惑星サーム
惑星サームは砂の星だ。
勿論、決して砂だけの星ではないが、星を覆う大多数が砂漠に覆われており、この地に住む人ですら風やら何やらで飛ぶ砂に辟易してマントを着けて歩いている人ばかりだ。
その人は二足歩行はしているが、見掛け全てが人間のままである人だけでは無かった。
蜥蜴のような肉体をした物が二足歩行でしっかりと喋る者もいれば、ぬめぬめした蛞蝓のような体をした生物も居た。
惑星サームにおいて知性とは人だけが持つのではなく、動物もまた人として進化したという在り方をしているからだ。
その中に衝突はあれど、それでも平等に生きていった結果がこの星の特徴と言えるだろう。
そんな乾いてはいても、けど不運では無かった星にある唯一の街の道をマントで全身を包んだ人物が歩いていた。
「………」
惑星サームには人が生きる街はここしかない。
それは何も砂漠のせいで人が生きれる場所がここしかないというわけではない。
酷く単純な理由だ、と思い、その人物は顔を上げる。
マントを包んだ人物は何も空を見上げたわけでは無い。
ただ単に視線を正面より少しだけ上に上げただけ。
──それだけで自分の視界に街並み以外で映る巨大なモノがあるというだけ
「………」
時折、蠕動し蠢くのはそれが生きている証だ。
どれだけ巨大に成れても3メートルくらいの大きさしか持たない自分達にとってアレは人知を超えた巨大さを持っている。
何せ自分達が住む惑星サームを己の巨体で巻き付ける程なのだから
馬鹿げている、としか言えないだろう。
少なくともこの星の生態であそこまで異常に成長した
………最も、アレ以外にも居たら困るのだが、どちらにしろ一体居るだけで絶望するしかない。
ただ巨体であるだけならまだしもアレには知性はあっても理性は無い。
野生の気紛れによっては自滅さえ厭わなければ、今直ぐ星すら砕きかねない力と大きさを持つ相手を前にすれば、自分達のような人だろうが、異人だろうが等しく無力だ。
なのに、自分達がどうして今もまだ生き残っているかと言えば………
「……気紛れ、ですね」
自分の口から洩れた高い声に潜んだ色は正しく自嘲という色。
しょうがない、という諦念に覆われている事が読み取れる事に苦笑し、視線を下げる。
見れば街を歩く人たちも同じように俯いて生活している。
そう………この星で人が前を向いて歩く事は無い。
前を向けば絶望、上を見歩いても現実から逃避するだけ。
逃げれる場所も無ければ、
希望なんてどこにも無い、というのを自分達はよく知ってしまっているのだから
お陰で絶望する事も無いからある意味気楽ですね、と嗤い──ふと喧騒が聞こえる事に気付いた。
珍しいと思い喧騒の方に目を向けると………そこはこの星における一般的な大衆食堂だ。
その店の出入り口で人だかりが出来ているので、改めて気になり、人だかりに近付き、そこにいる人に話を聞いてみた。
「どうなされました?」
「え? いや中で………って貴方様は………!?」
マントで多少隠れているとはいえ見て、声を聴けば分かるのだろう。
鳥類型の異人が驚き………そして罪悪感に塗れた声を発する。
その事に自身もまた罪悪感に苛まれるが………もう少しだけ辛抱してください、と願い、敢えて声色に笑みの色を交えて語り掛けた。
「そんなに畏まる必要はありません。地位はあれどこんな星においては皆、平等なのですから」
「いや………でも………」
彼が慙愧に囚われているのは理解している。
………その思いに至るのは当然だ、という理解はある。
だけど
「どうかお願いします──残り数日の事ですから」
「──」
小さいが、しかし確かに呻く声を聴きながら、自分は敢えて聞こえない振りをした。
その上で彼が小さく分かりました、と頷くのを聞いて分かっていない馬鹿の振りをして問いかける。
「それで………何が起きたんですか?」
