Rebellion to despair
悪役
さぁ、ソラを仰ぎ見よ
──星の光と闇の如き星海に一つの巨大な船が存在していた
全長は凡そ5.600mは超えており、青色をメインとしたカラーはこの暗い闇の中でも確かな空があるのではと錯覚する程であり、後方からは力強い光によって船自身を推し進めていた。
巨大に加え、その威容は見る者が見れば竜のようにも見えれば、巨大な流星の如きだろう。
表現としてより適切であるというのならば後者だろう。
何故ならこの船が今、存在しているのは夜闇の中ではなく宇宙という名の星の海であるのだから
星々を肉眼で確認出来る程の近さ。
船は船でも空を、海を、宇宙を、行く為の万能戦艦でもある巨大戦艦。
そんな船の正面。
ブリッジと思われる場所で
「ふふっ……星海征すは我が船、我が信念、我が魂!」
真っ暗の広い空間の中、声色から察するに少年と思わしき声が響く。
ブリッジの中央にある椅子に座りながら叫ぶ姿は暗闇であるが故にはっきりとは見えないのだが、輪郭は大人というには少し背が低く、肉体そのものも小柄である為、少年と呼ぶに相応しい体系を少なくとも外側だけはそうであった。
「この命の滾り続く限り、我が旅に終わり無し!」
少年は何故か一人でテンション高く叫んでおり、まるで一人芝居のようだが本人は特に気にせず
「というわけでいざ行かん! 最果ての地へ……!」
と決め台詞を言った瞬間に何故か周りからドーン、という効果音や壮大なBGMが流れ始める。
まるで狙ったかのようなタイミングで演出する状況に少年は満足そうに頷き
「決まっげふぅ!?」
「何をやっているのよ貴方……」
満足そうに溜息を突こうとしていた少年のシルエットの頭から何か大きな物が唐突に現れて落ち、少年の頭頂部に諸に直撃する。
ゴーーン、といういい音が響き、暫くした後にそのまま少年は倒れる。
その姿を今、このタイミングで現れた女性の声………若い声から察するに少年とそう変わらないであろう年頃の少女の声を発する長い髪のシルエットがブリッジの入り口から現れる。
その少女は腰から何かを少しだけ引き抜いていたが、直ぐにそれを戻し、呆れたように倒れ伏した少年のシルエットに語り掛ける。
「全く………二次元好きなのはいいけど、わざわざブリッジを暗くして且つ演出に
少女のシルエットの視線は倒れ伏している少年から実は最初からブリッジの端に立っていた長身の男性のシルエットと椅子に座っている少女よりも小柄な………恐らく10代を少し過ぎたか過ぎてないかくらいの小柄な少女のシルエットに映る。
その言葉に長身の男性は………否、その言葉を聞く前から少しシルエットを震わせ、目線を倒れ伏している少年から逸らし
「い、いえ………本人が楽しんでいるようだからいいかと……くっ……オリアス様も一緒に遊びたかったようですし」
「………そのあからさまな声を隠したらどう? ──ああ、後、間違いなく盗撮しているであろうアリアンの間抜け動画を出しなさい──後で個人用に使うから」
「あからさまなのはどっちですかなんちゃって奥様………!!」
やかましい、と長髪の少女は長身の男の声を一喝した後
「シーリィもごめんね? 私の旦那の漫才に付き合わせて」
「う、ううん……アリアンお兄ちゃんもオリアスお兄ちゃんも楽しそうだったから私も楽しかったよ……?」
いい子過ぎて泣けてくる、と長髪の少女は椅子に座っている小柄で肩くらいまで髪を伸ばしている少女の頭を撫でながら、再び腰にある何かを引き抜き、また虚空から何か大きな物が生まれ、倒れ伏している少年に追加のお仕置きが降り注ぎ、結果としてげふぅ、という悲鳴が漏れたが気にしない。
「オリアスも駄目よ? 兄=全肯定したら。あの人、基本馬鹿なんだから」
「夫に対する人格否定が的確過ぎるぞ!」
意外と元気があるようだから今度は巨大ハンマーのような形の物が現れて少年に落ちたのだが気にしない。
今度の悲鳴はマジ系だったが、気にしないったら気にしない。
『いやぁ、僕も毎回毎回事務的に告げるのには飽いていたから兄さんの提案は丁度良かったんですよ義姉さん。そう………兄さんは何時も僕に新しい世界を見せてくれる………!』
「………まぁ、オリアスがいいのなら……いや、でもうーん……」
長髪の少女は首を傾げながら男達の謎好奇心に頭を唸らせる。
オリアス、と呼ばれた中世的な声だけで判断する限り、恐らくシーリィと呼ばれた少女と変わらない年齢か、もしくは少し年上くらいの子の声だと判断出来るだろう。
それ自体は何もおかしくない──ただ今、ブリッジにいるのはボケて倒れている少年と長身の男性、シーリィと呼ばれた小柄の少女、今も頭を悩ませている長髪の少女
それ以外の人影はどこにも無いし、隠れる場所もない。
それを不思議がる人間も居なければ、問題であるとツッコむ者もないまま話は続く。
「で? 皆が集っているのは時空間移動が終わったからでしょう? アリアンのはしゃぎぶりを見る限り次の星が見つかったのなら他のメンバーには──」
「──今、丁度来た所よん」
長髪の少女の言葉を受け継ぐように、新たに出入り口から現れたのは声とシルエットだけを見れば恐らく20~30代頃の女性と思わしいものであった。
シルエットからでも分かる大人っぽいボディラインと髪先で結っている髪が見える。
胸下で組んだ腕が自動的に胸を挟む形になってより強調する事になっており、その事にむっ、と長髪の少女は唸り、シーリィは年相応の形をした自分の体を見て、ちょっと悩まし気に首を傾げる。
「……どうでもいいけど、五月。
「あら? 固定されていないから他人の夢と自分の都合を優先するのは自由でしょ? ──お陰で男漁りに困らないわ! 男の大半はやはり大艦巨砲主義ね! この本能至上主義共め! お前も! お前もでしょう!?」
「──それは違うぞ!」
"お前も!"と指摘された一人である少年──アリアンと呼ばれている少年が自分を叩きのめしていた硬い物を除けて立ち上がり、叫ぶ。
「いいか? 確かに男が巨乳という大艦巨砲主義に走る傾向にある事は否定しないとも……事実、巨乳に魅力を感じる俺が居るのを否定しないし、かと言って貧乳を否定する程、俺は狭量ではない──だがしかし! しかしかしかし!! 俺は巨乳は神だとか貧乳はステータスだ等々の名言よりも勝る主義! ディアラ至上主義に所属している以上、俺が語る乳はディアラの素敵乳になる! さぁお前ら、実に勿体なくて男が聞いたら聞き終わった直後に殺すレベルのディアラの乳について聞く覚悟は十分か!? あらゆる争いを消し去るレベルで語り尽くぐぁ!!」
「──妻の体を他人に語るなぁ!!」
今度は虚空から丸太クラスの質量が唐突に現れてアリアンの体を撃ち抜かれる。
勢いよく吹き飛ばされた後に壁に打ち付けられる少年に全員がおぉーと見守るが助ける者は一人も居ない。
ふんっ、と引き抜いていた何かを戻しながら、そっぽを向くが全員が全員照れ隠しである事は知っているのでわざわざツッコミは入れない。
「………んぁー。ボクが最後?」
漫才をしている間に、再び一つの声が追加される。
ウィーン、と何かしらの機会の作動音と共に少女が下から現れる。
どうやら床下から現れたらしく、何かしらの移動用のエスカレーターのような物がそこにあるのかもしれない。
そこから現れた声は高く、ボクと言っているが少女の声であり、見た目の骨格だけを問うなら長髪の少女──ディアラと言われた少女とそう変わらないであろう。
ただ一つ違う所があるとすれば──彼女の背中から広がる、暗闇の中でも光る翅がある事だろう。
「ぅ~~ん」
と一度小さく呻きながら体を伸ばすのと同時に少女の翅が少し広がる。
