第20話 キズナの分析

「よーし! いいぞ太陽!」


 キズナは太陽に惜しみない勝算を送った。

 観測中の太陽の運命にも大きな乱れはなく安定している。

 修正を感知したバグが反応し、抵抗を見せてくるかと思ったがそんなことはなかった。

 キズナは最初の一歩が成功に終わったことを確認し、ほっと大きな胸を撫で下ろした。


「第一段階は成功。観測中の太陽の運命にも、それに関する数値にも異常はナシ。なかなかいいスタートじゃん」


 舞台は用意されていた。

 シナリオも正常に進行していた。

 途中危ないところもあったが、太陽の行動も書き換えた予定通りの行動だった。


 物語の序盤は望みどおりに終わった。

 キズナの心に充足感が満ちていく。


「うん、この調子なら問題ないな」


 太陽のアカシックレコードを閲覧しながら、キズナはそう言葉を漏らした。

 このまま上手いこと進行すれば、太陽に巣食ったバグは問題なく取り除かれることだろう。

 元の幸せな運命へと進んでいくことだろう。


 シナリオどおりならば、太陽はこのまま彼女を伴って図書館へ行き、彼女に勉強を教え親密度及び好感度を高めることになる。

 図書館と言えば静かで落ち着ける場所だ。

 そのような場所で、運命を揺るがすような大きな事態は、太陽がヘタを打たない限りまず起こり得ない。

 バグが何かしらの抵抗を見せる可能性はあるものの、充分対応できる範囲だとキズナは予測した。


「さてさて、彼女……八舞真奈ちゃんだっけ? 彼女の状態は、と」


 続いてキズナは真奈のアカシックレコードへ画面を切り替えた。


「うん、太陽の運命と交わってる……うん? 交わってるんだけど、何だこれ?」


 真奈の運命を確認して、キズナはいぶかしげな表情を見せた。

 真奈の運命は太陽と問題なく交わっている。交差している。言葉の字面だけを見るならば、何も問題ない。

 しかし――、


「なにこの絡まり方……。何重にも複雑に絡まり合ってる」


 LOVEで運命を確認すると、二人の運命は何重にも、螺旋状に絡まっていた。

 決して解けることのない――、まるで、DNA構造のように。


 こんな絡まり方、見たこともない。

 天界にあるデータバンクにも記録されていないと思う。


 これはいったい……?

 キズナは経験と知識から、一つの仮説を導き出す。


「これは……。多分今のイベントで、予想以上に太陽への好感度が上がったからかな?」


 それが原因で運命が一気に絡まり合って、こんな形に交差している。

 キズナはそんな答えを出した。


 念のため真奈の状況も確認したが、好感度の上昇が確認されている。


「茂手くんって意外と力持ちなだったんだ」

「お姫様抱っこ、か。恥ずかしいけど嫌じゃないわね」

「ちょっと、かっこいいかも」


 若干チョロイン気味だがありえないことじゃない。

 年頃の乙女は夢を見るものである。

 自分を助けてくれた王子様に、案外コロッと転ぶものだ。


「うん、多分オレの予想正解じゃないかな?」


 とりあえずそう判断していいかもしれない。

 まだまだ油断は禁物だが、それくらいは思ってもいいだろう。

 キズナは映像を切り替えた。


「ふふ……太陽ってば嬉しそうな顔しちゃって」


 LOVEに映し出された太陽の顔は赤い。

 恥かしさと嬉しさが入り混じった表情だ。

 完全に舞い上がっている。


「まあ、無理もないか。ずっと片思いしていたみたいだしね」


 浮かれる太陽を眺めたキズナは、思わずそう微笑んだ。

 自らの胸の奥でこの時生まれた、微かな痛みには気づかないまま。

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