発見! 裏切り者!

『しかし、それを裏付ける事象はあるのです。今から五万年前に落ちた隕石により、恐竜が絶滅しました』



 太一が教えてくれた、バリンジャー・クレーターの事だな。


 バリンジャー・クレーターの解説コーナーへ。


『そのクレーターに落ちた隕石が、遺伝子の書き換えを行ったのではないかと言われているのです』


「何ですって!?」


 他にも、生命誕生の期限とされる、フレデフォート・ドームも、手稿による物だという仮説もあるそうだ。


「それじゃあ、隕石落下って、宇宙人の仕業だってのか?」


『ごく一部ですが。地球を舞台にした、壮大な遺伝子書き換え実験だったのではないかと』



 宇宙人が、世界をいじくり倒していたって事かよ。



『地球側だって、やられっぱなしだったワケではありません。ツングースカ大爆発はご存じですか?』


 ツングースカ爆発のコーナーで、立ち止まる。


 ロシアで起きた正体不明の爆発だっけか。


『あの爆発は、地球側が宇宙人の侵略を阻止した事例だと言われています。地球側の資料も残されていますから、間違いないでしょう』


 やるな、地球も。


『我々が始めて出会ったのは、どこの国でした?』


 確か、イタリアの海域だったな。

 仕事仕事で、まともに観光すらできなかったっけ。


『イタリアに出現した正体不明の海底遺跡でした。あれは、優月様が持つキーが、自己防衛のために作り出した防衛システムです』



 オレは、イタリアに落ちた隕石の紹介エリアを指す。



「ミネーオ隕石の、落下ポイント近くだろ?」



 一八二六年、イタリアのシチリア島付近に落ちた隕石だ。


 

 ジイサマに説明されまくって、解説用パネルを見なくても覚えてしまった。


『そのミネーオ隕石も、手稿の一部ではないかという説もあります』


「アクセスキ―にも、世界を作り替えるシステムがあると?」

 優月が持っている、細長いUSBのような物体。


『いいえ。あれは文字通り、ただの鍵ですよ』


 鏡華は、キーの奪還を優月に依頼してきたらしい。


「だったら、なんでさっさと鏡華に渡して、欠片を起動させないんだ?」


「あたしもそう考えた。でも、鏡華の目的は違うの。あの娘は、この欠片を処分しようとしてる」


 処分だって?


 鏡華のいた星は、人為的にセフィロトの樹を作れないかという実験を、かなり昔からやっていたらしい。


 ただし、そのどれも失敗してる。


 やっぱりバリンジャークラスの爆発でも起こさないと、情報爆発は起こらないらしい。


「アクセスキ―ですら、小規模の海底神殿を作るくらいには驚異だ」


「あれは何だったんだ、カガリ?」


「防衛システムさ。同じ星から来た同胞に位置を占める役割もあったらしい」


 成果が出そうだったのは、ミネーオ隕石くらいだという。

 あの時は、アクセスキーが起動せず失敗したが、もし成功していたら、地球の生態系が変わっていた可能性があったらしい。


「しかし、身勝手な連中だな。勝手に星を作り替えようなんて」

「それなんだけど、とある宗教団体が関与していたらしい」


 現在は銀河警察の手によって、その団体は解体されている。


「ツングースカ爆発の頃にね」


 表向きには、鏡華はミネーオ隕石を調査する予定だったという。


「けれど、別の悪者が欠片の存在を察知してしまった」


 星雲大帝率いる、海蛇座海賊団か。


「星雲大帝たちは、ミネーオ隕石を再起動させようとした?」


 優月の推理を肯定したのか、カガリが首を縦に振る。


 ミネーオ隕石は、欠片の中でも強力な力を持っている。

 なにせ、星の生命体の遺伝子を書き換えられるんだから。


「しかも、宇宙忍者の一部に、大帝の協力者がいた。戒星にいる何者かがね」


 榎本家は半ば強引に、欠片の公開を進行していたという。

 戒星の動きを探るために。


 やっぱり隠してやがったのか。

 どうりでロクに情報が入ってこないと思ってたら。


「鏡華を助けようと、あたしは思ってる。地球へ落ちて来たとき、助けてもらった恩もあるし。度々襲われているのも、星雲大帝が海蛇団を使っているんじゃないかって睨んでる」


