第32話


「いくら給料良いからってよ」


「いや! でも時給二千円で交通費別払いは破格すぎるだろっ」


「確かに大学生の家庭教師でもあんまり聞かないよねぇ」


「しかも危険手当も出るし、頑張れば歩合も付くんだぜ」


「……それは……」


「魔法少女は一切お金出ないのに……」


「高校生になったんだからアルバイトしろって親に小遣い止められたオレにはまさに救世主だったね」


「悪の秘密結社が救世主か」


「笑っちゃうねぇ」


「「「あっはっはッ」」」


「あっはっは! じゃなぁぁぁいッ!?」


 屋上の隅っこで楽しく談笑していた俺たちは等しく頭を叩かれた。うご、遠距離特化のはずなのにめちゃくちゃ痛い。


「なにを仲良くお話しているのよ!? あんたたち敵同士でしょ!?」


 普段のクールな様子はどこへやら。俺やシャインの正体が暴露されてからスノウさんの性格崩壊がはだはだしい。……逆の立場で想像すると、仲間だと思っていた少女が二人とも冴えない男子高校生だったんだから当然か。可哀想に。


「でも友だちだし」


 自分がチビだという高身長イケメンスーパー怪人カイジンツクールの言葉を疑っていたんだけど、目の前で変身を解除するとそこに居たのは紛れもなくチビだった。


「それにさ。もうこんな状況なんだから敵も味方もねえって」


「世界が滅びそうな時にってやつだよねぇ」


「まったくだな」


「じゃあ余計になんとかしようと思いなさいよォォ!!」


「なんとか」


「と」


「言われてもぉ……」


 半狂乱になりながら叫ぶ彼女が指差すその先には、


「滅びよっ! 永久の闇ダークネスネバーエンディングッ!」


殺戮兎拳ぷりちぃなっくるぽよぉ」


「どうやって?」


 まさしくこの世の終わりの如き戦いが繰り広げられていた。

 ウサギ野郎と株式会社トッテモワルインデス総帥さんが魔法を一度使うたびに近代戦争映画さながらの爆炎が巻き上がるほどの威力が炸裂し続けている。

 ちなみに、総帥さんは魔法っぽい魔法を使っているが、ウサギ野郎は全て拳で殴っているだけだ。……魔法か、あれ。


「知らないわよ! あんたがなんとかしなさいよッ!!」


「そんな無茶苦茶な……」


 手伝う気満々ではあったんだが、こんな光景を目の当たりにしてやってやるぜ! となるほど俺は死にたがりではない。

 そもそも、魔法少女を解除させられているので今の俺は拳の折れたただの一般人である。


「そういえば、メガネ。手は大丈夫なの?」


「痛いに決まってんだろ」


「病院行ったほうが良くね?」


「この状況で病院やってんのかな?」


「どうだろ……」


 地面からは多くの人間の悲鳴が湧き上がっている。そりゃ……なぁ。

 助けたい気持ち、というよりウサギ野郎をボコボコにしたい気持ちは勿論あるけれど、これをどうやってなんとかしろと。


「あ、スノウさんの魔法なら遠距離だしいけるんじゃね?」


「そうだねぇ、それが良いかも」


「ワタシにだけ戦えって!?」


「大丈夫! ちゃんとボクが援護魔法をかけてあげるよ!」


「戦いなさいよ! あんたも中身男なんでしょ!?」


「い、いや、でも……、援護特化だし……」


「知らないわよ、そんなのっ!!」


「まぁまぁ、喧嘩すんなってお前ら」


 敵とはいえ、さすがに今日会ったばかりのチビ相手に怒鳴ることはしないのか、チビがなんとか仲裁役を買って出てくれている。

 とはいえ……。


「スノウさんじゃないが、これ……、どうすっかなぁ」


 このままでは間違いなく世界の終わりになってしまう。

 ていうか、ウサギ野郎逃げるんじゃなかったかよ。これもうがっつり戦ってんじゃん。


「血ぃ!! 血を見せろぽよぉぉ!!」


 もうマスコットキャラが言っちゃ駄目な台詞ずっと言い続けているし。ていうかぽよさえ付けていれば何言っても良いのかよ、おい。

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