無論、その事に誰も疑問に思う事はせず
「あらぁ? エルムちゃん遅かったわねぇ。他の人の所にでも寄ってたの」
「そんな所ぉ。ナガルさんはアリアンに"何時も通りに勝手にしとけ馬鹿坊主"だって。後、あの婆は"医者に何を期待してるんさね? 頭が茹った坊やには常識なんて期待してないから勝手に自壊していろ"だって」
「ナガルさんはともかくあの腐れ婆………」
丸太に埋まっている少年の恨み節の声が聞こえるが、婆と言われた言葉に対しては何人かはまたか、という感じの溜息と肩をすくめるだけで終わる。
現れた少女……エルムと呼ばれた少女はその空気に付き合わずに両手を広げて
「オリアスくーん。おいでーー」
と声を掛ける。
その言葉に対して黙って丸太から這い出たアリアンが即座に中空を叩くとそこに光のコンソールが現れ、それらを手で変形し、組み立てる事によってカメラを作り上げ、ディアラに対して撮影準備はOKだ、と伝え、ディアラもよくやったという感じに親指を立てた。
『……い、いや、ほら……僕も男ですし、流石に人前だと………』
「おーーーいーーーーでーーーー」
間延びした声で再びエルムが声を掛ける。
その言葉には慈愛の色しか浮かんでおらず、だからこそオリアスが恥ずかしがるのだろうと男二人は理解の色を浮かべて頷くのだが何も言わない。
こういった時の女の子に対して男は勝てないものなのである。
項垂れたような間が空き、しかし数秒後──エルムの腕の中に唐突に小柄な姿が
先程まで間違いなくそこには誰も居らず、どこかに隠れていてよじ登ったとかではなく正しく今、先程そこから発生したとしか思えない登場に──しかしエルムも他のメンバーも何も気にしない。
「んっふーー。オリアス君と私の定位置ーー」
「おとこのそんげんをようきゅうしますーーー」
エルムは躊躇わず腕の中に現れた自分よりも小柄な少年を抱きかかえる。
抱きかかえられた少年──皆に誰も居ないのにオリアスと呼ばれた少年は諦めたかのように告げるが皆、苦笑を浮かべるばかりである。
「オリアス様。そう思うなら人型マテリアルで現出する際、もう少し大人の姿で現れてもいいのでは?」
「い、いえ。僕は兄さんの弟なので兄さんよりも年上の姿で現れるのは矛盾ですっ」
その言い分がまた皆に苦笑を誘い、言われた兄であるアリアンは再び何かしらのモニターを出し、ICS─正式名称はインタレスト次元宇宙ネットワークサーヴィスにうちの弟が最高の件について、と書いて、即座にいや、うちの弟がという反撃を受けていたりする。
数秒後に画面を砕く人を横目に五月と呼ばれた女性が話題を切り上げる。
「ねぇねぇ。確か呼ばれたのは今回の次元宇宙にある惑星が見つかったからじゃないの?」
「あ、はい。その通りです五月さん」
オリアスは即座にアリアンのように中空にコンソールを──生む事無く
目の前のブリッジに窓が捻じれる。
捻じれ、組み換え、変化し──巨大な望遠レンズとなった。
「……普通にモニターに映した方が楽じゃない? というか見辛いんじゃ?」
「………僕もノリでやってあ、これ見辛い……って思っちゃいました………」
少女の腕の中で項垂れる義弟にディアラは苦笑しながら、はい見やすいように見やすいように、と空気を壊さないように促し、オリアスももう一度船体を弄り、元のブリッジの正面をモニターに変化させて映す。
それは現状、この船が持つ視覚からズームで映し出した映像。
それには一つの丸い星が映されていた。
赤茶色であるのは星全体が、砂漠かあるいはそれに準ずる何かが星を覆っているのだろう。
それ自体は幾つもの星を巡っていた彼らにとっては別に驚く事も無ければ気にする事でも無いのだが
「……説明不要?」
「分かりやす過ぎるわよねぇん?」
「デカいのも考え物ですね」