「………サジョウカズラですよ。あの花の毒性で誤って死んでしまったものが居まして」
「サジョウカズラ?」
思わず首を傾げて問いをそのまま返す。
無論、それはサジョウカズラという物を知らないからではない。
サジョウカズラはこの星に置いては子供ですらよく知る花である──ただし花は花でも毒を持つ花だが。
サジョウカズラは養分等必要とせず、砂の上で自生する花でその様は美しく、正しく砂の上でも咲く綺麗な花なのだが………知らずに近付いた途端、綺麗な花は毒となる。
至近距離に近付き、花の匂いを嗅いだ途端、余程毒の耐性が無ければ最悪その場で、よくても数時間後には眠るように死に絶えるのだ。
事故や偶然で花に近付いたのならば、即座に病院に叩き込まれ、最低でも24時間殺菌と消毒をさせ続けられるくらいの毒である。
更には繁殖率と生命力も高い
お陰で教育において必ずこの花に近付いてはいけない、と絶対に説明されるくらいに。
つまり──この星では小さな子供ですら知っている事なのだ
そんな花に近付いた後に、病院にも寄らずこんな食堂で死ぬとなると
「子供でしょうか?」
「いえ。見た感じの年齢は貴方様と同じくらいかと……しっかし見た顔じゃ無い感じで………もしかすれば………」
「………まさか、
それは………二重三重にも気の毒に。
星海からでも見えるであろう惑星サームに降りるというのもおかしなものだが………もしかすれば噂に聞く次元漂流者で、こんな星でも生きるのに必須だったのかもしれない。
そうやって命からがらに降り立ったというのに、結果がサジョウカズラによる死。
………気の毒としか思えないだろうが、どうしようもない。
そう結論付けながら
「……一度だけ目通ししても?」
「それは………構いませんが……もう………」
「いいのです──せめて未練ないように行動しようと思って」
少しの沈黙。
しかし、直ぐに話を聞いてくれた鳥類型の異人はおい、お前らどいてくれ、と皆に告げる。
その言葉に皆がなんでだよ、と首を傾げるのだが、私の姿を見た瞬間、やはり罪悪感に塗れた表情を浮かべて直ぐに理解したように道を開ける。
その事に申し訳なさを感じながら出来上がった花道を歩く。
大衆食堂の真ん中を突っ切ると、件の人物が見えた。
後姿を見ると確かに見た感じ、自分とそう変わらない背格好のように見えた
服装自体もこの星の物ではなく、動きやすい恰好という区分ではあるが自分達よりも先進的な服を身に着けている。
顔はカウンター席にうつ伏せで倒れている為、見る事は出来ないが……
「………白髪?」
一瞬、銀髪かと思ったが、よく見れば銀という程、美しさは見えない。
背格好を見る限り少年だと思われるが、少年の頭髪は全て白髪となっていた。
自分らの常識では年齢に不相応と思えるが………他の宇宙からの場合、そもそも常識所か法則すら違うという話だ。
驚く事でも無いか、と思いながら近付くと……確かに少年は一切身じろぎしない。
動き所か呼吸の為の動きすら無いのだ。
死んでると見て間違いないだろう。
………せめて
死後において慈悲を、と祈る。
どのような事情でこの星に降り立ったのかは知らないが………もう二度と宙を目指せず、地において絶望と向き合い続けなければいけない、という現実と立ち向かう事が無かった、という現実逃避を幸運と捉えて安らぎを得れるように、と祈り、もう一歩踏み出し
「っ、つぁーーー!! よく寝たーーー!!」
脈絡なく目の前の死体ががばりと起き上がった。
※※※
起き上がると同時に両手を挙げると右手に何やら柔らかい感触が返ってくる。
その事にん? と首を傾げながらアリアンが後ろを振り返ると何やら自分の直ぐ傍にマントを付けた少女が立っていた。
見た目の年齢は恐らく自分とそう変わらないであろう。
