激突! 敵もニンジャ!?

 会場のスピーカーから、鏡華の父親による解説が流れる。


「多脚戦車のデメリットは構造の複雑化にありました。ですが、我々は電磁式の間接を採用することによって、デメリットを払拭することに成功したのです」


 カニのような戦車が、履帯の付いた上腕を倒して悪路を疾走する。


「ご覧下さい。一瞬で脚部の構造が変わります。これが電磁式構造の賜です」


 しばらく走って、戦車は舗装された道路に差しかかった。


 履帯だった脚部が浮き、一瞬で車輪型の脚で走る。まったくタイムラグがない。


 信号伝達や重量などの構造上、ロボットは鈍くさい挙動になってしまうのが常だ。それを、ここまで機敏に動かすとは。

 これなら険しい山道や悪路でも通用するだろう。まして、この巨体が相当のスピードで稼働している。

 確かに、新しさを感じる構造だ。


 とはいうものの、欠片の存在を知ってしまっては、たいした驚きは感じない。おそらく、一般人向けのカモフラージュだろう。


 優月も同じ気持ちなのか、退屈そうだ。


「このように、履帯型と車輪型の両方のメリットを組み込めるようになったのです」


 豪快な早業に、会場から拍手がわき上がる。


「あの技術は、ヴォイニッチ手稿による物で間違いないわ」


 鏡華の父親は怪しい。調べる必要がありそうだ。


 電話でジイサマと連絡を取る。


「ジイサマ、榎本鏡華の父親を調べてくれ。海蛇団との関係性を――」


 オレが電話していると、どこからか、悲鳴が発せられた。


 黒ずくめの男が、一般人を羽交い締めにしてナイフを突きつけている。暴漢は目出し帽を被り、顔がわからない。


 気づかぬうちに、複数の暴漢たちが辺りを取り囲んでいた。


「キミ、何のマネだ!?」

 鏡華父が暴漢を指差す。


 だが、聞く耳を持たない。


「欠片のデータを渡せ。あれは我々の物だ」


 自分の名前に反応したのか、カルキノスの身体が暴漢に向く。





「欠片は平和利用されるべきだ。君らのような過激な存在には渡せない!」




 この人、さっき「欠片」って……。




「やかましい! 我々を過激派と一緒にするな!」


 これは、オレも前に出た方がいいか……。


 優月も同じ考えらしい。もう、暴漢とゼロ距離まで詰めている。


 しかし、優月を狙う影がもう一人。


「優月! 後ろだ!」


 クロスボウが、優月に向けて放たれた。


 オレは刀をハンガーに変え、飛んできた矢を弾く。


 上腕に血が滴る。くそ、まだ新手がいたか。後ろにいた敵に裏拳を食らわせた。


 頬を殴られた暴漢がナイフを取り落として気絶する。


 暴漢の背後から蹴りを入れて、優月が暴漢から一般人を引きはがす。


 だが、敵はまだ複数いた。見えているだけで五人ほどか。


 加勢してもらいたいが、優月は手が塞がっている。



 これだけの数を、犠牲者を出さずにどうやって……。



 オレが思案していると、辺りから煙が上がった。



「火事だーっ!」



 緊急事態を告げる声の主はカガリだ。消化器を力の限り振り回し、ホースで粉をまき散らす。



「わー大変だーっ! アトラクションの実験中に発火したぞーっ!」


 必死の形相で、カガリが分かりやすいくらいの嘘をつく。


「おい、無理がねえか?」


 カガリに言ってみたが、カガリは青ざめている。


 直後、あちこちで火災を告げるアナウンスが。


 途端、ギャラリーたちが一斉に逃げ出す。


 暴漢共にも予想外の事だったらしく、対応が遅れた。


 ジイサマがうまくやってくれたようだ。わざとパニックを起こして、混乱させるとは。


 逃げ惑う人々に、数で劣る暴漢たちは翻弄されていた。


「ボス、火事は本物だ!」


 思わず、暴漢が秘書に報告する。


 窓の外を見ると、ジェットコースター付近で煙が上がっていた。火の手は、博物館にまで迫っている。


「あ、馬鹿……」と、鏡華父の秘書が、バツの悪そうな顔をした。


「キミは、彼らの仲間だったのか? キミが彼らをここに……」


 鏡華父が振り返った瞬間、緋刀が鏡華父を突き飛ばす。


