第5話


 つまりはこれが俺が魔法少女になってしまった訳なんだ。

 魔法少女にはよくあるパターンで俺には仲間が居た。二人とも本当の美少女でウサギ曰くは元も女の子だとか。

 彼女たちは俺の正体を知らない。中身が冴えないどころか特徴のないただの高校生メガネ男子だということを。メガネ男子と書くとちょっと格好良く見えるな……。


「やっぱりドーナツは甘いほうが良いよねぇ」


「甘すぎるのもどうかと思うけど辛いよりははるかにマシね」


 俺が男だと知らないから、さっきみたいに時折シャインが俺を抱きしめてくれる。それはもうご褒美と言うべき幸せタイムであると同時にバレた時を想像すると恐怖で吐きそうになってしまうほどだ。

 かなり体格が小さくなってしまっている俺は年齢が中学一年生だと嘘をついている。シャインもスノウも高校生らしく、更には魔法少女になったタイミング的にも俺が一番後輩なこともあって二人にはかなり可愛がってもらっている。


「いつかみんなで食べにいけると良いねぇ」


「そッ! それは……」


「駄目よ、シャイン。魔法少女になっていない時のワタシ達はまったく戦えない一般市民なんだから」


「分かっているよぅ……、その時を狙われないように二人にも正体は秘密にしておくべきだってことぐらい」


「へ、平和になった時に……いける、と良い……ですね……」


「そうだよねぇ! ミラクルの言う通りだよぉ! いつかみんな一緒に遊びに行けるよう明日からもがんばろーッ!」


「はァ……、シャインのお気楽さが羨ましいわ」


 溜息を零すスノウもそれでいてまんざらではない様子である。

 それはそうだろう。二人はここに居る全員が女の子だと思っているのだから。世界のために命を賭して戦う仲間達とはそれはちゃんと平和に遊びたいと思う気持ちはあるはずだ。


 絶対に……。

 バレるわけにはいかない……ッ!!


「おーぃ! みんなー! お疲れ様ぽよーッ!」


「あ、チーカマだー」


「相変わらず終わってから現れるのね」


 ふよふよとどこからか飛んできたのは俺を欺しやがったあのウサギ野郎。ちなみに名前はチーカマと言うらしい。巫山戯んな。


「仕方ないんだぽよ。僕は三人のサポート役なだけで戦闘能力はないんだからぽよ」


「その分いつも助けてくれているんもんね~」


「さすがはシャインぽよ!」


「まったく……」


 声を大にして言いたい。

 出会った時に俺に喰らわしたボディーブローが何だったのかを。確実に戦えるだろうと言うことを。

 だが、それを叫べば俺の正体について話さないといけなくなるかもしれない。必要がなくてもこのウサギのことだ。あ、しまったぽよーとか言ってさらっと暴露するに決まっている……!!


「それで? あとどれくらい倒せばワタシ達は自由になれるのかしら」


「ごめんぽよぉ……。まだボスの場所が分からないんだぽよ……。いまは地道に戦ってもらうしかないんだぽよ」


 俺たちが戦っているのは、なんとかかんとかって言う悪の組織らしい。人に取り憑いて悪さをする悪い気持ちの集合体だとかなんとか言ってたけど。正直……、どうでも良い。


「じゃあじゃあ! 新しい仲間になれる子とかは居ないの? もう少し仲間が居ても良いと思うなぁ」


「それもごめんぽよ……。なかなか素質のある子は簡単には居ないんだぽよ」


 親の許可もいるしな。


「あの……、私はそろそろ」


「あ、そうだよね! ミラクルははやく帰らないとね!」


「変身を解く時は注意してね。人気がないところが一番だけど、あんまり危ないところだと戻った時が危険だから」


「は、はい! 分かってます……」


「安心するぽよ! ミラクルには今日も僕が付いていくぽよ!」


 断りたいが断るのもおかしく見えてしまうとずっとウサギ野郎は俺に付いてくる。最近、自分のどんな行動がどう映るか心配になって胃が痛い……。

 二人と別れ、魔法少女として手に入れた身体能力で暗い夜を飛び跳ねればすぐに家の近くまで帰ることが出来る。


「いやぁ、今日も立派に二人を騙せていたぽよな」


「言うなくそったれ!!」


「慕ってくれている二人に君の正体がまさか男だとバレたら大変なことになるぽよぉ」


「絶対お前の方が悪役だからな! いつか絶対に退治してやるからな!!」

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