暴食な悪魔は、宇宙飛行士のバディになる
お喋りで食いしん坊な悪魔
「まさか、僕が……
こんなところまで
来ることになるなんてねえ」
「まぁ、そうだよな……」
宇宙飛行士のヒューイは
彼の意見に同意した。
ここは宇宙船内、
彼等が乗る船は今まさに
外宇宙を光速航行中。
そしてこの船内には
彼とヒューイの二人しかいない。
「…… まぁ、お前、悪魔だもんな」
宇宙飛行士ヒューイのパートナー、
バディであるベルゼは
人間の姿に寄せてはいるものの
角と尻尾を生やした
正真正銘の悪魔だった。
「普通ならさぁ、悪魔はまだ
移民が認められていないじゃない?」
こちらの世界の人間に
危害を及ばす可能性がある悪魔は
未だに移民を認められてはいない。
彼はこの任務を引き受けることを条件に
特例で移民を認められた
悪魔の移民者第一号でもある。
「それなのに……
ヒューイが居る世界に来られただけでも
すごいって言うのに
まさか二人して宇宙旅行で
こんなところまで来ちゃうなんて
笑っちゃう、おかしいよね?」
「まぁ、そこは
お前が食いしん坊だったことに
感謝した方がいいだろうな」
「食いしん坊って言い方はやめてよ」
「せめて悪魔らしくさ、
暴食とか貪欲って言って欲しいね」
「あぁ、七つの大罪な
でもさぁ、お前ベルゼって名前だけど
ベルゼブブとは関係ないんだろ?」
「まあね、あっちは
人間の欲望を司る悪魔って立ち位置だけど、
僕の場合は、僕自身が暴食なだけだからね」
ベルゼが食いしん坊で暴食と言っても
人間と同じ食料を口にするということではない。
宇宙船に乗せられる荷物には限りがあるし、
ヒューイの生命維持に必要な
何年分もの宇宙食だけでも
ようやく積み込んだという程度なのだから、
もしべルゼが人間と同じ物を食しているのなら、
そんな大喰らいを乗せるだけ邪魔
ということになってしまう。
暴食なベルゼの食べ物は他にあるのだ。
「まぁ、俺は
このとんでもなく長い旅に
独りぼっちにならずに済んで、
お前みたいなお喋りな悪魔が
退屈しのぎの相手になってくれるってだけでも
助かったってのは間違いないな」
「そうそう、
僕達もう契約しちゃってるしね
悪魔は契約に厳しいから、
覚悟しておいてもらわないと」
本来この宇宙飛行は、
自律学習型AIによって
完全制御されている宇宙船に
ヒューイ一人だけで搭乗する予定だったのだ。
何年も、下手をすると
十数年かかるかもしれない宇宙旅行、
その期間をたった一人で過ごすというのは
精神に異常を来たしかねない、
ヒューイのメンタルケアを考えた上で
暴食の悪魔べルゼが
一緒に同乗することになったという経緯がある。
そのメンタルケアというのも
単にヒューイのお喋り相手になる
ということだけではない。
「そもそもさぁ、
悪魔が宇宙に生息する筈はないんだよね
神が人間の信仰の上で
存在が成り立っているのと同じで、
僕達はそのアンチ、カウンターな訳だからさ
本来、人間の生活環境ではないところに
悪魔は存在出来ないんだよね
まぁ、だから僕がこの宇宙に居られるのも
ヒューイがここに居てくれるお陰ということだね
そういう意味では、
まさしく二人は運命共同体、
死ぬ時は一緒というやつだよ」
「お前、それでよく参加する気になったな?
自分からそんな危ない橋を渡るような真似
しなくてもよかったんじゃあないのか?」
「そこは、まぁ、
君に一目惚れしたとでも言うべきかな
君ならきっと
僕が食べたことがないような
至高のご馳走を与えてくれると思ってね
それに、まぁ、安全第一で
保守的な悪魔ってのも変じゃない?」
ベルゼはそう言って楽しそうに笑う。
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