第四章 ニンジャ、裏切り者と対決
孤独! 女海賊の過去!
森の中にできたクレーター。ここは昔、隕石の落下場所であると噂された。太一の両親は、その近くに宇宙関連の資料館を設立したのである。今日は、その初お披露目だ。
家から数分の所に立派な施設ができるとは。やや田舎っぽいこの土地も、少しは人が集まるかもしれない。
そんなことを考えながら、オレは施設の駐車場にバイクを駐めた。
「お前を呼んだ覚えはないんだけどな」
待ち合わせ場所には、カガリの姿もあった。今日はスーツではなく、銀星第一の制服を着ている。日曜日だというのに。
「堅いこと言うなよ。今日は学級代表として、社会科見学の下見に来たんだよ」
新聞部としてではなく、学校の代表としてやってきたらしい。
「どうだか。デバガメは嫌われるぞ」
「ボクは、太一君たちの色恋になんか興味ないよ」と、カガリは腰に手を当てる。「あるのは宇宙人だけさ。これでも身銭を切ってるんだから、邪険にしないでおくれよ」
「どうせ、どっかの宇宙人から絞り出した金だろ?」と、オレは嫌味を言う。
カガリが肩をすくめた。「ひどいなぁ。そんな言い方ないじゃないか」
「お前たち地球人の一部が、散々宇宙人に狙われていながら、どうして滅んでいないか。どのようにして、今のような文明社会を維持できているか、オレたちが知らないとでも思ってるのかよ?」
「MIB関連になると、相変わらずつれないなあ、虎徹君は」
カガリの顔に、いたずらっ子っぽい不敵な笑みが浮かぶ。
地球を宇宙の脅威から守るために設立されたMIBとはいえ、正しい者達ばかりとは限らない。「絶対秘密主義」という大義名分に基づいて既得利権を手に入れ、旨い汁を吸おうと企む輩は多い。
「ああ、なんか聞いたことがあるわ。『地球人には田舎者のしたたかさがある』って」
「そういうこったぜ、優月」
事実、オレたち忍者が、そういう奴らを銀河警察へ突き出すために派遣されたことだってあった。
「否定はしないよ。我が十文字家は、有史以来ずっとMIBとして活動している。なのに絶滅していない理由は、そういうことさ」
カガリが、大袈裟に手を広げる。
「行こうか、みんな。太一君と鏡華君が待ってる」
三人で資料館の中へと向かう。
宇宙で育つように品種改良された植物、バイオ燃料、宇宙旅行など、資料館の展示物はバラエティに富んでいた。
目玉はなんといっても、月の石こと『手稿の原典』だが。
資料館の内部は、たいして宇宙ブームでもないだろうと思うのに、宇宙展示会には人で溢れかえっていた。
といっても、参列者を見て納得はしたが。
チャラい男が、金星の写真を見て、「うわ、金星人の生写真だぜ。すっげ」と、若者口調で友達と会話をしている。どこにそんなもんが写っているんだろうか?
