第30話
魔法少女じゃなくなった俺の身体能力なんかたかが知れている。だけど、確実に今の俺は人生の中で一番凄まじい力を発揮していると言えるだろう。まさに火事場の馬鹿力だ。
シャインさんの腕の中に居たはずなのに、さらっと秘密を暴露されて驚く彼女、いや、あいつの声がもう後ろから聞こえてくる。
ロケットのように飛び出して、俺は拳を握るのだ。
魔法なんて必要ない。いつでもどこでも、人間という種族が何かを成すために必要なのは、その身一つだけなのだから。
世界がゆっくりに感じられる。
飛び出した俺の身体が、数センチ、また数センチとウサギ野郎へと距離を詰める。突き出した拳が奴の顔面をきっちりと捉えている。
あと少し、あと少しで。
だけど。
俺のそんな望みは、
「ははッ」
軽く鼻で笑われた。
「がッ!?」
避けることさえされなかった。
あいつは、俺の拳をその小さなふわふわした前足で殴ったんだ。たったそれだけで、俺の拳が悲鳴をあげる。嫌な音が肉体を通じて直接脳に響く。
「ぁァア!?」
「馬鹿な男だぽよぉ、魔法少女でもない君の力でボクをどうにか出来ると本気で思っていたぽよか? おめでたいやつだぽよ」
「ぐぎィィイイ!!」
「悪いぽよな、株式会社トッテモワルインデス。見たとおりで、今回の魔法少女がぽんこつだからちょっと戦いは今度にしても良いかぽよ」
ちくしょう……ッ!!
腕が、手がぁ!! 痛い……! 痛いぃ!! 痛くて動けない!! 漫画とかじゃ怪我しても動くのにっ! 無理だよ、痛いんだよ! 拳の骨が折れたことなんか初めてなんだよ悪いかぼけ!!
「メガっ! ちょ、ちょっとどういうことだよチーカマ!!」
「どういうことも何も、ミラクルが役に立たなくなったから処分しただけぽよ。まったく、こっちの都合も考えてほしいものぽよ」
「だ、欺してッ!!」
「人聞きの悪いことを言わないでほしいぽよ。ボクが何を欺したというんだぽよ。欺していたのは君たちのほうだろぽよ? 自分が男だということを黙って魔法少女になって喜ぶ変態だってぽよ」
「だッ! そ、れは!! 僕以外が全員ちゃんと女の子だって君が言うから!」
「女の子が魔法少女になってくれるように善処するとしか言ってないぽよ」
そう、いう感じね……ッ!
だとすれば、最初に魔法少女になったデブにはそういったかもしれないが、俺にはしっかり言っていたはずッ! 仲間は元から女の子だって!!
ということは……!
スノウさんの正体は、どうせチビだろッ!! くそ、俺達全員馬鹿にされてたってことかよォ!!
「ふむ……、相変わらずなかなかの商法を行っているようだな」
「最近魔法少女になってくれる人材が枯渇していてね、ボクも仕方なくだぽよ。可哀想なボクぽよ」
「しかし説明不足は些か丁寧さに欠けるのではないかな」
「悪人に丁寧さを説かれてもなぁ、ぽよ」
「それもそうだが……、しかし、君のような存在は生かしておくわけにはいかないようだ」
「はッ! なりたて魔法少女の5000倍は魔力を持つボクを倒す気ぽよ? こっちは逃げ切るだけで勝ちだというのにぽよ?」
「無理だと言われようとも、やらねばならない時はあるのだよ」
はっきりと分かることは、確実に株式会社トッテモワルインデスの総帥のほうがまともだということだろう。
拳が痛すぎてまったく役に立たないけれど、俺も彼の手助けをするッ! シャ、じゃなかった。
「デブッ! チビッ! 詳しい話はあとでしよう! このウサギ野郎をぶち殺すぞ!!」
難しいことも面倒臭いこともウサギ野郎を殺してから考えるッ!!
「あ、あのッ!!」
意気込む俺と総帥に、水を差し込んだのはさっきから黙り続けていたスノウさん。
もとい、チビであった。
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