第12話
「シャイン!」
「シャインさん!」
「スノウ! ミラクル! 良かった、手伝って!!」
俺……、いや、私たちが声を掛ければ気付いたシャインが満点の笑顔を振りまいた。ああ……可愛い……、じゃなくてッ!
「あいつが今回の敵ね」
「怪人コロッバセオ。能力は相手を転ばせることなんだけど……、あいつさっきからこっちと戦わずに一般人にばかり攻撃するのッ!」
「転ばせた上で攻撃までッ!?」
「あ、ううん。転ばせるだけ」
「え?」
転ばせるだけ。転ばせるだけか。
……、またしょうもない怪人か……。
転んだだけでも怪我するし、最悪骨折だって引き起こしかねないのでしょうもないと言ってしまうのは駄目なのかもしれない。けど、さ……。怪人って言うんだからそこはさぁ……!
この間の怪人もドーナツを辛くするだけだったし、本当にどうなっているんだよ!
「またしょうもない……、でも放置は出来ないね」
「そうですね……!」
スノウ……ごほん、スノウさんの意見も私と同じ。
そして彼女の言う言葉の通り、だからといって放置して良いわけではない。怪人は全員退治しないといけないのだから!
「シャイン、ワタシとミラクルに敏捷強化付与お願い。ワタシが相手を誘導させるから、ミラクルはトドメを」
「まっかせて!」
「はい!」
可愛さを一旦度外視すれば、俺が持っているのは短い魔法杖。そしてシャインさんが持っているのは同じく杖だが長さが違う。
羊飼いの杖とでも言えば良いのだろうか。身長よりも長く、そして先端には可愛らしいデザインの小さな鈴が付いている。
まるで新体操のバトンのように長い杖をくるくると器用に回転させながらシャインは呪文を唱えていく。
「きらきらぴかぴか願い星! ミラクルとスノウの足よ速くな~れ~ッ!」
シャインさんの魔力が力となって私とスノウさんの身体を軽くする。今なら高層ビルだって飛び越えられる気がしてくる!
「行きますッ!」
地面を軽く蹴る。
たったそれだけで私の身体は二人を置いて弾丸のように飛び出した。
「おおっ! はっやぁい!」
シャインさんの声がはるか遠くへ飛ばされていく。
だが、大都会のオフィス街は想像以上に入り組んでおりただ速いだけでは怪人を追い詰めることは難しい。
「転ぶばっせ! もっともっと躓いて転んで挫折してひきこもってしまうばっせっせ!」
せっかく相手を見つけても、狭い路地に逃げては消えるを繰り返される。
地形を熟知している相手の行動はとても読みにくく、その間にもどんどん被害者だけが増えていく。
「くそッ……!」
「ころばっせっせ! この街でオレ様を捕まえようなんて100年早いばっせっせ!」
少しずつではあるが距離は詰めている。
捕まえるのは時間の問題とはいえ、このままでは被害者は止まらない。だけど。
「さぁって次はこっちぴぎゃァ!?」
路地へ入ろうとした怪人の足元が破裂する。別の路地へ逃げ込もうとすればまたその地面が破裂する。
足元が破裂し続け狼狽える怪人はまるで下手くそなダンスを踊っているかのようだった。
「さすがはスノウさん……ッ」
彼女の得意技は遠距離魔法。そして彼女の武器は杖でもステッキでもなくまさかのスナイパー。
ウサギ野郎曰く、あれも杖らしいのだが馬鹿を言わないでもらいたい。
一発一発の威力が弱く、当たっても頑丈な怪人には大したダメージを与えることは出来ないのだが、怯ませたり、今回の様に足止めとして十分すぎるほどの効果をはっきりする。
「追いついたァ!!」
「ころォ!? お、おのれぇぇ!」
スノウさんが誘導したのは袋小路。ここまで追い詰めればあとは簡単一発ノックアウトだ。
「お前さえなんとかすればまた逃げれるばっせ! 転んでしまうばせぇぇ!!」
手を前にして能力を使う。
このままでは私はカッコ悪く転んでしまうだろう。だけど。
「ばせぇ!?」
そんなこと気にも留めずに私は進む。
ただまっすぐに地面を蹴り駆ける。
「馬鹿めばせ! そのまま転んで顔面強打しろばせぇ!!」
怪人の魔法が私へと……、
「きらきらぴかぴか願い星! ミラクルを守って!」
届くことはない!
若干息を切らせ気味のシャインさんの声がする。彼女の魔法が私を守ってくれる。
「そ、そんな……!!」
「煌めくハート! 輝けドリーム! ミラクルスーパー……!」
「ことがぁぁぁx!!」
「ジャンピングキックッ!!」
「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
特に魔法を使うまでもない。
強化された魔法少女の身体能力さえあれば、ただ突っ込んで飛び蹴りをするだけで相手はめり込み倒される。これが近接特化の力だ!!
ちなみに、魔法を使っていないのにハート! とか、ドリーム! とか叫んでいるのは様式美だ。これをしないとあとでウサギ野郎が煩い。
「えぇぃ……やァァ!!」
めり込ませた足を軸に身体を捻り、怪人を地面へと張り倒す。
さぁ、これで一件落着だ。
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