準備

○ホワイトウォーター。町には明らかに人が少ない。サラとマハーデーヴィーが「ムーン・オブ・オーガスト」に入る。店内ではハルが一人でハンバーガーを食べている。


リリー:いらっしゃいませ。お食事か、それともご宿泊ですか?

マハーデーヴィー:泊まれるの?

リリー:ええ。断言しますが、他のホテルは空いてませんよ。なにせ夏至祭ですからねえ。お客様も祭りのためにいらっしゃったんですか?

マハーデーヴィー:行くかもしれない。人を探しているの。


マハーデーヴィーはスマートフォンの写真フォルダを見せる。ナイラの映った家族写真がある。


マハーデーヴィー:私の娘で名前はナイラ。ここに来たことはわかっているの。

リリー:(小声で)この人を探していることを他人に言っちゃだめよ。あそこにいる男の人ならいいけど。

マハーデーヴィー:わかりました。

サラ:じゃあ二人でとりあえず一泊。同じ部屋で。それとコーヒーをお願いします。

リリー:二人分?

マハーデーヴィー:ええ。


サラとマハーデーヴィーは席に着く。食べ終わったハルが立ち上がり、話しかけに来る。


ハル:ナイラを探しているんですか?

マハーデーヴィー:そうです。

ハル:彼女、誘拐されました。

サラ:何ですって!?

ハル:僕の部屋からは道がよく見えるんですが、走って逃げようとする彼女にホテルマンや住民が暴力を振るってどこかに連れて行きました。警察に通報したんですが、今どうなっているかはわかりません。

マハーデーヴィー:ありがとう。確認してみる。

サラ:(リリーに)警察署の電話番号を教えてください。

リリー:こっちの柱に貼ってあるよ!


サラは言われた通り、メモがびっしりと留められている柱のところまで行って電話を掛ける。


サラ:もしもし、緊急通報について質問があります。昨日、インド系の女性が誘拐されたという通報はありましたか?……ええ、私の娘で、名前はナイラ・エルウッドです。同行した私の妹とも連絡がつきません。……そんなはずはありません。本当ですか?……お願いします。


サラは戻ってくる。


サラ:警察官が確認したところ事件性はなかった、と。

ハル:まさか。

マハーデーヴィー:さらに上に訴える?


リリーがコーヒーを持ってくる。


リリー:無駄だよ。ホテルの経営者のロバート・アッカーマンは保安官の従兄だ。今夜の儀式が終わるまで警察は手を出さないだろうよ。毎年そうなんだ。

サラ:儀式って何?

リリー:あいつらは毎年、よそものの誰かしらを祭り上げて夜中に集会をする。きれいな、色黒の女の子か男の子か、多分それが条件なんだろうね。どちらにせよ戻ってこないけど、警察が来た試しはない。

マハーデーヴィー:町の人はどうしてるんです?

リリー:金の生る木の味方さ。助けになるやつは大していないし、いたとしても怯えきってる。

サラ:(マハーデーヴィーに)あなたの予感が正解だったわけね。とにかくナイラを連れ戻さないと。

リリー:何か武器は持ってるの?

サラ:いいえ。


リリーは机の中から拳銃を取り出す。


リリー:持って行きな。

サラ:ありがとうございます。

リリー:他の奴らもだいたい持っているからね。

マハーデーヴィー:覚悟の上です。

リリー:この写真の男があいつらの指導者だ。こいつを押さえれば何とかなるかもしれない。儀式を見たことがないから詳しくはわからないけどね。

ハル:あの、思いついたんですけど……夜中の儀式なら篝火を焚くかもしれない。

マハーデーヴィー:おもちゃ屋はやってますか?

リリー:うちから右側に三軒行くとあるよ。

マハーデーヴィー:ありがとうございます。


マハーデーヴィーは財布をリュックから取り出すと店を出て行く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る