「あれだけ大きいとご飯とか大変そうだね」
ディアラ、五月、ディエン、シーリィの順番に感想を言うが無理がない。
彼らが得た感想を、確かに分かりやすく纏めたのが彼らの言葉だ──何せズームしているとはいえ
星海にもう少しではみ出る程の巨大さは最早、説明不要としか言えない。
ただひたすらに大きい、というのはそれだけでインパクトを与える個性であり、絶望だ。
その事に代表してディアラが溜息を吐き
「オリアス。あの星の情報は出る?」
「今、情報検索中で……んっ。確認できました。惑星名は共通語でサーム。文明レベルは高くは無いですね……一応、次元連盟には所属していますが、宇宙開発に力を挙げているという報告はありませんね」
「……と、なるとあの蛇? と思わしき巨大生命に抗えるような力は無いかもしれないわね」
明らかに突然変異っぽいし、とディアラは話を締めて再び吐息を吐く。
偶にこういう事があるのだ。
生物は当然だが、生まれた宇宙の法則に則って成長する。
基本の法則、普通という概念は別段、重力だとか光とかにしか無いわけでは無く生物にも影響が出る。
あらゆる生命体にとって本来は法則には基本、絶対服従である筈なのだが………例外、予想外、異分子、突然変異という言葉がある以上、真の意味での絶対ではないのだ。
規定法則を破った生まれる生命はこうして埒外を生む。
星を絞め殺しかねない巨体に船員が全員で呆れの色の吐息を吐く。
「シーリィの言う通り明らかにあの巨体を支えるには星の規模を考えたら足りてないわよね? そこら辺も変異しているのかしら」
「そこら辺は何とも………私達が願う事があるとすればアレの変異性がただデカいだけである事を祈るくらいですね──
「そうね。まぁ、まずは状況を見なければ分からないわね。ああ見えて実は守護し……守護しているだけかもしれないしね」
「そうね………以前、あからさまな卑猥な石像群を前に貴女とシーリィちゃんが慌てて戦闘態勢を取る中、現地の人が"何をするんですか!? これは我が星が誇る由緒正しい縁結びの御神体ですぞ!"って言われて敵に回した事があったわね………」
「あぁー……アレは確かに大概だったけどボクはそれに対して途中でディアラさんが"え? アレで縁結びってちょっと小……"って漏らした言葉が間違いなく一番の引き金だったと思うけどねー。向こうの男の人達、ちょっと泣いてたし」
「こ、こら! 人の失敗と恥を掘り返さない!」
女二人は奥様系の少女のツッコミを遠慮なくスルーする。
結構むっつり系であるのはもう知っているのである。
ちなみに下ネタに走る瞬間に、エレムがオリアスの耳を、ディエンがシーリィの耳を塞いでいたりもするのだが、子供組二人は耳を塞がれながら首を傾げるだけである。
「という事はこのまま着陸して相手を刺激させるのではなく小型艇で偵察をするという形ですね」
「えっと………わたしじゃまだまだ力不足だから……適任はディエンお兄ちゃんか五月お姉ちゃん?」
「んー、そうねぇ……でもシーリィちゃん。そこで卑下するのはよくないわぁ。今回の場合は能力的に適しているのが私とディエン君であって、シーリィちゃんが私達に劣るわけじゃないのよ? 貴女はまだまだこれからなんだからもっと胸を張っていい女として振舞いなさいな」
「ま、まだわたしには早いよぅ」
シーリィと五月のやり取りに微笑を浮かべる者が居る中、一人首を傾げる者がいた。
エレムの膝に上で人形のように抱かれているオリアスは皆の会話に心底不思議そうに首を傾げていたのだ。
その事に気付いたディアラが義弟の様子に自分も首を傾げながら問いを投げかけた。
「? どうしたのオリアス。あの星について何か不可解な事とか、あるいは気付いた事でもあったの?」
「え? いやそういうわけじゃないんですけど………あの、その……僕は兄さんに"よし!