 壇上へとオレは飛び出した。壇上から落とされそうになった鏡華父をかばう。


 暴漢がナイフを出す。無防備の鏡華へと向かう。


「そいつは関係者の娘だ。そいつを盾にしろ!」


 暴漢のリーダーらしき人物から指示が飛ぶ。


「あぶない!」


 ナイフを持つ暴漢へ、太一が体当たりをかます。暴漢と二人、もんどり打った。


 暴漢が太一を突き飛ばす。


「太一君!」


「逃げろ、鏡華さん!」


 太一の脚から、僅かに出血していた。暴漢が暴れた拍子に斬ったのだろう。


「テメエ、よくも太一を!」


 両手にハンガーを掴み、オレは暴漢に飛びつく。ハンガーを振り下ろす。


 ナイフを持っていた暴漢は、倒せた。



 だが、リーダーは背中に背負っていた刀でハンガーを受け止める。



 あの刀は、忍者刀じゃねえか!



 ということは、敵も忍者ってことか?



 さっきカガリや優月に言われた言葉を思い出す。




――戒星に裏切り者がいる。




 悔しいが、認めざるを得ない。


 ハンガーを回して、構え直した。

 

 忍者の起こしたツケは、同じ忍者であるオレが払うべきだ。


 オレのハンガーと、リーダーの刀が幾度も火花を散らす。


 だが、その動きは唐突に終わりを告げた。


 背後にいた鏡華の鉄パイプと、優月の急所蹴りが、リーダーを沈めたのである。


「助かったぜ、二人とも」

「無事でよかったです」

「こんな奴相手に手こずってるんじゃないわよ」


 二人の後ろから、ぞろぞろと忍者の応援が殺到する。


 暴漢達を次々と拘束していく。


 安心と同時に、思い出したように痛みと痒みが襲う。


「ちょっと、あいつ!」

 優月が、欠片の方を見る。


 ヒジテツで、緋刀が欠片の入ったクリアケースを破壊した。


 鋼鉄ハンガーを掴んで跳躍。真上から緋刀に振り下ろす。



「くらえ、緋刀!」


 しかし、ハンガーが緋刀の脳天に直撃しない。


 赤い筋が緋刀の頭上に光、オレのハンガーを弾く。


 何だ、今の技は? 見た事もない忍術だ。


 何ともない表情を浮かべて、緋刀は眼帯をした右目を撫でる。


「おのれ!」と、オレはスマホに手をスライドさせる。


 ニンジャはスマホに手を滑らせることで、トランプのカードサイズの光学手裏剣を撃てるのだ。


 だが、見えない障壁によって、オレの撃った光学手裏剣は粉砕されてしまう。


「この傷の報復がこのような形で叶うとは。戒星のガキ、ここで消えてもらおう!」


 緋刀の眼帯が不気味な光を放つ。

 サイドテールの髪が風車のように流れる。

 黒い髪が、緋刀の全身を覆った。


 髪がほどかれると、赤紫のレオタードを纏った緋刀が姿を現す。

 こんな時代にハイレグ網タイツとか、前時代的なセンスを感じさせる。とはいえ、三〇代手前とは思えない艶めかしい肢体を、緋刀は惜しげもなく晒す。

 背中に、二本のアームユニットが蛇腹状に展開された。まるで蛇がのたくっているように。


「ヒュドラ。アンタが付けてる眼帯、欠片みたいね」


「その通り。これが私の持つオーパーツ・ユニット、《カヤノヒメ》だ」


 ツチノコのモデルだとも言われている『カヤノヒメ』は、野槌のづちという異名を持つ。

 ツチノコは、オレ達宇宙に関与している者達の間では、「生きているオーパーツ」と言われている。


「カガリ、本気だしていいよな?」


 本来、オレ達の武装解除は自己責任だ。もし、必要以上の力を行使すれば、MIBや銀河警察などが瞬時に飛んでくる。


「誰も止めないよ。相手はあのヒュドラだからね」


「それを聞いて安心したぜ。全力で行く。忍者装束、発動!」


 オレの全身を、薄手の黒い金属鎧が包む。


 装甲は極限まで削り取られ、身体にフィットしている。

 可能な限り動きの邪魔にならない程度に。


 この姿になったのは、優月と戦ったとき以来だ。

 しかし、このフォームは宇宙人との交戦時しか使用許可が受理されない。


 優月の姿も変わっていた。金属質のプロテクターを付けたダイバースーツのような格好になっている。

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