第2話 プロローグ 

「以上が今週のレベル1、及びレベル2案件の報告となります」


 会議室。


 木製の長いテーブルが組み合わされ、数字のゼロの形に並んでいる。


そのテーブル一つにつき三脚ずつ、学校の集会などによく使われるパイプ椅子が並べられている部屋の中で、中間管理職っぽい中年の男が椅子に座った。


 彼は、より高そうなスーツを着た、様々な年齢層の男女にスクリーンを使い、何かの報告をしている。


 雰囲気や内容から、おそらく仕事内容の報告。


 しかし、《レベル1》《レベル2》など、専門用語を使用しているため、外部の者には内容がイマイチ理解できない。


 まあ企業の業務報告など部外者には分からないように専門用語を盛り込んでいるものだ。


 この企業が特別というわけでもない――が、《ある理由》によりこの企業は特別だと言わざるを得ないかもしれない。


「先月、関東一円で発生したレベル1案件、計237件。レベル2案件、10件。いずれも人命の危機に発展することなく、発症前に対処済みです。修正バッチは正常に適用されたとみていいでしょう」


 中年男はスクリーンの円グラフ&棒グラフを指し棒で指し示すと、「どうだ? ウチの部署は優秀だろう?」と言わんばかりに、胸と《背中に生えた白い翼》を張る。


 それに合わせ、頭の上に浮いている金色の輪も輝きが増した。


 もうわかったとは思うが会議に参加している者はみな人間ではない。


 彼ら&彼女らは、天使と呼ばれる別次元の生命体だ。


 地球に住む人々の運命を管理している。


 罪もない人間が、不幸に会うことのないように。


 幸せな人生を全うできるように。


 たとえそれが叶わなくても、来世で幸せになれるように。


 このような定例報告会を開き、部署間で情報共有を行っている。


「以上で監査課の業務報告を終了します……と言いたいところなのですが――」


 何事もなく普通に終了するかと誰もが思っていたところで、中年男の雰囲気が変わった。


「……残念なお知らせです。数十年ぶりに大規模バグが発見されました。レベルは――4」


 ――ガタッ!


 話を聞いていた天使たちが全員総毛だった。


 一人の例外もなく、全員深刻な表情を浮かべている。


「場所は日本の東京都、対象者は17歳高校生です。先日、ウチのスタッフが《アカシックレコード》のチェック中に発見しました」


    ザワ……ザワ…… 


 会議室にざわめきが発生する。


 会議室にいる誰もの顔に、焦りの表情が浮かんでいる。


 報告した監査課の男も例外ではない。


 すでに知っていたため表情こそ変わっていないが、額には大量の汗が浮かんでいる。


「バグの種類は《ヴォイド》、あらゆる恋愛フラグを無かったことにしてしまう、文字通り《虚無》を象徴するバグ。放っておけば、本人のみならず他者のフラグも無に帰し周囲の人間を不幸にしてしまうでしょう」


 彼を中心として日本――いや、下手すれば世界中に恋愛アンチの波が吹き荒れる。


 そうなれば人類の未婚率が急上昇し、人類滅亡のカウントダウンが始まってしまう。


 そうさせないためにも、対処は必須。


「レベル1や2とは違い修正バッチでは効果が見込めないため、本部から天使の派遣と修正ツールの使用許可をお願いします」


 反対意見はない。


 報告からわずか数分――すべての書類が用意され、承認印が押される。


「迅速なる対応ありがとうございます。更に申し訳ないのですが、明日より各部署よりスタッフを選出し事の対応に当たらせてください。24時間体制でサポートする、緊急対策特別チームの設立を――」  」


 人類の脅威に対応するための、天使の協議は進んでいく。


 人知れず修正を終え、罪なき善良な人々に、幸せな人生を全うさせるために――。

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