あらぁー、と船員が溜息を吐く中、一人全身を硬直させるディアラ。
その後、ぎぎぎ、と擬音が鳴りそうな感じでアリアンが居た所を見て
「──もう居ない!!」
と、地団駄を踏む結末を迎えて少女らしくない舌打ちを盛大に鳴らす。
あの夫、やらかすのが速いと思い、即座に彼女は行動に移す。
「──オリアス!? あの人は今、どこで且つ音声繋げて!」
「え、えと……もう小型ステルス機に乗ってます」
「あーのー人ーはーー! 通路省略した上に最初から準備もしていたわね………!」
「はい……あ、義姉さん。一応、声は繋げれました……」
色々と頭を回すオリアスを背後からエルムがよしよーしと抱きかかえて笑っていたりするのだが、エルム自身はどうでもいいと言うよりもう慣れたという感じの態度である。
事実、ディアラがあーもー! と唸っているのを見て
「ディアラさんも毎度よく同じリアクション出来るねー。ボクですら2回くらいで"そういうものだこれ"って納得したけど」
「普通ならエルムに同意だけど、ディエンや五月と違って、あの人のアレは種族特性だとか魔法だとか技術じゃないんだから頼り過ぎたら駄目でしょう? そしてそれを何度も何度も伝えているのに……」
その苛々の中に混じった密かな惚気にエルムは呆れたかのように嘆息した後、オリアスの頭に顎を乗せる。
その後、オリアスの言う通りモニターに今度は星ではなく小型ステルス艇に乗って発信準備が完了している機体内の光景が映る。
何故かブリッジの状況に合わせて向こうも真っ暗闇であり、そこには件のアリアンが存在し、こちらとモニターが繋がったのを察知したのか直ぐにこちらに振り返り
『あ、そういうわけだから偵察は俺がしてくるからー。ちなみに船長命令且つオリアスにも俺の判断が届かない限り、あの星に近寄らないようにって設定しているから──ディアラはごめん?』
「──謝るくらいならやらないでよ」
怒りに体を震わせていた少女だが、先に誤られた後、数瞬で毒気が抜かれたかのように全身が力を抜くのをディエンや五月、シーリィは気付く。
この光景も船員にとっては見慣れたものである。
常に好き勝手に動くアリアンに対して、ディアラは苦言を呈しながらも止める事が難しく……しかし諦めない光景は。
その上で
「いい? 飽きても言うけど、アレに頼って動かない事。貴方条件揃わないとこの船で私を除いたら最弱なんだから。病気とかにも気を付ける事。あ、料理にも気を付けてね。星特有の食物は場合によってはアレルギーを誘発させたり毒になったりするんだから」
『俺は息子かっ。そこはこう、クールな感じで"愛しているわ……"とか言って男を奮い立たせてくれないか!?』
「何を言うかと思えば──勿論この世のどんな存在よりも愛しているわ」
『あ、うん──俺も君を愛している』
唐突に始まった新婚夫婦コントに即座に他の大人組の船員が一瞬で隅に集まり
「今までのお約束こそが実はこの流れを作る為の前振りでは……?」
「ほら、あれよ……最終決戦前に寒いからとか適当な事言ってエロい事するのと一緒なのよ……もう肉所か魂までベストマッチの二人による高次元エロス……!
