第12話 ボツ食らいまくってる作家ってこんな感じなのかな?

「こんな感じでどうだ?」


「全然ダメ。やりなおし」


 バグ修正のために戦うこと30分。

 早くも俺は、最初の第一歩目でつまずいていた。

 何につまずいていたのかと言うと――、


「なら今度のはどうだ? 結構いい感じになったと思うけど?」


「いいや、これもダメだよ。この程度じゃあバグには効果は見込めない。もっとベタなシチュエーションでお願い」


 シナリオ作成である。

 自分が幸せになるためのルートである、〈Wish Star〉を死傷する際のラブコメシナリオの内容に、俺は延々とつまずいていた。


 もう30分経過したのに、キズナからのOKはもらえていない。ボツの嵐である。

 漫画家やラノベ作家だったら心が折れるぞ。


「変にこだわらなくたっていいんだよ。素人なら素人らしく、何かの真似事だっていいんだからさ」


「それは、そうなんだけどな」


 たしかにキズナの言う通りだ。

 別に俺は作家でもシナリオライターでもないし、これは誰かに評してもらうわけでもない。

 なので、既存作品の真似で十分なのはわかっている。わかっているのだが……なんかこだわりたいじゃん?

 自分の人生になるわけだし。


「レベル4バグを除去するために必要なもの、それはずばりフラグの質! そして量なんだよ!」


 キズナいわく、多くの人が『これは恋愛フラグ』と認識していればいるほど良質のフラグであり、〈Wish Star〉で書き込んだ時に強い効果が見込めるらしい。


 さっきの美星先生の例に挙げると、『別れる寸前のカップルが電話一本で仲直り』+『そのままの勢いでプロポーズ』、この2つのベッタベタなシナリオ展開は、多くの人が「あ、こいつら結婚するな」と、先読みできる。


 なので、良質の恋愛フラグが2本。

 美星先生はバグ持ちではなかったが、もしもそうであればレベル3程度なら修正できたとのことだ。


「太陽の場合はレベル4――知っての通り最悪レベルのバグだ。だから、誰が見ても『フラグが建った』と思えるような良質シナリオをたくさん用意する必要があるんだよ。できれば八つくらい欲しいかな」


 ……こいつは俺に死ねというのだろうか?

 作家でもシナリオライターでもない俺に八つのベタ甘シナリオを作れと?

 そんなんできたら作家デビューしてるわ。


 この30分間でOKを貰ったシナリオはたったの一つ。

 俺の相手となるべき恋人との〈出会い〉のみだ。


 今度の休日の午前10時に図書館へ行く途中、ナンパに絡まれている彼女を、俺が颯爽と助けるといった、典型的すぎてノスタルジックな気分さえ覚えるような、ベッタベタなシナリオのみ。

 このレベルのベタなシナリオをあと七つ、合計八つ作り出さなければならないらしい。


「これは?}


「……これもダメ。悪いけどやり直して」


 無慈悲にキズナがそう告げる。

 この天使、鬼編集かよ。


「なあキズナ、一体何がダメなんだよ? 素人意見かもしれないけど、俺にはどれもさっきOKもらったヤツと同レベルのシナリオに見えるぞ」


「オレにもそう見えるんだけどさあ。でもダメなんだ。LOVEで結果をシミュレートしているんだけど、充分な効果が見込めていない」


「マジかよ……どうしろって言うんだ?」


「残酷なようだけど、数出す以外にないね」


 ベタ甘シナリオ100本ノック開始。


「わかったよ! やってやんよ! かかってこいやクソバグ野郎! 殺せるもんなら殺してみやがれ! 俺は絶対に死んでなんかやらねえぞ! クソな運命なんて、絶対に受け入れねえからなああぁぁぁっ!」


 絶対諦めない。諦めてたまるものか。運命になんて負けてたまるものか!

 俺は……俺は、絶対に幸せな未来を掴み取るんだ!


 本来俺が送るはずだった幸せな未来を!

 あらゆる面でリアルが充実しているリア充な人生を!


 家族を早死になんてさせてたまるか!

 内蔵を売りに出してたまるか!

 32歳で不幸のどん底のまま人生を終えてたまるか!


 俺は、俺はあああぁぁぁっ!

 絶対に、幸せになるんだああぁぁぁぁっ!


     ☆


「お、終わった……全部できたぞ…………」


 あれからさらに1時間、脳汁まで全て絞り出す勢いで頑張った俺の前には八本のシナリオが出来上がっていた。

 もちろん、全て合格済みである。

 人間やればできるもんだな!


「本当にお疲れさま。素人なのによく頑張ったね。偉い!」


「ふ、まあそれほどでもあるけどな」


 これも書いている途中、脳内で勝手にキャラクターが動き出してくれたおかげだ。

 俺の場合、そのキャラクターが実在する人物だから、そういう現象が起こったのかもしれないな。


 ちなみにそのキャラクターはもちろん俺、そして八舞さんだ。

 一年のころからずっと好きだったという想いが、俺にインスピレーションを与えてくれたというわけだ。

 八舞さんマジ女神。


「ふぁ……」


 やることが終わった達成感から気が緩んだのか、キズナがかわいくあくびをした。

 まだ夜の9時過ぎではあるけど、そろそろ寝る準備をする人もいる。

 仕事で疲れただろうし、無理もないと思う。


「ごめん太陽、オレ、ちょっと眠くなってきちゃった」


「了解。じゃあ、今日はもうお開きだな」


 やることは終わっているし問題ない。

 もしかしたらキズナは残っているのかもしれないけど、肝心の俺の作業は終わっているし、明日に回しても問題ないだろう。無理は禁物だ。


「またなキズナ。今日はお疲れさま。帰って寝てくれ」


「ん、お疲れさま。それじゃお休みー」


 そう言ってキズナは、俺の部屋へと歩いて行った。


 おい。ちょっと待てや。



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