第16話
結局碌な事が分からないままウサギ野郎には逃げられてしまった。もう疲れたぽよ、とか言い出しやがる。
そのせいで結局怪人がどうやって生まれるのかは分からず仕舞。人に取り憑いて悪さをする悪い気持ちの集合体ということは……、やはり元は人間なのだろうか。
だとすれば退治したあと消えてしまうのは、もしかして殺してしまっている?
考え出してしまえば恐ろしいことだが、だからといってここで手を抜くわけにはいかない。
あと、敵の名前もくっそ適当だわのこの戦いのなかで、そこだけシビアな設定になっているとか思いたくもないので、きっと怪人になった人間は無事だろうと思うことにしている。株式会社トッテモワルインデスに人が殺されてたまるか。株式会社だぞ。
そんなことを考えながら登校すれば、珍しくチビのやつが先に来ていた。さすがに三連続の後は反省もしているようだ。
「おっす」
「お? おぉ、おはよ、ふわぁ……」
「眠そうだな。腹の調子はもう良いのか?」
「腹? あ、ああ! ああ、腹ね、うん、腹。腹はな、腹だって感じでもうだから、あれだな、腹だな」
どうやら眠気でとうとう馬鹿になったらしい。いや、元から馬鹿だったのかもしれない。
「おはよう、あれ、今日はチビちゃんと来たんだ」
「来ては居るがこいつはもう駄目だな」
「どういうこと?」
「俺たちの知っているチビはもう居ないってことさ」
「ぉ、おいおい! いくらなんでも酷すぎるって!」
ん? なんだ?
からかっているんだからそりゃ反応ぐらいするだろうけど、妙に慌てた反応を示したな……?
「どうしたのさ、そんなに慌てて」
デブもチビの反応に違和感を覚えたらしい。ということは俺の勘違いというわけでもないわけか。
ん? 待てよ、確か……。
「そ、そんなことはねぇぜ? オレはいままでもこれからもただの日本人で平和に暮らして万々歳だ!!」
なるほど。確か昨日こいつは浪漫がどうのと言っていたはず。
つまり、これがこいつの言う浪漫溢れる返しということか。……、こいつにそんなことされても浪漫をまったく感じ取れないんだが、これは俺のせいではないと思う。
「はいはい、そうだな。チビは今まで通り平和を愛する一般市民だな。悪の秘密結社とか似合わない普通のな」
「ぁ、あはは。なにそれ秘密結社って子どもじゃないんだから」
うッ! しまった、ついうっかり……! くそ、これも全部あのウサギ野郎のせいだ……。
――どがしゃーん!
「「チビ!?」」
椅子に座ったまま後ろに倒れるってお前どれだけ動揺してんだよ!? え、なにそれ浪漫って言ったってやりすぎじゃね!?
「そ、そそそそうだよ!? オレはそんな平和を守るために戦うとか絶対にしていないよ!?」
「本気で頭大丈夫か?」
「保健室行ったほうが良いんじゃない?」
ゲームが好きだとは知っていたが、ゲームが好きだとここまでオーバーリアクションを取らないといけなくなるものなんだろうか。
その後もチビの挙動不審は続くのだが、担任がやって来たこともあり俺達はそれ以上彼に追求することは出来なかった。
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