 だが、ミネーオ隕石は手の届きそうで届かない場所に配置されている。


「これだけ警備が厳重なのに、どうやって盗み出すってんだ? MIBだけじゃなく、戒星だって動いているんだぜ?」


「それは……色々考えるわよ」


 実に雑な回答が返ってきた。


「それに、太一は何の関係があるんだ?」

「それは……」


 優月が言いかけたところで、鏡華父がオレ達に話しかけてきた。時計を確認する。


「ああ、もう行かないと。それじゃあ太一君、娘をよろしく頼むよ」

 ハハハ、と笑いながら、鏡華の父親は去って行く。


「なんなんだ、あの人は?」


「父は、ああいう人なんです。元々破天荒な人なんですが。月面探索ロボットが完成した高揚感もあるんでしょうね」


 ひとまず、鏡華父の展示会を見に行くことに。


 舞台には鏡華の父親と、秘書が立つ。中央には、白いシーツに覆われた物体が置かれている。


 秘書は青黒い髪をサイドポニーに結び、タイトスカートのスーツと網タイツに身を固めている。優月に負けず劣らず巨大な双子星によって、服がはち切れそうだ。


 オレは、鏡華父の隣にいる女性の顔を見て、思わず二度見してしまう。



「あの秘書、変装してるな」


「わかるの?」


「うまくごまかしてるが、あんなのオレに掛かればザル……だ……!?」


 オレは地球人と宇宙人の見分けが付く。

 秘書の変装を見破るくらい朝飯前だ。




 だが、そいつの正体を知ったとき、全身が震えた。



 秘書は医療用眼帯をしている。変装技術を使っているのはそれだけだ。実際は、緋色の宝石を埋め込んだアイパッチを着けている。



緋刀ひとう らん!」




 鮮明に思い出した。


 間違いない。




 あいつは昔、オレを殺そうとしたクノイチだ。




「どうしたのよ、虎徹!」


 優月が、何事かと質問してきた。


 オレは取り合わず、急ぎジイサマの指示を仰ぐ。


「ジイサマ、大変だ。資料館に、緋刀蘭を見つけた」

 電話越しのジイサマがむせ返る。


「とにかく、厳戒態勢だ。MIBに伝えてくれ。パニックにならない程度に客を誘導できないか?」


『うむ』と短く答え、ジイサマが電話を切った。



「あいつ、緋刀蘭だ。オレたち戒星を抜けた裏切り者だぜ」


 この間、公園でオレたちにチーマーをけしかけたのも、ヤツだろう。


「何よ、虎徹。どうしちゃったのよ? 総統ヒュドラがどうしたの?」


「あいつの名は緋刀蘭。親父の妹弟子だったヤツだ。忍術で欠片を盗んで、即刻破門されたけどな。目撃者はオレなんだよ。そのせいで、オレは殺されかけた」


 ジイサマの手で、あいつは半殺しの目に遭ったはずだ。

 生きてやがったのか。


 待て。妙な事を優月が言っていたな。


「それより、総統ヒュドラだと言ったな? 緋刀が、か?」

「緋刀蘭っていうニンジャが、総統ヒュドラなのよ」


 マジかよ。最悪じゃねえか。


「あんなヤツと鏡華の親父さんが、どうして組んでるんだよ?」


 しかも、ヤツは親父さんの秘書らしい。

 それも、つい先日雇ったという。

 どう考えてもおかしい。


 だが、一般人である鏡華に問いただすこともできず、オレは探索機のアナウンスなど耳に入らなかった。


 緋刀蘭と目が合いそうになった。オレは優月の手を引いて、物陰に隠れる。




「ご覧いただきましょう。これが我々が開発した大型月面探査ロボット、『カルキノス』です」


 鏡華父が、シーツをめくった。


 八本脚の多脚戦車だ。ライトバンほどの大きさで、見た目は金色のカニを想起させる。

 脚は履帯式の脚が二本、車輪型の脚が四本だ。

 ハサミのような二本の腕がマニピュレータになっている。

 以前現れた二足歩行戦闘マシンより強そうだ。


 カルキノスとは、魔物ヒュドラと戦っていたヘラクレスを邪魔して踏みつぶされた、カニの化け物だ。死後、星座に生まれ変わったという。


「なるほど、だから蟹座カルキノスってか。ヒュドラとカルキノス、何の因果だろうな」


「知ってるのね。蟹座の由来となった名前よ」

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