」
「どーでもいいけど、それをボク達に見せつけるのは嫌み? 見せつけ? 趣味?」
「こら! そこ! 聞こえているわよ!!」
『そうだぞお前ら! ──見せつけるならお前らの目の前でディープなキスぶちかますね! 擬音で言うとぐちょぐちょだぞ!!』
夫のボケに対してディアラは笑みで、近くにあったスイッチを押した。
スイッチの表面には非常に分かりやすく大きな文字で"ツッコミ"と書かれており、結果として画面の向こうにいるアリアンの椅子が跳ね、天上に頭から激突していた。
『あだ!? 何だこれ!? 椅子に発条の仕掛けとか時代錯誤過ぎじゃないか!?』
「だまらっしゃい。古くても受け続けるからお約束って言うのよ」
へいへい、とアリアンはいそいそと椅子を元に戻しながら座るのを見ながらディアラははぁーと溜息を吐き
「オリアス? 実際あの星の危険度はどうなの?」
『蛇の方は謎ですが、それ以外は大気構成や法則も普通の物です。勿論予想外というのを除いてですが……』
そう、とディアラはオリアスの観測結果に深くは疑問を抱かず、それならば、という思いで画面の向こうに居る夫に顔を向け
「──気を付けてねアリアン」
『ん、了解。適当に御土産でも買ってくるよ』
最後はそう締めくくり、妻と夫の会話は終了した。
※※※
アリアンは暗い小型艇の中、シートにあるシートベルトを着用し、何時でも小型艇を発進出来る準備が出来た事を確認し、もう一度だけちょっとした芝居をする。
「さて──目標惑星サームに向けて全速前進だ!」
勿論、何の意味もない鼓舞である。
意味があるとすればこれは己の意志であるという宣誓であり、待ってもらう皆に対して安心しろ、と少しでも思って貰う事だけであったが
「………おっ?」
何故か台詞を言った瞬間に小型艇からピー! という電子音が響く。
設定ミスでもあったかしら? と首を傾げると自分が座っている椅子の前の地面が小さな四角状に穴が開き、そこから何かがせり上がった。
なんだなんだ? と思ってせり上がってきた物を見てみるとそれにはスイッチがあった。
何とも分かりやすくガラス張りのケースの中にあり、更にはスイッチの表面に"き け ん"とわざわざ記されている上に皆が映っているのは別のモニターが新しく形成され、そこには"押すなよ! 絶対押すなよ!!"と丁寧な
その忠告の数々にうむ、と深く頷き──一切の思考をせずにそのままガラス張りのケースを叩き割りながらスイッチを押した。
「………………………あ、しまった」
つい、条件反射でスイッチを押してしまった。
迂闊、またの名をガッデム……! と内心で呻くがしかしスイッチは出て来たら押さないといけないだろ! と思わず内心で言い訳をする。
あれだけ丁寧な前振りを前にどうして押すのを躊躇う事が出来ようか………いや出来ない………
反語を利用した自己弁護は我ながら完璧だ。
俺の言葉に否定出来る野郎は居ないだろう、と思いながら
「で? 何が起きるんだ?」
疑問と同時に船が振動する。
およよ? と思っている間もなくガギン、ガシャ、とかいう音が鳴りまくっているのを見る限り………船の構成が自己改造されているのではないだろうか。
音を聞く限り後部のバーナーの方から聞こえている。
そこの方を改造するのならば、さて俺ならばどうする? と考えれば思い付く事があった。
「成程! ──さては殺人的な超加速を得る為により出力と数を増やしたとかか!?」
より早く、というのは確かにロマンに通じる者があるのでうむうむ、と頷き
──Q.とんでもなく物体が超加速すると例えばその物体の中に居る人間とかはどうなるだろう、という疑問が頭の中で浮かぶ
浮かび上がった疑問に対する答えは次の瞬間に自分の体で体験した。
自分にかかるGが一瞬で数トン所か数十トンくらいかかった──と思う間もなく全身が拉げ、砕け、粉微塵になった。
即死である
※※※
ブリッジに居たディアラ達は格納庫から予想以上の速度で星に向かって飛び立つ小型艇を見ていた。