こんな砂漠の星であるというのに、砂にも劣らぬ美しい金の髪を輝かせ瞳は星のように美しい碧眼を輝かせている。
この星の価値観はどうだか知らないが、自分の眼からしたら知的な雰囲気も合わさって綺麗な少女と言ってもいいだろう。ディアラには負けるが。
そして先程の自分の右手に返る柔らかい感触だが……どうやら少女の胸に見事に当たっているようだ。
普通に考えたら自分が起きた時に手を挙げたのが偶然彼女の胸に当たった、と言える状況だろう。
その無礼さは大抵の宇宙共通。
本来なら即座に土下座を敢行するべき所業だ。
──だが、しかし
何事にも例外がある。
別宇宙であるならば法則も違うように常識も違う。
握手という概念が友好を示す物もあれば、逆に敵対の意を示す事があったりもする。
故に俺は決して礼儀を忘れないように、既に顔を赤くぷるぷる震わせている少女に対して真面目に問いかけた。
「──もしかして、この星では手を拭くのは女性の胸で拭くという奇習があるのならば、俺は妻に心底申し訳ない思いを抱きながら、存分に揉ませて頂くんだが如何に?」
「──有り得ませんっっっ!!!!」
返答のフルスイングビンタを受けながら、思う。
何故、こう女のビンタというのはどこの宇宙でも強烈なのだろうか。
※※※
大衆食堂から出て再びマントを着込みながら、少女は溜息を吐いた。
………全く
先程の事態に少し顔を赤らめながら、少女は前を歩く少年の後姿を少し睨む。
少年は先程の騒動をまるで忘れたかのように陽気に鼻歌を唄いながら前を歩いている。
顔形は普通に整っており、しかし乱雑に生やした白髪が左の眼を覆い隠しているのはどうかと思う。
しかも、星海から来たというのに腰に古めかしい剣を差しているのだから色々とアンバランスである。
他人に対してどれだけ違和感を覚えさせているのかとか一切気にせずに、能天気に鼻歌まじりに歩く姿をさっきから見せつけられているのだ。
その事にちょっと女としての怒りとこの星における普通の怒りを覚えながら、出来る限り平静の声を届ける。
「……それで? やはり、貴方様は星海から来られた方でしょうか?」
「ああ。アリアンって言うんだ。アポなしで来ちまったが、見た感じ通信施設なんてモノも見当たらなかったし問題は無いか? 一応、電子、魔道型で連絡はしてみたけど返事は帰ってこねえし」
「ああ………私達は次元連盟には所属していますが………文明レベルが全く足りていない為、ソラからの言葉を受け取る手段が無いので」
「それでよくもまぁ、連盟に入れたな? ああ、いや別に君達の文明を貶めたとかじゃなくてな」
「いえ、お気になさらず──昔は、最低限の施設があった、との事です」
「昔は、ねぇ」
その言葉と共に少年が視線を前に向けるのを見る。
その事に………小さいが確かな黒い感情が胸に灯るのを感じる。
この星でそんな簡単に前を向く事ができる人はいない。
前には絶望しか存在しない。
絶望を一度や二度、瞬間的に見るだけならばともかく延々と延々と見せつけられれば心に罅が出来る。
なのに、この人はあっさりと前を向く。
それが余所者故の無関心である事を考慮しても恨みの気持ちが前に立つ。
………そして同時に醜い共感も浮かぶ。
貴方も何れ私達になるのだ、という醜い仲間意識が。
浮かび上がる暗い気持ちを否定しないまま、しかし蓋を閉めていると
「アレ。やっぱり君達にとっても厄介なのか?」
………一瞬、呆れそうになる心を覆い隠すのに苦労した。
しかし、こればかりは先程の暗い思いとは違って色々な人に共感して欲しいと思う。
だって、彼ははっきりと
あれだけの巨体を、星にすら巻き付く巨体を相手にまるでゴミ掃除しなくていいの? と言わんばかりの気楽さで問われたら流石に呆れさせて欲しい。
………もしかして別宇宙の人から来た人にとってはあんな巨体は特に不思議でも何でもないのだろうか?
