第29話


 頭が働かない。

 恐れていたことが現実となってしまった。それはもうウサギ野郎のせいで。


 よりにもよってシャインさんの腕の中で私は俺に戻ってしまったのだ。もう、どんな言い訳だって通じない。せめて、せめて少しでも視線から逃れられる状況であれば、そんなことを今考えても何も解決はしないのだ。

 すぐ近くに敵が、それもその親玉がいるということでさえ今の俺にはどうでも良すぎることである。そんなことがいったい何だと言うのだ。このどう見ても世界征服する気があるのか分からない連中なんかよりも、俺には目の前の俺の世界のほうが大切なんだから。


「……ぁ……、ぁ……」


 何か言わなくては。

 それだけは分かるのだ。何か……、言い訳じゃない。だけど、何かを言わなくてはいけないんだ。だというのに、俺の口はパクパクと開閉するだけで、声とは言えない微かな音が喉から掠れ出るだけである。


 だからこそ、


「メガネ……?」


 小さく。

 本当に小さく、本人でさえ無意識なほど小さく、シャインさんの口から俺のあだ名が出たのを聞き逃すことはなかった。

 それが、幸か不幸かは分からないのだけど。



 ※※※



 正直言って、僕はあの時ジェットコースター並みの急展開について行けていなかったんだ。

 チーカマが敵のアジトを見つけたと言ってきたときは嬉しかった。まさに、魔法少女的な展開の一つだと、ちょっとズレた方向から喜んだんだ。


 だけど、実際に向かってみれば普通の会社にしか見えないし、対応だって普通の会社っぽい。まだ高校生だし、これが普通なのか分からないけどね。


 そこから怪人を生み出していたスーパー怪人が現れて……、と思ったらミラクルの一撃で倒れてしまって、そしたら敵のボスが現れたんだ。

 ここまでは、ここまではまだ僕だって付いていけていた。正直、打ち切り間近みたいな展開の速さだぁ、と思わなくもなかったけれど、初期の段階から敵のボスが出てくる展開もありではあるし、こういうこともあるかな、と思えてもいたんだ。


 でも。

 その次は駄目だった。

 その次に起こってしまったことを冷静に処理出来るほど、僕の脳みそは優秀じゃない。


 だって、そうでしょう?

 僕の腕の中に居た、小さくて可愛くて格好良くてやっぱり可愛いミラクルが、


 高校の同級生に変わり果てたんだから。



 ※※※



「ウサギぃぃいいい!!」


 全てが分かったわけじゃない。

 どちらかと言えば、俺の推理が間違っていてほしいとすら思っている。シャインさんの正体は本当に女子高生で、俺の学校の人間で、俺がメガネと呼ばれているのを理解している人間で。

 そんな考え方だってあるのかもしれないけれど。


 こいつの。

 このウサギ野郎が今までやってきた碌でもないことを思い出した時、俺に降りかかるのは考え得るなかでも最低最悪なことだとして行動して問題ないはずだ。

 というか。そもそも、いきなり変身解除とかされただけでも行動に移すには十分な理由と言える。


 つまり、

 俺のことをメガネと呼んだシャインさんの正体は……ッ!!


「あ、デブくんだよぽよ」


「チーカマ!?」


 やっぱりかァァアアア!!

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