第8話


「おはよう、メガネ」


「おー、おはよう」


「チビは?」


「どうせギリギリだろ」


 余裕を持って登校する俺やデブとは違ってチビのやつは予鈴ギリギリでしか学校へ来たことがない。朝が弱いんだと言っていたが、どうせいつも夜遅くまで夜更かししているに違いない。


「今日は遅刻しないといいけど」


「そういや昨日も一昨日も遅刻してたか」


「さすがに三連続は先生も許してくれないんじゃないかなァ」


 たった一ヶ月ですでに生徒から好かれている俺たちの担任はなかなか話の分かる人ではあるが、それでもデブの言う通り三連続は許してくれはしないだろう。

 反省文になるか、罰掃除になるか、その両方か。後者なら暇な時ぐらいは手伝ってやっても良いかな……。


「面白いゲームとか出てたっけ」


「いやぁ? そんな話は聞かないけど、チビだからなぁ……、レトロゲームでも喜んでやるだろうし」


 今時の子の例に漏れず俺もデブもそれなりにゲームを嗜む。ちまたで人気になるゲーム程度ではあるが、某有名RPGや某有名パーティーゲームくらいなら手を付けはする。

 だが、チビはかなりのゲーム好きで、聞いてもまったくピンと来ないタイトルや俺たちの親が子ども時代に売られていたゲームなんかにも手を出しているらしい。


「そんなことよりお前今日の英語大丈夫なのかよ。確か当たるんじゃなかったっけ」


「予習はしてきたけど、正直微妙……」


「助けてはやれん」


「知ってる……」


 どんぐりの背比べではあるが、英語の成績は俺よりデブのほうが上である。社会は俺のほうが上だけどな。不思議なのはあれだけ歴史ゲームにも手を出しているチビが一番歴史も地理も低いことなんだけど、本人曰くゲームと勉強は関係ないらしい。


「はーい、席につけー」


「あーあ」


 そうこうしている間に予鈴が鳴って担任先生様がおいでとなる。チビはまだ来ない。


「三連続だね」


「合掌」


「うん? ……はァ、あいつはまた遅刻か。どうなっているんだ?」


「俺に聞かれましても」


 いくら三人組として認識されていようとも俺たちは他人同士なわけで、家だって離れているんだからチビの状況なんて分かるはずがない。

 家が隣同士の幼馴染なんてありえないってことだ。スマフォで聞いてやるくらいは出来るけど、そんなことしてたら気持ち悪いっての。


「すいません! 遅刻しました!」


「あとで職員室な」


「そこをなんとかッ!」


 話題に出せば出てくるのは便利なもので。

 先生が閉じた扉を壊れるんじゃないかという勢いで開けて飛び込んできたチビが必死で弁解を試みている。

 諦めるんだ。それ以上わめき散らしても笑いが取れるのはクラス上位の連中だけで、俺たちみたいなのがしても女々しいだけなんだから。

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