聞きたいような………いや精神衛生上では絶対に聞きたくないと思い、その疑問は封じ込め、出来る限り冷静に彼の質問に答える。
「………アリアン様がどのような世界を見て回ってきたのかは知りませんが………私達は特に何の力もない只人です。姿こそ異なる者はおれど………あの蛇をどうにかする特殊能力もなければ科学も持ち合わせていないのです」
「連盟………いや、この場合は警察機構か。
「………かつて一度連絡はしたそうです。しかし」
「この広い宇宙だと奴らは手も足も顔も数も足りない、か」
正義は大変だな、と呟く少年の声には私達に対する同情は欠片も持ち合わせていなかった。
冷たい人だ、と思うのは間違いでは無いかもしれないが………正直、少女にとっては暗い共感を無視しても他の人達よりかは遥かに話しやすいと思ってしまった。
何故だろう、と首を傾げていると少年はくるりと首だけこちらに向け
「となるとアレはやっぱり突然変異でも生まれたタイプか………えーと名前なんだっけ」
そういえば自己紹介していない事に気付き、慌てて自分の胸に手を当てる。
この街だと自己紹介をする
「失礼しました。私、アイナと申します」
「そうか……しかし堅苦しいな。君から見たら俺は異邦人だろ? 気にせず普通に話してくれていいんだが」
「いえ、これが地でして」
「そーいうタイプかぁ……しかし勿体ない。砂漠だからしょうがないにしてもそれだけ器量良しなんだからマントとか無い方がモテルだろうに」
「まぁ。先程、奥さんがいると言っていた傍から浮気ですか?」
「あ、可愛いのは別に素直に認めるけど──俺が惚れ込んでいるのは妻一人だから悪いけど君には欠片も興味が無い」
さらりと告げられた惚気所か愛の告白に近い言葉にちょっと絶句する。
軽く告げられた言葉とは反面に言葉に乗せられた想いは
一瞬、肩に重い荷物を背負ったような感覚を与える程の言葉に、アイナは無意識に話題を逸らした。
「………その奥さんもこの星に?」
「いや? まだ上。毎度毎度気を遣わせてしまうんだが………家族を幸せにするっていうのは本当に難しいもんだ」
これまでの無関心の口調は消して、心底からどうしたものか、と嘆息する姿は少年の姿だというのに妙に貫禄がある。
そこまで考えて彼がソラから来たのだと思い
「………あの、もしかして年上の方でしょうか?」
「悪いが年齢をバラしたら妻に怒られるんだわこれが。なので更に畏まるのは面倒だから止めてくれ」
微妙に納得がいく価値観に、私はその奥様と話が合いそうだ、と勝手に共感を覚えてしまう。
で、あれば少々無礼になるかもしれないが、このままの態度で接しさせて貰おうと自分も思う。
「上に船があるのならばお帰りになればいいのでは?」
「来て速攻で帰れってか?」
「こんな星に長く留まる方が正気を疑う事ではありませんか?」
成程、と頷く少年はその表情のままこちらを見て来た。
不吉さすら感じる白い髪と………今、気付いたが酷くくすんだ金色の瞳をこちらに向けてくる。
思わず歩を止めた事に動揺を覚えてしまったが故に彼の質問を許してしまった。
「──じゃあ、一切外に逃げようとしない君もどうかしているのか?」
「………え?」
思わず呆けた声で返事するが、その事に呆れの色を多分に含めて表情を形成する少年が言葉を続ける。
「君の言葉を信じるなら少なくとも君にとってはこの星は居心地が悪い最悪な星なんだろ? ──の割には今、こうして逃げれる手段が目の前にあるというのに一度も連れ出してって言わないじゃないか」
告げられた言葉をゆっくりと咀嚼し………その上で、ああ成程と今更理解に達する。
………確かに、この少年の言う言葉が正しかったのならば自分達にとって遥か遠い星海に行く方法がある事になる。
それはつまり、明日を怯えるという事態からの解放。
この苦しみから解き放たれるという事。
それはきっと魅力的な事なのだろう、とアイナは笑みを浮かべる。
浮かべ………その上で告げる言葉は
「確かに王道的な展開ですね──でも、王道という事は答えも王道なんでしょう? 救われるのは一人か二人か……多くて十数人で全てを救う事は不可能という」
全てを救う事などこの世の誰が出来るという。
幾ら絶滅寸前の惑星サームとはいえそれでも人口は数百人はいる。
とてもじゃないが片手間で救える数ではない。
そうなると現実的な手段で助ける事が可能な人数だけを避難させるという方法しかない。
勿論、それを非力と非難する気はない。
十数人であったとしてもそれは立派な救いだ。
何時か0になるものを確定で10を救えるのだ
これを救いと呼ばず何と呼ぶ。
それを思えば、自分は贅沢者の否定をしているのだろうとは思う。
第三者から見れば振って落ちて来た奇蹟を前に否定するじゃじゃ馬女なのだろう。
その事実をアイナは否定する気はないが………同時に一つ持論を持っている。
それは
「………もしもそこで生き抜いても、私はその後、間違いなく皆を見捨てた罪悪を抱えて生きていくと思います。ほら………そんな人生」
──生きながら死んでいるのと何ら変わりないでしょう?
