お金儲けと信仰(2)
利益の追求、金儲け目当ての
理事長の思惑に反して、
ヒーリングを受けたくても
高額治療費を払えない人々のために、
フローラは非番の日に
無償でその能力を使い続けた。
本来であれば、
オフでプライベートなので
病院が関与するところではない筈なのだが
さすがにそういう訳にはいかなかい。
「困りますねえ、シスター
勝手にそんなことをされては」
理事長室に呼び出されたフローラ。
そこにはたまたま居合わせた病院長と
外科医
「あなたが無料で
病気を治してしまっては、
この病院で高い治療費を払って
治療を受けているお客様が馬鹿らしい、
当然不平不満も出て来るでしょう
そういうことも考えていただかないと
困りますねえ……」
「それでは、
お金の無い人達は見殺しにしろと
そうおっしゃるのですか?」
「限りあるものは
力がある者が優先的に利用する、
それはあなた方が元居た世界でも
同じだったでしょう?
こちらの世界では、
その力というのがお金だという、
ただそれだけのことなのですよ」
「しかし、そんな生き方を、
神の教えに背くようなことをすれば……
神の御加護が
受けられなくなってしまいます……」
「神の御加護?」
「要するに、こいつ等の
ヒーリングが使えなくなるってことですよ」
そこに口を挟んだのはまたしても
意外なことに氷室だった。
「こいつ等は
二十四時間、三百六十五日、
いつかいかなる時も神の教えに殉じ、
人生すべての瞬間を
神に捧げて生きて来ているんです
ヒーリングのというのは
そのご褒美のようなもの
まぁ、つまりこいつ等の能力は
神の教えを遵守するという大前提の上に
成り立っているという訳です」
光を反射して輝く眼鏡を
氷室は指で押しながら続ける。
「だから、私は
こいつ等の採用には反対したんです
こいつ等は聖職者や宗教家であって
医師ではない
ただ治して金をもらえばいい
という訳にはいかないんですよ」
氷室の言葉をしばし考えてから
理事長は再び口を開いた。
「しかしですねえ、
地獄の沙汰も金次第と言いますし……
稼いだお金でお布施でもして
教会など建ててもらった方が
神様もお喜びになるんではないでしょうかね?」
こちらの世界であれば
宗教にはお金が付き纏うというのが
当然の感覚なのかもしれない。
お布施と称し、
信者から金を巻き上げて来た宗教は
人類史を見ても数限りなく、
最近では『新興宗教 = 金儲け』とすら
思われている節もある。
しかし、まだ若く
純粋に神を信仰しているフローラは
この言葉に憤慨した。
「いくら理事長さんでも
言っていいことと悪いことがあります!
私が信仰を捧げる神を
侮辱するなんて、許せません!」
体を震わせるフローラ。
その場にいる誰しもが
それは怒りによる震えだと思った、
だがそうではなかった。
フローラはそのまま崩れ落ち、
床に倒れる。
「おいっ!」
氷室が駆け寄り、状態を確認すると
フローラにはまだ意識がある。
「どうしたっ!?
しっかりしろっ!」
病院での勤務のみならず、
非番や休みの日も四六時中
ヒーリング能力を使い続けた結果、
フローラは衰弱し切っていたのだった。
そしてもうひとつ、この世界には、
ヒーリングを使うには
致命的な欠陥があった。
「…… し、
……足りません……」
フローラはそう口にすると
そのまま気を失う。
魔に属する力を魔力と言うように、
神に属する力を神力と
フローラが居た世界の者達は呼んでいた。
フローラが信仰する一神教の神は
例え、異世界であっても、
次元を越えたどこかであっても
同じただ一柱の神。
つまり異世界の一神教の神と
この人間世界の一神教の神は
同一の神ということになるのだが。
こちらの世界の人間達は
神への信仰が比較的に薄いため、
神からの恩恵もそれ程ではなく、
フローラは自らの生命エネルギーで補って
ヒーリングを使い続けていたのだった……。
-
空いている病室へと運ばれたフローラ。
この人間世界で神力が不足していることを
事前調査で把握していた理事長は、
現在考えている構想を氷室に語って聞かせた。
「まぁ、どうだろうね、ここは
病院としては
シスター達のヒーリング能力を
存分に発揮してもらうためには、
彼女達が信仰する神を
教会を建ててもいいぐらいに考えて、
動いているんだがね」
「それぐらいに
シスター達の能力には価値がある
すでに億単位の契約が
次々と舞い込んで来ているからね
振ると金が出て来る
打出の小槌のようなものだよ、シスター達は」
その言葉に、いつもはクールな氷室が
珍しくキツイ口調で反対の意志を示す。
「私は断固として反対です
治療がそんな
宗教儀式にまで退化してしまえば
現代医療の完全敗北ですよ!」
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