第11話


「ミラクル」


「スノウさん!」


 校舎裏で変身メタモルフォーゼした俺が一般人に見つからないように家の屋根を飛び跳ね現場へ向かっていれば、後ろから頼りになる仲間の声。

 遠距離魔法を得意とするクール系美少女のキューティースノウだ。後ろから来たってことは……、もしかしてうちの学校の近所にあるお嬢様学校の生徒だったりするのだろうか。

 っと、いかんいかん。詮索してはいけない約束だったな。俺のほうが詮索されるとヤバいんだから。


 今回現れた怪人は、人を転ばせることを生甲斐としている怪人コロッバセオというらしい。なんというクソなネーミングセンスだ。


「シャインから先に行くって連絡が来た。ワタシたちも急ごう」


「はい!」


 年上(ということになっている)であるためか、接近戦を得意としているのは俺のほうなのにスノウが先導を開始する。

 不思議なことに俺たちの衣装はかなり攻めているミニスカートであるにも拘わらず飛び跳ねていようが、更には真後ろに陣取っていようがその中身が見えることはない。

 いや、別に積極的に見にいこうというわけではないのだが、それでも不可抗力で見えてしまうものは仕方がないと思うし、それを犯罪者扱いにしてしまえばそれは世の中の男性諸君にとって外を出歩くなというのと同義であってだな!!


「ミラクル? もしかして緊張しているの?」


「へ?」


「大丈夫。ワタシとシャインが貴女を全力でフォローするから」


 黙って考え事をしていたのが不安になっているように見えてしまったのだろうか。なんとも悪いことをしてしまった。


「は、はい! 大丈夫です! 私も魔法少女ですので……ッ」


「そう。そうね、……頼りにしているわ」


 ふぉぉぉ! 振り向きながら美少女が小さく微笑んだ! 俺に! この俺に! 美少女が! 微笑んだ!!

 落ち着け! 落ち着くんだ……ッ! スノウは俺が女の子だと思っているからあんな風に笑いかけてくれるんだ。ここで童貞丸出しの馬鹿な反応して怪しまれるわけにはいかないッ!


「ミラクル!?」


 足を滑らせて屋根から落ちかけました。



 ※※※



 現場は大変なことになっていた。怪人コロッバセオが出現したのはまさかの高層ビルの建ち並ぶオフィス街。

 ピシッとスーツを着こなし、七三分けの戦うサラリーマン達がそこら中に転げ回ってしまっている。


「ば、馬鹿な……ッ! まだたったの勤労25日目……! どうして! どうしてだ僕の足マイレッグッ!」

「エナジードリンクが切れたッ!? さっき三本一気飲みしたのにっ!」

「申し訳ありません、足の骨が折れてしまい。はい、申し訳ありません! いますぐに這いずってでも参ります!」


 将来に夢がなくなっていく……。


「ころばっせっせっせッ! どうだぁ! いままで大した挫折もせずに温々と大学を出て会社に入った愚かなサラリーマン共め! このオレ様が貴様達に挫折の味をくれてやるばっせっせ!」


 まさかと思うが、あれは語尾と笑い方だろうか。

 と言いたいが、事実である。なにせこの間のカライスキーノの語尾はかっりゃぁ! だったからな。


「こらァ! 正々堂々アタシと戦えー!」


 次々に七三サラリーマンを転ばせながら走り続けている怪人をシャインが追いかけていた。

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