逆転! MIBの奇策!
予想外の一言に、鏡華は「え?」と漏らす。あっけにとられたような顔で、再びオレの方を向いた。
「オレは、両親を許してる」
誰に理解されなくったって、オレは、生まれてきてよかったんだって考えているんだ。
「どれだけ生まれが不幸だったとしても、環境が大変だったとしても、結局はさ、オレの生き方次第なんだ」
オレはずっと、そう思っている。
結果的に、オレはイトコやその両親、ジイサマという理解者を得た。
「太一はアンタにどんな目に遭わされたって、きっと許してくれる。オレはアンタを許せないけど、太一との出会いは、アンタにとっても得がたい絆だったはずだ。だよな、太一?」
太一は「もちろん」と、鏡華に微笑みかける。
鏡華は、オレの言葉を聞きながらうんうんと何度も頷く。
「多分、オレの両親も、同じ境遇だったんだろうなって、今になってオレは思うんだよ。だからよ、人を好きになるんじゃなかったなんて、思わないでくれ。オレは、親父とお袋が愛し合ったから、産まれたんだからよ」
オレの話を聞きながら、鏡華は太一と向き合う。
まるで今生の別れを予感しているような目で。
「何言ってるか分からねえよな。スマン。つまり、あれだ。お前らは好き勝手にしていい、って事だ」
オレが言ってやると、鏡華と太一の目から光が戻ってくる。
「いくらでも恋愛をやってくれ。オレは止めない。周りが迷惑がったって知るもんか。堂々としてろ。泣き言なんか言うな。自分のやったことに責任を持て。それが、身勝手な理由で両親を失ったオレが言える事だ。できるか?」
「……はい」
か弱い声で、けれどしっかりとした口調で、鏡華は頷いた。
あー、小っ恥ずかしいな。ガラにもないことなんか、言うもんじゃねえや。
『あのさあ、もういいかしらん?』
退屈そうな声が、カルキノスから漏れる。ハサミを開いたり閉じたりして、うんざりしているようだ。
まあ、宇宙の支配者様なんて、そういう奴だよな。
オレ達の人生観なんて知ったこっちゃないだろう。
「分かったよ。ワードは入力した。キーを渡すから全員を解放しろ」
太一が言った矢先、ワイヤーが太一の手に絡みつき、キーをひったくった。
『じゃあ開放してあげるわ! ただし、記憶を完全に消去してからね! ニャハハハ!』
「てめえ!」
『アタシ様が簡単にアンタらを開放するとでも思っていたの!?』
カガリの手によって、スマホのカメラがオレ達に向けられる。
ワイヤーによって、オレ達は無理矢理中央に集めさせられた。
そういえば、MIBにスマホのカメラを向けられるのは、『二度目』だな。
ふと、母にスマホを向けられた当時を思い出す。
オレを抱きかかえながら、あのとき母はおもむろに、自分の側にあるスマホを――
「へっ、へへっ。そういう事か」
当時の光景を思いだし、オレはおかしくなって、薄笑いを浮かべた。
「虎徹、あんた、何を笑ってるのよ!」
「これが笑わずにいられるかってんだ」
オレは余計におかしくなる。
「あんた、本格的に狂ってるわね」
完全に呆れ顔で、優月は諦観の表情を見せた。
『ギャハハハ! 観念したようね、女海賊! 宇宙の秘密が消去されたら、アンタはどこか適当に買ってくれるヘンタイを探してあげるわ! せいぜい泣きわめいて、相手を喜ばせて差し上げなさい!』
歯を食いしばる優月を安心させるため、オレはボソッと言葉を零す。
「大丈夫だ。いいか、何も聞かずに、『カメラに』集中するんだ」
「集中してたら、記憶が消されちゃうじゃない!」
「オレを信じろ。きっとうまくいく」
そうは言っても、優月はまだ納得できないようだ。
オレは、カガリとアイコンタクトをした。
カガリも、オレの考えが読めたらしい。
なんの躊躇いもなく、カガリはシャッターを押した。
しばしの沈黙。
『ギャハハ! これでもう怖い物はいなくなった。忍者も! 海賊も! MIBを生け捕りにしている限り怖くないわ! しかも、私にヴォイニッチ手稿がある。身体もある。もう恐れる物は何もないわ!』