その速度は尋常ではなかった。
どれだけ尋常ではないかというと………有体に言えばあの船に普通の人が乗っていた場合、強烈過ぎる加速に耐え切れず潰れるくらいには尋常では無かった。
その事実をディアラは真顔で見届けた後、我ながらやばいくらいに真顔でオリアスの方に顔を向ける。
振り返るとオリアスは何時の間にかエルムの体の方に全身を振り向かせ抱き着いていた。
その状態にぬぉぉぉ! と喜ぶなんちゃってファンタジーが居たがそこは無視する。
「オリアス?」
「………怒らないで聞いてくれます?」
「それは話次第ね」
エルムに抱きつきながら項垂れる義弟にそろそろ見ていて危険なレベルで息を荒げるエルムが居るのだが、今回に限っては義弟の貞操の心配は知らん。
「あのですね……普段はステルスの小型艇は1番か2番を使っていますよね?」
「そうね……あ、確かに今回あの人が使ったのは3番艦ね」
まぁ、それに関してはあの人の事だから特に深い理由は無く、偶には余り使わない3番艦を使ってみるか程度の動機で使ったのだろう。
昔にも遊び人気質はあったが、今はそれ以上に無駄に刹那主義になったからその場その場のテンション決める事がよくある。
しかし、別にそれ自体は特に問題は無い。
1番2番とか別れているが、あれらの小型艇には性能差等無かった筈だ。
なのに、どういうわけか3番艦は非常にはっちゃけた速度で目的である星に向かって突進している。
もう星の大気圏に突撃しているのだから非常に速い。
今、モニターとの繋がりは切れているが、もしも繋がっていたら間違いなく画面がグロ画像になっている筈だ。
1番艦や2番館にはあんな機能は無かった。
となると誰かが後から改造したという事で、そうなるとこの船の管理者であり
「その、ですね……普段、3番艦は予備機なので……折角だからナガルさん達と一緒に改造しちゃおうぜ! という案が出まして」
「ほぅ」
わーー、私、真顔から表情が変わらないなー。
声も我ながら平坦な声を出しており、お陰で後ろ姿しか見えない義弟が酷く震えてらっしゃる。
うんうん。ごめんね? オリアス?
普段ならともかくやっぱりあの人を傷つけてもいいのは私だけであって欲しいなーっていう乙女心が動いてしまうの。
目一杯叱った後に許すから、今、許せない私を許してね?
「そ、その結果、人レベル相手ならば一瞬で抹殺できる音速ぶっぱ系のステルス小型艇が出来てしまって……あ、後で正気に戻った際に整備班の皆さんと一緒に"やり過ぎた"、"やっちまったぜ♪"、"いや、ディエンさんや五月さんならワンチャン行けるのでは?"という協議の結果、封印して後で元に戻そうと思っていたのですが………」
「それを忘れてテンション任せで船選んだアリアンがぶっ飛んだ、と」
「一応、その、パスワードで封印してましたし、スイッチ表現も含めて変形阻止には力を入れていたんですよ?」
「ちなみにパスワードは?」
「全速前進………」
成程、と少しだけ顔を呆れの色にする事に成功する。
馬改造したナガルさん達は後で超叱るが、確かにある程度は事故ではある。
パスワードは完全に運だし、スイッチ云々についてはアレで止めるつもりがあったのかとは思うが、それはそれとして夫がノリで押してしまったのは確かに悪い。
悪いのだが……しかしそれはそれとして人が乗る機体にそんな搭乗者殺しの改造を仕出かしてどうする、という究極の問題があるのでつまり説教確定だ。
そう内心で結論を出しながら、ディアラは彼が向かった星が映る窓硝子に向かって一度額をつける。
後ろで、"あ、来る"とか言っているが知った事では無い。
額にひんやりとした冷たさが自分に冷静さを──与える事無く、私は恥も外聞もなくこの数分で溜まったストレスを吐き出すのであった。
「──出オチ過ぎるのよぉ!!」
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