言葉にしない虚しさを抱えた言葉に少年がどれだけ察したかは分からないが、彼はただ溜息を吐くだけだった。
「重苦しい考え方だな。キツイだろ、それ」
「ええ、全く。どこにも行けない僻み者の考え方ですね」
ようやく浮かべる事が出来た自然な笑みにほっとする。
誰かの為に笑みを浮かべれるのならば──最後までみっともない態度を見せずに済むだろう。
その誇りだけを隠してアイナは笑みを浮かべる。
「では、せめて奥様に対してお土産とかを見つけたい、という事でよろしいでしょうか?」
「ちなみにこの星の名産は?」
「蛇酒です」
「おいこら待て」
「何でしょうか? 私達が誇れる特産品ですよ? 飲むと現実を忘れるくらいにはピカ一です」
「ほう。ちなみに君が飲んだらどうなったんだ?」
「気付いたら部屋中に酒に漬かっていた蛇の頭がかっ飛んでましたね」
「………そこから得た教訓は?」
「次、飲む時は外で且つ頭を叩き潰そうと思いました。掃除が面倒なので」
真顔で頷かれたが、味は普通に美味しいんですよ?
ただほら、ストレスというものが人にはありまして。
お陰で侍女たちもおいたわしや……、こうなるのは当然、ここはエロスで解決するしかない! と千差万別な反応をしてとりあえず最後の反応をした侍女は連行された。
おぼこなのは否定しないが、実にやかましい。
ともあれ
「一度試してから決めた方がいいなのは確かですね──いいお店を知っていますよ?」
※※※
少女が小走りで先に向かう中、アリアンはその背を見ていた。
ここまでの話を総合するとこの星は人という種において特に特別な進化はしていない。
形が人ではない者はいるようだが、それも含めて人類種に進化したという事だろう。
だから法則を無視したあの蛇をどうにかする特殊能力も無ければ文明も足りていない。
完全に行き詰った惑星サームにおける人類史。
彼らが悪いのではなく、ただ運が悪かった事によって緩やかに滅びに向かっている。
勿論、これはあくまで人から見た視点なので巨大になった蛇がどういう理屈で動いているかは知らないが。
ただの野生ならば蛇の方にも同情の余地はあるが
「ま、それは追々として」
残念だが、アリアンという存在が人間である以上、感情は当然動物よりも人間の方に比重を置いてしまう。
それを不平等だとか何だとか言うのかもしれないが知った事じゃない。
正義の味方になるつもりもなければ、悪の権化にもなる気は無いのだ。
法に寄り添う気も無ければ、そこにいる人の感情に寄り添う気もない。
あくまで自分勝手に動くと決めている為、後の事などどうでもいい。
なのでもうほんの少し見定めるとする。
常に俯き、笑う事も憎む事も下手糞な少女を──そんな少女に罪悪感に塗れた顔で目を背ける人々を
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