驚愕! 欠片の正体!
「なあ、どこでこれを拾ったんだ?」
太一に聞いてみたが、太一は特に特別がる様子はない。
「拾ったんじゃないよ。某機関がこの日本で、代々守っているんだ」
こんな、博物館行き確定の物質を?
「割れ目に、差し込み口のようなものが確認できるだろ? 僕達の研究では、これは誰かが作った人工物なのでは、という説が有力なんだ。誰が作ったのかなんて想像もできないけどね」
嬉しそうに、太一が解説してくれた。
その構造は、いかなる宇宙の技術を持ってしても謎だという。
「この石から、微量の音波が発生されていて、それを特殊な機械で読み取らせました。すると、音波の正体は何かのデータらしいと判明したのです。解析は困難を極めていますけど」
鏡華が、コピー用紙大のメモを見せてくれた。
大量の紙束には、まさしくヴォイニッチ手稿と思わせる奇っ怪な挿絵と、解釈不能な言語がびっしりと敷き詰められている。
「嘘でしょ。隕石が、ヴォイニッチ手稿を複写したって事?」
「そうなのです。私も自分で調べてびっくりしたんですけど」
鏡華自身、信じられないという風に語った。
『イタリア語でもラテン語でもありません。地球上にはない言葉ですね』
小声でロンメルが教えてくれる。
「僕は、このココナッツみたいな隕石には、重大な秘密が隠されているんじゃないかって、翻訳している最中なんだよ。鏡華さんには、翻訳を手伝ってもらっている」
鏡華と視線を合わせ、太一が嬉しそうに語った。
宇宙の秘密に触れることより、鏡華と仕事をすることがうれしいのだろう。
「もっとも、僕がそう考えているだけで、他の人に見せても価値のない書類らしいけどね」
自虐気味に太一が語る。
しかし、鏡華はそんな太一を、心配そうに見つめていた。
オレにはそれが気になって仕方ない。
「おい、カガリ。どういうことだ?」
「何がだい?」
「お前ら、太一と鏡華が欠片に関与しているって知ってたろ」
「そうだけど?」
何一つ悪びれず、カガリは肯定した。
こういう所が信用できないんだよな、こいつ。
「何で教えてくれなかったんだ?」
「決まってるでしょ。あんたら宇宙忍者の中にスパイがいるからじゃない」
意外にも、優月がカガリの肩を持つ。
それに、妙なことをいう。
オレ達忍者に反逆者がいるだと?
「何もかも妙なのよ」
それは、オレも疑問に感じていた。
「ならば、誰かが情報を誰かに売っている。あるいは盗み聞きしてるとかの可能性があるわ」
「だったらお前も怪しいぜ」
オレが反論すると、カガリは否定する。
「彼女はボクとずっと一緒にいたよ。だから彼女がスパイとは考えにくい」
お前も大概信用できないんだけどな。オレからすれば。
「オレが、信用できなかったのか?」
「キミが、じゃない。『戒星』という組織が、信用できなかったんだ」
あくまでも、オレ個人に引っかかる点があったわけではないと、カガリは強調する。
オレには信じられない。戒星に裏切り者がいるなんて。
「けどよ、忍者が関与しているなら、あっという間に手稿も盗まれてたろ?」
「理論上はね」と、カガリは含みのある言い方をした。
「どういうことだ?」
「盗めたとしても、手稿の原典は、鍵がないと発動しないからね。それに、あの石はとっくに枯れていると、MIBは判断したんだ」
地球に落ちて数百年、まったく発動しなかったからだという。
「セキュリティは?」
『厳重ですが、どうってことはありません。所詮、地球の技術レベルです』
銀河有数の田舎星だからな。地球は。
「とはいえ、いつ海蛇団が襲ってくるか、お前らにもわからない訳じゃ――」
そこまで自分で言ってみて、オレはハッとなった。
なるほどな。これはエサだろう。
海賊団を一網打尽にする為の。
また、戒星の中にいるらしいスパイを。
「やあ、優月ちゃんじゃないか。楽しんでるかい?」
四〇代後半くらいの男性が、優月に声をかけてきた。
顔の彫りが深く、見た目こそ若いんだが、頭に白髪が目立つ。やつれた印象を受ける。
「おじさま。どうしてここに?」