向こうの老夫婦は、ハンカチで口を押さえながら、銀河の写真を涙ぐんで見ていた。
「あの二人、銀河からこっちに駆け落ちしたんだって。故郷が恋しいんだろうね」
カガリが解説してくれる。
「マジで、宇宙人が地球へ来るのは、ほとんど観光目的なんだな」
全ての宇宙人が、侵略目的で地球に来るわけじゃない。むしろ、そんな奴は少数だ。
地球の文化を爆買いして帰る奴らもいる。超効率主義の彼らにとって、地球のサブカルチャーはいい刺激になるのだ。
「戦争の拠点にするには、他の外惑星から遠すぎるからね」とは、カガリの弁。
外宇宙からすると、地球は辺境すぎるのだという。
文明発達も遅く、銀河警察の位置も遠い。
それゆえに、田舎者の宇宙人からすると、手垢が付いていない分、潜伏しやすいというデメリットもあるが。
そんな奴らから目を離さないために、オレたち忍者がいるのだ。
『我らがパルもおりますね。あそこに』
優月の周りを浮遊しながら、ロンメルが小声で話す。
こいつは現在、入り口で配られていたUFO型バルーンに擬態している。
ヌイグルミを抱えた少女が、漢字だらけの天体解説文を読んでいる。
「あの子供はMIBだよ」
『本当ですか?』と、ロンメルの声が大きくなってしまう。
観客たちが、何事かと辺りをキョロキョロし始めた。
「しっ!」と、優月がロンメルのいる方角を睨む。
『申し訳ありません、優月様。ちょっと、同郷と話してきます』
ロンメルが勝手に動く。
糸に引っ張られてしまい、優月もつられて幼女のいる方向へ歩いていってしまった。
「おい、優月。勝手に動くんじゃねえ」
オレは思わず、優月の手を取ってしまう。
優月は特に嫌がる様子もなく、赤面して俯いている。
「どうしたんだよ?」
「べ、別に何でもないわよ」
オレたちのようすを見て、「ふーん」とカガリがニタつく。
「まんざらでもないみたい?」
「うるせえよ、カガリ。しっしっ」
「ぶーっ」と、カガリは口を尖らす。
ロンメルはUFOの窓部分に変装した眼をチカチカさせると、すぐに優月の歩く方へと戻っていった。
「もういいの?」
『はい。我々パルの情報交換は、電気信号で行えますので。ですが申し訳ありません。お手間を取らせました』
「いいのよ。数少ない同胞なんでしょ?」
ロンメルが黙り込む。
「どうしたんだよ?」
「ロンメルの産まれた星は、もうないのよ」
海賊が使うパルを作り続けるために建造された人口惑星ミクロイアは、稼働限界を迎えて役割を終えたという。
「悪かった、気を悪くしたよな、ロンメル」
『いいのです。パルの使命は今も我が心に。それが我が誇りです』
ロンメルの言葉に、優月は微笑んだ。
「お前も、そういう顔をするんだ」
正直驚いた。海賊と言うから、もっとドライなヤツだと思っていたんだが。
「うるさいわね。あたしだって、少しくらい切ない気持ちになることだってあるのよ」
「なあ、お前の故郷は、どうなんだ?」
オレが尋ねると、ロンメルが『あっ』と声を上げた。
優月は言葉をなくしたように、口を噤む。
「え、ちょっと、すまん。言い辛い話だったか」
「いいわよ別に。あたし、ネクサス・パイル四五代賊長の娘なの」
しかし、そんな境遇であるが故に、優月は他の海賊たちから嫉妬された。順風満帆という訳ではなかったらしい。仲間はずれの状態だったという。
「あたしが依頼を受けて留守をしている間、父が、欠片を狙ってきた大組織と戦って、行方知れずになったの」
長が生死不明になったことで決定的になった。
『長の保護を受けられなくなった優月様は、半ば除名状態にされてしまいました。籍だけを置いている状態です』
行方不明になる前、ロンメルは長から、優月の保護をせよと指示を受ける。
「後で調べたんだけど、長が最後に戦った相手って言うのが」
「星雲大帝、だってのか?」
「察しがいいわね。その通りよ。あたしは、星雲大帝を捕まえて、長をどうしたのか吐かせてやるの」
こいつが欠片を探すのも、いなくなった父親を見つけ出すためか。
「そのためにも、早く星雲大帝を見つけ出さないと」
優月の眼が、殺気でギラつく。
「おい、優月」
「とにかく、鏡華たちを追いかけましょ」と、優月は足を急がせる。
鏡華と太一は、展示会中央にある『月の石』閲覧スペースにいた。二人並んで、ガラスケースに収まった石を眺めている。
「やっと来たか。こっちだよ、三人とも」
太一がこちらに手招きをする。
「これが、かつてこの地に落ちたと言われている、小型隕石だよ」
「まさか……」
ショーケースの中に、ココナッツ大の隕石が展示されていた。やや長方形で、隕石と言うより巨大な植物の種を連想させる。材質は地球上にない金属で構成されていて、そこに膨大なデータが埋め込まれている。
形からして間違いない。欠片だ。
『間違いありません。これは『手稿の原典』ですね。どうしてこんな所に?』
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