舞踏
○夏至祭の二日目。森に近い広場にある音楽祭の会場。「コスモス・オブ・カオス」と書かれた横断幕がステージの上部に張られている。観客は多いが、手を伸ばしても周囲の人に触れない程度の余裕がある。ステージに近いところにテントとパイプ椅子で設営された特別席があり、ナイラは「至日の神」の扮装で特別席の黒い椅子に座っている。ハルはその隣でアイスクリームを食べ終わろうとしているところである。
ロバート:それではこの祭りの主役に開会を宣言していただきましょう。大いなる夏至の使者、ナイラ・エルウッド様!
ナイラはステージに上がり、マイクの前に進み出る。
ナイラ:おはようございます皆さん…ようこそお越しいただきました。まったく偶然からこのような素晴らしいイベントに参加できたこと、心より誇りに思います。皆さんがこのホワイトウォーターで楽しい時間を過ごしていただけることを祈っております。
ナイラは頭を下げる。急に祝砲が鳴り、彼女は驚いて飛び上がる。ハルは思わずくすくす笑うが、周囲の人々は身じろぎもせずに彼女を見つめている。ナイラは席に戻るとハルに流し目を送る。
ロバート:ご挨拶をいただきました。それでは皆さん、次の曲「コスモス・オブ・カオス」はダンスナンバー。はるばるレバノンはベイルートからご参加の新進気鋭のダンスチーム「ディメンションゲート」とカナダのオンタリオからお越しのインド音楽バンド「スターズ・アライン」に、この音楽祭のために共同で書き下ろしていただきました。皆様どうぞご一緒に!
メンバーがステージに上がる。バンドの楽器は伝統音楽のものと西洋のものが半々で、様々なサイズの太鼓と吹奏楽器が目立つ。前奏が始まり、中東の伝統衣装をアレンジしたコスチュームのダンサー達が踊り始める。
【コスモス・オブ・カオス】
女声:一度太鼓が打ち鳴らされれば、私の足は踊り出す
男声:細い指と赤い唇の奏でる葦笛が僕に讃歌を歌わせる
観客達も思い思いに音楽に乗る。ナイラも椅子から立ち上がり、ハルに手を伸ばす。ハルはその手を取って二人で踊りに加わる。
合唱:息吹が笛を高らかに吹き鳴らし、太鼓は鼓動となり血潮を巡らせる
それは原初の生命が宇宙に響かせる音楽
いつの間にかハルはナイラに釣り合うような虹色のローブを身にまとっている。
男声:歌に合わせて奏者こそが軽やかに舞い始める
女声:旋律に酔い、舞踏のさなか歌声を張り上げる
合唱:音楽と歌と舞踏は共鳴し、増幅し、連鎖する
宇宙の中心において今も続く旋律の高まり
男声:この狂乱の賛歌の中、僕は永遠に微睡んでいたい
女声:眠り、そして夢見なさい、夢こそが新たな世界を創る
合唱:夢は黒き夜の舌が語った言葉であり、時に物語がそこを通じて現れる
女声:眠りから始まった世界なら、夢見人が目覚めてしまえばどうなるのか
男声:多くの人が見続ける夢ならば、死をも超えて永久に等しいほど続く
全員:生まれてくるものに子守歌を、死んでいくものに挽歌を
この世は神の神なる至高の王が玉座で見続ける夢
ならば歌い続けましょう、最後の一人が目覚めるまで!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます