エピローグ ニンジャ、これからもデートする。
大団円! デート再び!
数日後、オレたちに日常が戻ってきた。
また退屈な日々が始まる。
優月とも、もう会えないだろう。
今はロクに身動きが取れなさそうだし。
二人の転校生が、黒板の前に並んで立っている。
「榎本鏡華です。よろしく」
「河南、優月、です」
オレは変な声を上げて、立ち上がった。
「優月!?」
「げ、虎徹!?」
優月もこちらに気づく。
「どうしたお前ら、知り合いか」
オレと優月が、息のピッタリ合った動作で、手を仰ぐように振る。
「丁度いいな。おい河南、お前は虎徹の隣な。榎本はそうだな。吉原の隣で」
全てを知っているらしきカガリが、困惑するオレたちを見てニヤニヤと笑っていた。
んだよ、そういうコトかよ……。
◇ * ◇ * ◇ * ◇
オレと優月は、数日ぶりに落ち合った。
合流場所は、三度目のデートで訪れた、太一が経営する遊園地である。
「あ、あんた達ねえ、ホントはこうなるって分かってたんじゃないの!?」
優月が激おこ状態で、オレとカガリを遊園地の壁際に追い詰める。
「あたしがバカみたいじゃない! 一人で騒いで、一人で泣いて、一人で喚いて。もう頭にきちゃう!」
「いや、その……なあ?」
オレはカガリに視線を合わせる。
「そうそう。ボク達にも予想外だったんだよ。ね、虎徹くん?」
カガリも同様だ。
「あの状態が!?」
優月が、遊園地の観覧車で仲良く手を繋いでいる「鏡華と太一」を指差す。
「オレだって予想外だったんだよ! 二人があのままヨリを戻すなんて!」
あの後、太一と鏡華は交際することになったのだ。
めでたいことなのだが。
「言っておくけど、この件に関して、MIBは一切関与していないからね。虎徹君だって、優月君をからかう為に仕組んだわけじゃないから!」
「当たり前じゃない! もし、あたしをおちょくるための仕込みだった場合、今度こそ許さないから!」
優月が、今にも武装しようという勢いで睨み付ける。
「け、結果的によかったじゃんよ。二人が宇宙の秘密に関係なく、恋人同士になれたんだし」
「そうだよ。喜ばしいことだ」
オレとカガリが取り繕う。そう。これは不測の事態だったのだ。
「ホント、調子いいんだから」
怒りつつ、優月は二人の様子をホッとした表情で見守る。
実は、本当に予想外だった。オレだって驚いている。
太一は、何もかも忘れていた。
オレと優月が宇宙の秘密と関連してることも、欠片のことも一切合切。
オカルト趣味と、天才的な頭脳だけはそのままで。
ご都合主義かと思うくらいに。
鏡華によると、手稿が消滅の際に太一の記憶を持って行ってくれたのでは、という。
そんなバカな、とオレは思った。
同時に、あの手稿ならやりかねないとも。
「何、ニヤニヤしてるのよ虎徹? 気持ち悪い」
「うるせえ」
手稿の中に眠っていた『彼』なら、可能だろうと思っていたところだ。
優月には言えるわけないが。
「ところでよ、鏡華の今後はどうするんだ?」
「亡命の手続きはこっちでしておいた。鏡華君は名実共に地球人として暮らせるよ」
どのみち、鏡華は二度と故郷には帰れないからな。
「とにかく、もう鏡華君に危害が及ぶことは決してないだろうさ」
同時に、太一が手稿で得た知識も、すっかり失われたという。
「どうして欠片は、吉原に起動コードを解読させようとしたのかしら?」
オレは思うところがあった。
優月の父親が、太一を通してオレ達に手を貸してくれたんじゃないかと。あの海賊共を倒すために。
考えすぎだろうか?
「ちょっと虎徹、何ボーッと空なんて眺めてるのよ?」
「何でもねえよ」
優月には、言わないでおこう。
事実を知るには、こいつはまだお転婆すぎる。
また暴走しかねない。
とにかく、太一と鏡華については喜ばしい事だ。
今度は誰も傷つかないし、誰も困らない。
それでいいじゃないか。オレはそういう結論に達した。
「それじゃあ、説明が終わったから、ボクは退散するね。星雲大帝の処理も残っているし」
カガリはベンチから立ち上がる。
「待ちなさいよ、KJ!」
背を向けようとしたカガリに呼びかけ、優月が立ち上がった。
「それとこれと、どういう関係があるっていうのよ!?」
優月は、自分の制服を引っ張る。
ちなみに、優月も鏡華も、銀星第一高校の制服を着ているのだ。
「何で、あたしまであんた達の学校に転校しなきゃいけないワケ?」
「仕方ないだろ? もし君たちを帰化させなければ、また狙われちゃうからね。もう君たちは、重要人物としては扱われない。ただの一般人だ。英断だと言って欲しいかな?」
表向きは「無断欠席、不純異性交遊による校則違反で転校」ということになっている。
二人とも管理するなら、オレ達の側にいてもらう方が都合がいい。
「どこが英断なのよ! あたし、バカみたいじゃない!」
納得いかないといった様子で、優月は腕を組む。
「だって、二人とも宙ノ森にいたら、二人とも宇宙人扱いになるからね」
そりゃそうだ。
未だに優月が宙ノ森にいたら、ユーニスを死なせた意味がなくなる。優月はあくまで宇宙人扱いだったからだ。
「それはもういいわ。それより、まだ納得できないことがあるのよ、KJ!」
「何だい? 殴らせろっていう頼みならよしてくれ。まだ死にたくない」
「そうじゃないわ。本当に、あんたはこの件には関わっていないのね? 何の仕込みもないと言えるのよね?」
「うん。安心して欲しい。一般人の恋路まで手を出せる程、ボク達は万能でもないし、人の生き様を制御できるほど増長もしていない。二人は正真正銘、自分たちで恋を勝ち取ったんだ」
カガリが太鼓判を押すと、優月は、安心したように微笑んだ。
「虎徹くんの件も、今回の件も、ボクは一生、自分のしてきたことを背負っていくつもりだ。謝られるような身分じゃないよ。許せないなら、それでいい」
「けど、アンタは二人が安全に暮らせるように、手を回してくれたんでしょ? 感謝しているわ」
「その分、ボクたちは君たちに守られている。持ちつ持たれつだよ」
今度こそ、カガリは遊園地から姿を消した。
「それにしても、現地人はこんなにわかり合えるのに、どうしてあたしたち海賊は、忍者と対立しているのかしらね」
優月が、センチメンタルに溢れた発言をした。
おいこれ、この間に見た映画と同じセリフじゃねえか。
オレは咳払いをひとつして、言葉を選ぶ。
「多分、因縁とか、しがらみとか、オレたちが解決できない事情があるんだろう。けどよ、気に食わなければ、オレたちが変えていけばいい」
その道はきっと険しい。
邪魔も入るだろう。
けれど、諦めずにやっていけば、いつか理解し合える世代が産まれるんじゃないか。
「少なくとも、オレはそう思うぜ」
「あんた、たまにいいこと言うわね?」
「たまには余計だ」
フン、と、優月が鼻を鳴らす。
「何々、何の話だい?」と、太一が無邪気にこちらへ向かってくる。
「お前ら仲いいなってだけ」
「そうでしょうか?」と、鏡華が小首をかしげた。
「何だよ?」
「お二方の方が、よほど仲がいいと思いますが?」
「どこがだ!?」「どこがよ!?」
(完)
宇宙忍者の任務は、爆乳宇宙海賊とのデート!? 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます