サキュバスは、濃厚接触で奉仕する
サキュバスと風俗産業
「
女が男とまぐわってお金がもらえるなんていう、
とんでもなく素晴らしいお仕事が
あるそうじゃあないですか?」
それは移民者達が
こちらの人間世界にやって来て
まだ間もない頃……。
当時の移民者達は
こちらの世界のことが
まだあまりよく分っておらず、
何かと手探り状態でもあった。
「あぁ、風俗と言う業種のようだね」
ここは都内にある喫茶店。
そこでサキュバス移民団の
リーダー的存在であるアイリンと、
その妹分であるリリアンは、
大好物であるパフェを食べていた。
サキュバスにとって
経口摂取でのエネルギー補給というのは
非効率そのものではあったが、
異世界から来たと言っても
そこはやはり女子なのか、
甘い物、特にパフェは二人の大好物である。
まさに甘い物は別腹ということだろうか。
「その風俗ってのは、
私達サキュバスには
それこそ天職と言えるんじゃあないですか?
男の精気を摂取できて、
その上お金までもらえるんですよ?」
妹分のリリアンは
黒のゴスロリ衣装に身を包んで
まるで十代の少女のような見た目であったが、
実年齢的にはもう百年以上の時を生きている。
「もちろん、
いつかはそういう方面へも
進出していくことになるだろうとは
思うんだけどね……」
一方のアイリンは
サキュバスのリーダー的な存在だけあって、
とてもこの世のものとは思えない美しさで
色香をだだ漏れさせていた。
ちなみにこちらは、常日頃
女に年齢を聞くもんじゃない
と言って誤魔化しているが、
千年以上もの時を生きる
レジェンド級サキュバスだと噂されている。
この世界に移民して来た
他の種族達は
通常の人間同様に労働力を提供し
対価として賃金を得て、
そのお金で食料などを買って食べて
エネルギー補給を行っていく。
だがサキュバスには
それだけでは済まされない事情がある。
彼女達の生命維持のためには、
この世界では売っていない、
お金では買うことが出来ない、
男の生体エネルギーが必要となるためだ。
そのため、サキュバス達は各人で
暴行や逆レイプなどにならないように、
相手の男性の了承を得た上で
自前で男の生体エネルギーを調達している。
ただ、まだ移民者達への
差別や偏見も激しかった当時は
協力的な男性も少なく、
充分な精気を摂取することが出来ず、
結局は、人間と同じように
食事を経口摂取して
生命エネルギーに変換するという
サキュバスからすれば
なんとも非効率的な方法を
取らなくてはならなかった。
そう考えると、
賃金を貰いながら男の精気も得ることが出来る
風俗産業というのは
まさしく打ってつけの仕事のように思われる。
「だけどね、
そういう仕事で身を立て、
生計を立てている
こっちの人間の女だっているわけさ。
今、そういう女達の
稼ぎ口を奪うような真似をして反感を買うのは
あたしはどうかと思うんだよ。
こっちの世界にやって来て、
筋道も通さないうちに、
いきなり女使った商売はじめますじゃ、
異世界からの移民者に求められているものは、
労働力が足りない部分を補うことであり、
こちらの人間から仕事を奪うことではない、
そうアイリンは解釈していたのだ。
「例えばだよ、うちらの
その風俗ってのをやるとしてだ、
相手から精気も吸い取っているのに、
人間の女と同じ料金って訳にはいかないだろうよ。
それでだ、精気吸い取ってる分、
特別料金、サキュバス割引とかにしたとするだろ?
こっちの世界じゃ、
お金が一番大事みたいだからね、
割り引きがあるうちらの方が
人気が出ることも十分有り得る訳だ。
そうなると
人間の女や風俗関係者からは不満も出るし、
やっかまれもするだろうね」
実際にそうなるであろうことは、
アイリンには容易に想像が出来た。
何故なら
男を虜とりこにすることに特化したサキュバスには、
男の美的感覚に準拠するところの美人しかいない。
それは種族特性でもあり、
他の生物が生き残るために
様々な特徴を備えているように、
サキュバス達が生き残るための術でもある。
キリンが高い木になる実を食べるために
首が伸びたように、
外敵から身を守るために
表皮を硬質化した生物がいるように、
進化論的なレベルでの話なのだ。
「こっちの世界のAVとかアダルト動画とやらに、
出るぐらいならアリかもしれないけどね……」
移民当初は、
サキュバス移民団のリーダーであるアイリンが、
風俗を生業としている人間女性に配慮していたため、
サキュバスの風俗産業等への進出は
あまり積極的なものではなかった。
彼氏のいないサキュバスは
慢性的なエネルギー不足にも陥ったが、
リーダーであるアイリンが
みなを納得させて従わせるだけの
カリスマ性を持ち合わせていたため、
意を唱える者もほとんど出ていない。
「ただでさえね、
あたし達がこっちの男に手を出したせいで、
この国の男女の恋愛が減った、
婚姻率が下がった、出生率が下がった、
そんないちゃもんを付けられるんじゃあないかと、
あたしは内心ヒヤヒヤしているんだよ……。
そんなことになったら、
それこそあたし達ちゃ
ここから追い出されかねないんだからね」
移民者サキュバスのリーダーとして、
そんなことを危惧していたアイリン。
しかし、その後
人間世界に起こった歴史的な一大事により
サキュバスを取り巻く状況は
著しく変わって行くことになる……。
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