ジョシュとイワンと「燃えよドラゴン」
青いバラ5本目 イワンの話 4
「砂場の出会い」以来、俺とジョシュはよくつるむようになった。お互いに五歳児だし、なんとなくウマが合うというか、まぁ、自然な成り行きで仲良くなったんだ。あいつとはそれぞれの好きなものをよく見せ合いっこして遊んだ。
ガキだった当時の俺のヒーローは、ムービースターのブルース・リーだった。
大人になった今でも、彼は俺にとって世界一クールな男だけどね。もともと、親父が彼の大ファンで、彼が自宅の居間でくつろいでる時は決まって「燃えよドラゴン」のビデオをテレビで流すんだ。仕事がない時にどうしても構ってもらいたくて、俺は親父のよく鍛えられた職人の膝に乗っかって、悪党相手にカンフーバトルを繰り広げる彼の勇姿に熱中した。まぁ、よくあるきっかけだよな。
考えてみると、俺の思想や趣味嗜好、パーソナリティーの根幹部分は、親父からの影響が大きいんだ。彼は社会主義者で、そこら中によくいる保守的なイギリス人の思想をあわせ持ってなかった。実家の書斎にはそれ関係の本がずらっと並んでるし、彼からよくソビエト連邦や東ドイツの話も聞かされたよ。だから俺は、差別主義者じゃないんだ。人種や見かけで、誰かのことを判断したりしないし、それを根拠に攻撃することもない。俺は、一生をかけて差別と闘ったブルース・リーを人生のロールモデルとして尊敬する男なんだから、そうなるのは当然の帰結だよな、自分でいうのもなんだけど……。
そんなわけで、いつしか俺は彼のカンフーアクションを見よう見まねで完コピすることにのめり込んでいった。繰り返し、何度も何度も、親父の持ってるビデオの再生と巻き戻しを往復して、もうテープが擦り切れるんじゃないかってくらいやったよ。あ、ちなみにビデオデッキのリモコンは三回くらい壊したかな。やりすぎて巻き戻しボタンが取れちゃったんだ。ヌンチャクはまだ持ってないから、そこら辺に転がってた棒を適当に振り回してポーズだけばっちり決めた。もちろん、今は持ってるよ。香港に行った時に買ったんだ、ブルース・リー仕様のね。
それに、そうそう、飛び蹴りシーンを真似してソファの上から飛び降りたら、勢い余ってリビングのダイニングテーブルの上にダイブしたこともあったな。もうびっくりしたよ。それに気がついた母親が血相を変えて、親子揃ってめっちゃ怒られたよ。「お父さんが何百回も見せるから子供が真似するのよ!」ってね。ははは。男だったら誰でも一度はやるよな。頭の中で憧れのヒーローと自分を重ねたりしてね。
まぁ、わんぱく盛りの息子を持つ世のお母さんは大変だよな。心配が絶えないって感じでさ。俺がいうなよって話でもあるけどね。
いつまで経っても飽きないでカンフーアクションの真似ばっかしてるもんだから、小学校に上がる頃には、家から一時間近く離れた空手道場を母親が見つけてきて、放課後は自転車を漕いで毎日のようにそこへ通った。
それが、俺の格闘技人生の始まりだった。いっときは音楽よりも夢中になってハマったんだ。
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