目の前にいるガニ型の化け物が、狂ったように笑う。
「えらい喜びようだな。星雲大帝さんよ」
口元を吊り上げて、オレは告げる。
笑いを止めて、星雲大帝がオレを睨む。
『……アンタ、今なんて言ったの? なんでアタシ様のこと、まだ覚えているのよ!?』
さすがの星雲大帝も、異変に気付いたようだ。
そう。
オレの記憶は……まったく消えていない。
「うそ、記憶が消えてない! どうして?」
優月にも、何が起こったのか分かっていないようだ。
『なんですって、どうしてメモリーイレイザーが効かないのよ!?』
「効くわけねえだろ、このカニミソ野郎」
『きっとカメラに何か細工をしたのね!? そうよ、そうに違いないわ!』
カルキノスは、カメラをカガリから取り上げて叩き割った。
しかし、単体では何の細工もない普通のスマホでしかない。
『カメラ』の方は。
記憶をなくす仕掛けは、『自撮り棒』の方にあるってわけ。
けれど、カガリは何も言わない。企業秘密だからな。
昔に聞いてみたものの、「ボクも仕組みまでは分からないんだ」と零していたっけ。
オレの母親は、かつてMIBだった。だからオレは覚えていたのだ。
母はあのとき、自撮り棒をスマホに取り付けてオレを撮影したんだった。
『よくもよくもぉ。やってくれるじゃないの! フフッ。でもいいわ! これでやっと、ついに、ようやく』
してやられたというのに、カルキノスはやたらハイテンションだ。
『ようやく、憧れのロリロリボディを手に入れられるのだから!』
「……は?」
場の空気が凍り付いた。
ちょっと待て。こいつ、今、何て言った?
『パルとしての知恵や技術を手にしたまま、アタシ様は生身の人間として生きるのよ! モテモテライフが待っているんだから!』
自らの野望を吐露し、星雲大帝は高笑いをする。
「それでは、今まで吾輩達が戦っていたのは、今の技術をそのまま引き継いで生身の身体を手にするためというワケか?」
『決まってるじゃないのよ! 世界征服なんていつでもできるもの。それよりサイコーにファンが掴める肉体を手に入れる方が先よ! こんな小さい身体だと色々不便なのよ!』
機械仕掛けのロリオカマなんざ、想像しただけで吐き気がする。
「ふざけるな! 誰がそんなことの為に、欠片を使わせるものか!」
ブチギレた緋刀が、カルキノスからキ―をひったくる。
「これは、吾輩が使わせてもらう! 若返りのためにな!」
なんだと?
こいつも、自分の身体を改造するために、欠片を狙っていたというのか?
『何、トンチンカンな事言ってるの! 全ての欠片はアタシ様に使われるべきなのよ!』
「いいや吾輩だ! 貴様に欠片など、豚に真珠と同義語だな」
『銀河の帝王に向かって豚ってなによ! 行き遅れのくせに!』
「行き遅れになったから欠片で若返るのだ! そんな計算もできんのか! 貴様に男が寄りつかない年増の苦しみが分かるのか!」
『若いウチから計算してないから行き遅れるんでしょうが!』
海蛇団が口論を始めた。
これに関しては、カルキノスが超正論を述べているぜ。
黒光りする平たい物体が、どこからか飛んできた。
手裏剣か。
刃の付いた菱形手裏剣がオレ達を拘束するワイヤーを切断する。
「やれやれ、こまった孫じゃわい」
「お兄ちゃん、平気?」
忍び装束の二人組が、鏡華と太一についた。
「おのれ、戒星の手の者か!」
ワイヤーに重量を感じなくなったからか、緋刀がオレ達の脱出に気づく。
無数のアームが、亜也子とジイサマ達に迫った。
両手の剣を作動させて、オレはアームを弾く。
「ジイサマ、亜也子、二人を頼むぜ。あいつは……緋刀はオレがやる」
みんなを守るため、オレは緋刀の前に立ちはだかる。
「心得た」
「任せといて、お兄ちゃん」
「みんな、ボクに付いてきて」
カガリが四人を先導した。
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