第19話


「株式会社トッテモワルインデスによって欲望を増幅されて自我を失った人間達なんだぽよ」


「やっぱり……」


 元々は人間だったのか。

 ある意味でよくある展開だけど、そうなると今まで俺たちが倒してきた人たちは無事なのだろうか。


「分かっているのはこれくらいぽよ」


「そうか。ありが、うん?」


「ぽよ?」


「それだけ?」


「だからさっき全てが分かっているわけではないって言ったじゃないかぽよ」


「ああ、いや、そういうことじゃなくて……」


 確かにこいつは言っていた。ある程度は分かっていると。それはつまり、ある程度しか分かっていないということだ。

 敵として戦い続けている怪人が元は同じ人間だということが分かっているだけでも十分すぎる情報ではあると思う。本音を言えば、俺が思ったように退治したらどうなるか、とかどうやって変貌させているのか、とかが気にはなるがそこは分からないのであれば仕方ないだろう。


 そんなことより、


「それだけなんだよな」


「しつこいぽよな」


 それはつまり、


「じゃあ、あれか」


「何ぽよ」


「たった一行で終わる説明をお前は面倒くさがっていたってことか?」


「そうぽよよ?」


 何を当然なことを、とウサギ野郎はきょとんとする。

 ウサギの表情なんか一生分かることはないと思っていたが、最近になってこいつのせいで少し分かるようになってきた。いつかウサギの表情が読めることを芸として披露出来るのではないだろうか。


「……まぁ、説明って面倒だもんな」


「そうぽよ。特に童貞と話すとか苦行以外の何者でもないぽよ」


「それは分かる。俺もどうせ話すなら可愛い子とか綺麗な人とかのほうが嬉しい」


「そういうことぽよ! 分かっているじゃないかぽよ!」


「まあ、俺も男だからな。それじゃあ今日はありがとうな!」


「気にするなぽよ! 明日からも頑張ってほしいぽよ!」


 爽やかな笑顔を浮かべながら、俺たちはまるで部活のチームメイトのような、もしくは3組のような爽やかさで、すっかり沈んでしまっているはずなのにどこからか出現した夕日をバックに、挨拶を交わすのだった。



 ※※※



「とかなると思うなよてめぇ!!」


「無駄にしょうもない演出を起こせばそれっぽい見た目になると思うなぽよ!」


「うるせぇ!! 一回乗らねえと耐えられねえほど酷い反応だったんだよ、こらァ!!」


「はッ! 童貞が恫喝しているぽよ。滑稽すぎてへそで茶が沸くぽよ!」


「てめぇのへそがどこか分かんねぇんだよ、この毛むくじゃら!!」


「ぎゃははっ! げは、げはははっ」


「そこはぽよよっ、とかだろうがてめぇの笑い方はッ!」


「そんな笑い方はあり得ないだろ……」


「冷静になってんじゃねぇえええ!!」


 俺とウサギ野郎による深夜の決闘は(出現していた夕日はうっかりに気付いててへぺろと帰って行った)その後一時間近く続くことになる。

 変身しようにも変身を出来ないようにすることがウサギ野郎は出来るらしく、一方的に俺が殴られ続ける結果になってしまったことはここに記しておこう。いつかあいつとは法定で決着をつけてくれる……ッ!!

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