オレが「誰だ?」と尋ねると、「鏡華のお父さんよ」と優月が返した。
「お父さん、いらしていたんですか」
太一と展示物を回っていた鏡華が、自分の父に駆け寄る。
「実は、新しい月面探索用ロボットがようやく完成したんだ。その披露試写会が今からあるんだよ」
優月が、「鏡華のお父さんはロボット工学の権威なの」と説明してくれた。
「やっと完成したんですか?」
「ああ。ようやく悲願が達成されたよ。そちらの皆さんは?」
太一は、軽く会釈をしただけで、顔を伏せてしまう。
「おい、太一。何、萎縮してるわけ?」
肩に腕を回し、オレは太一を元気づける。
「ダメだよ、虎徹。いきなり両親と会話なんて、ハードルが高すぎる」
「友達ですって言っちまえばいいんだよ。自意識過剰になるんじゃねえ」
たたき出そうとした瞬間、鏡華の父親がこちらに歩いてきた。
「キミは、ここの館長のご子息だね?」
いきなり、相手から先制パンチが飛ぶ。
「はい。吉原太一です」
よし、挨拶はできたな。ここからだ。
「これはこれは。娘がご迷惑をかけていませんか?」
「とんでもありません。お嬢さんは知識も豊富で、ボクは教えられてばかりです」
「随分、親しくして下さってるようだね?」
おお、これはどう捉えるか。「ちゃんと接してくれてるね」なのか、「まとわりつきやがって」なのかで、印象がガラリと変わっちまう。
「隕石をご覧になっていたのか。いやはや、私にはさっぱりで。分析は家内に任せっきりです」
鏡華父が萎縮する。宇宙地質学は専門ではなく、ロボット作りに必要な分くらいなら知っている程度らしい。
「お父さん、私たち、交際しています」
オレたちがじっくりと攻略しようとしていた関門を、鏡華はあっさりと突破してしまった。
これは、一悶着あるんじゃないかと、オレは腹に覚悟を決める。
しかし、反応は意外な物だった。急に笑い出したのだ。
「いやあ、もうそんな年頃になったか! こりゃあいいね」
どうも、好感触のようだ。
「悪いんだけど、僕は鏡華さんのおじさんに挨拶してくる。鏡華さんには僕の両親に会ってもらわないと」
「わかった。オレらはそこら辺回ってるから。何かあったら連絡くれ」
「一〇分経ったら、連絡するよ」
約束を交わし、オレ達は別行動を取ることにした。
ちょうどいい。優月と話したかったところだ。
オレと優月、カガリは、隕石コーナーを回って語らう。
あくまでもレポートをまとめていると装いながら。
「優月、てめえの狙いは、これか?」
声を抑えて、優月に確認を取る。
「そうよ。もっとも、これ自体に価値はないの。ただの設計図だから」
オーパーツの欠片と呼ばれるものは、『オーパーツの使い方が記された記録媒体』、もしくは『オーパーツの場所を示す欠片』であり、単体では何の効果も発揮しない。
それだけでも十分、地球にとっては脅威となり得る。
だから、オレ達忍者のような組織が所在を突き止め、保護、もしくは処分を行うのだ。
海賊は違う。
彼らは欠片の技術は有効活用べきだと主張する。
優月が言うように。
欠片の所有権を巡って、忍者と海賊は争っている。
実際は誰の物でもない。
オーパーツと欠片は、誰が何のために作ったのか、未だに不明なのである。
それゆえ、扱うには十分注意しなければならない。
「手稿って、どんな力を秘めているんだ?」
『ヴォイニッチ手稿の原典とは、情報をエサにして育つ植物です』
そんな植物が存在するのか?
『具体的にいますと、世界樹と言えばいいでしょうか。セフィロトの木や、ユグドラシルなどはご存じで?』
確か、世界を木が支えているのがユグドラシルで、セフィロトの木は、その実を食うと永遠の命を授かるって木だったっけか。
『手稿の原典は、それら世界を形成しているとされる、樹の種だと言われています』
「つまり、世界を作れるってのか?」
『正確には、世界を書き換える樹ですね。具体的な方法は、私にも分かりませんが』
マジかよ。神話だけの存在だと思ってたぜ。
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