第9話
「放課後音楽室の掃除一週間だった……」
「どんまい」
「三日連続はねぇ」
好物は最後まで取っておくほうである。
三つあった唐揚げの最後の一つを頬張っているとチビが肩を落として教室へ戻ってきた。
先生に呼び出された彼を待ってやるほど優しくもない俺たちは食べ終えた弁当を片付けていく。
「で? どんなゲームに嵌まっているんだよ」
「ゲーム?」
昼飯代までゲームに費やしているチビの飯は常にパンだ。近所のパン屋で夕方になると残り物を詰め込んだセール品が売られているらしい。
「最近遅刻が多いのは夜遅くまでゲームしているからだろ?」
「僕らでも一緒に出来る系?」
「あ。……あー、いや……」
珍しい。
ゲームの話を振ってチビが言いよどんだのは初めてだ。いつもならこっちが聞くのも面倒になるほどの熱量で話してくるというのに。
これはまさか……。
「エロゲーはほどほどにしとけよ」
「あ、そっちかぁ」
「違ぇよ!!」
「はいはい、そうだな。違うよな」
「あれだよね。これはエロゲーじゃなくて泣きゲーだって言うんだっけ、こういうとき」
「そういうゲームの面白さを否定はしねえけど、オレはあんまりやらないの! どっちかといえばRPGとかシューティングのほうが好きだっていつも言っているだろうが!」
「お前のどっちかと言えばは一般人には当てはまらないだろうが」
「チビは本当にどんなゲームでも手を出すからね」
「そうだけど、今回はそうじゃねえの!」
「じゃあ何だよ?」
聞けばまた言葉を詰まらせたチビが手にしていたパンへと逃げてしまう。これ以上聞いても彼の機嫌を損ねるだけだろうし、本音を言えば犯罪に手を染めてさえいなければ別に何をしていても良いとも思うので。
「分かった、分かった。この話はこれまでな」
「でも、これ以上は遅刻はまずいよ?」
「それは……気をつける」
話を締めるにはこのくらいがちょうど良いだろう。仲良くなったと言っても所詮はまだ一ヶ月程度。あまりとやかく言うには俺たちの間に流れている時間は短い。
「今日は俺暇だから掃除手伝ってやるよ」
「僕は18時までなら」
「心の友よ!」
聞かれたくなかったことを聞いてしまった詫びはこのくらいで良いだろう。
暇なのは本当で、家に帰ってもあの腹の立つウサギの相手をするぐらいしかないのだ。それなら友だちと一緒に掃除しているほうが何千倍もマシってもんだ。
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