指してたんだ。今風にいうところの「オタク」に近いかもな、ははは。

 イアンの人生のロールモデルをブルース・リーとするなら、俺にとってはウォルト・ディズニーがそれだった。ガキの頃はね。今はちょっと違うかも。それが誰かは、秘密。とにかく、ディズニーが作った世界初の長編アニメーション「白雪姫」は俺にとっても衝撃的だった。カラフルで、作画の動きが滑らかで、すごくクリエイティブ。音楽も耳に残りやすくて良い。彼はアニメーションを「子供が見るだけの娯楽」から「大人の鑑賞にも耐えうる芸術」に昇華させたんだ。本当に偉大な芸術家だよ。俺は「絵と音楽で表現された芸術作品」を自分もいつか手掛けたいと思ったんだ。ディズニー黎明期の作品づくりに貢献した九人のアニメーターたちのことを「ナイン・オールドメン」というんだけどね、「ナイン・オールドメン」に仲間入りしたいと、本気で夢に見たよ。


 だから、中学を出たあとはカレッジでアートを専攻したし、実はほんの一時期だけど、ある制作会社でアニメーターとして働いていたんだ。本当は作画担当になりたかったけど、まずは見習いということで、彩色をやらせてもらった。プロの現場で学ぶことはたくさんあって、楽しかったよ。まぁ、そんな俺のアニメーターへの情熱も、だんだんと「ブルーローゼズ」のギタリストの方に傾いていくんだけどね。

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