第21話


 遂に来た。

 遂に来たのだ。


 いままで後手後手に回るしかなかった俺達が、先手に回る日が来たのだ。今日、俺達は敵のアジトの一つへと襲撃をかけることになっている。

 勿論これで全てが解決することなどありはしないが、少しでも株式会社トッテモワルインデスについて情報が得られれば御の字だ。早いところこのふざけた悪の組織を滅ぼして俺は仲間達についている嘘から解放されたい。


 その後は、彼女たちの前から姿を消そう。もしかしたら寂しい思いをさせてしまうかもしれないが、ミラクルの正体がただの特徴のないパっとしない男子高校生だなんてバレてしまえば彼女たちにトラウマを植え付けかねないからな。


「おぃ」


「痛てっ」


 思考の海に沈んでいた俺を誰かが叩く。

 思わず痛いと言ってしまったが大した痛みではない。


「腹でも減ったか? もう少しで授業終わるから我慢して、最後まで集中しなさい」


 顔をあげれば、呆れた顔の担任の姿。

 しまった……。いくら物わかりの良い先生といってもまったく集中していないことがバレてしまっていたか。


「すいません……」


「はい、それじゃあ続きを行くぞ。教科書の25ページを開け」


 ここで俺がクラスのそれなりの地位であればクスクスと笑い声が響き渡っていることだろう。

 だが残念だったな。俺ほどの存在になると、こんなミスで笑ってくれる奴らもほとんどいないのさ!

 デブやチビは笑いたいだろうが、ここで自分たちが笑っても場を白けさせるだけなのを理解しているからな。


 ……悲しい。



 ※※※



「今日はどうも多いよね」


「なにが?」


 昼休み。

 いつもの三人で弁当を(チビはパン)を摘まんでいればデブがいきなりぶっ込んできた。主語と目的語を言え。現国教師にチクるぞ。


「メガネの妄想だよ」


「ああ、四限は最高だったな。高校生にもなって教科書で頭叩かれるとかっ」


「うるせ」


 やっぱり思った通り笑いたかったのを我慢していたのだろう。

 思い出したように笑い出すチビ。とはいえ、大声で笑うことなんてしない。そんな目立つ真似は出来ないからな。分かる、分かるぞその気持ち。


「悩み事?」


「いや、そういうわけじゃ」


 笑うチビと違って、デブの顔には心配の感情が浮かんでいる。

 やはり身体が丸いと心も丸いのだろうか。


「じゃあ、エロい妄想だな」


 チビとはいつか殴り合う必要がありそうだ。


「ちげぇよ」


「気にするなって、オレたちの年齢じゃ普通なことだからよ」


「つまり、チビもそういう妄想をしていると」


「男だからな」


 無駄に自信を張るこの姿勢は見習う……ところはないな。間違いなく馬鹿の形容詞を頂くだけだ。


「お前のことだからどうせ母親にエロ本見つかってとかだろうが」


「古いなぁ、そもそもオレはそういうのはパソコン派だからな。加えてオレのマ、んぐっ、母親は機械弱いから完璧ってわけよ!」


「ほぅ」


「ふぅん」


「な、なんだよ!!」


 慌てて誤魔化そうとするチビの態度に俺とデブが顔を見合わせてにんまりと悪く笑う。


「「ママ」」


「悪いかッ」


 別に悪いことではない。

 ないのだが、慌てている相手を弄る分には面白いじゃないか。ぶっちゃけて言えば母親のことをママと呼ぼうが、マミーと呼ぼうが、名前で呼ぼうがなんでも良いと思うけどな。


 ……あれ? 何か同じことをしなかったっけ?

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