重点! 家族会議!
「なんなんだよ、あいつ」
「忍者より忍者みたいよね」
オレは唖然として、優月を顔を合わせる。「続けるか?」
「やめとくわ。拍子抜けしちゃった」
だな。オレも帰るか。とにかく、ジイサマには報告しておいた方がよさそうだ。
「とにかく、これで借りは返したわ」と、優月が武器をしまう。
「何の借りだ?」
「た、助けてもらった借りよ」
そこでようやく思い出す。
確か、ポッドに設置された爆弾を処理した件か。
「礼は言わないわ。その、あんなコトされたし」
優月が自分を抱きしめる。
「すまん。まだ気にしてるよな。本当に悪かった」
「そこまで素直だと、あたしも怒れないじゃない!」
「怒りたいのかよ!?」
優月はスタスタと歩を進める。
「待てよ。送るぜ」
オレが呼び止めると、優月は顔を赤らめて頬を膨らませた。
「子供扱いしないで、一人で帰れるから」
意固地になって立ち去ろうとする優月を、オレは追いかける。
「情報を聞き出すって言ってるんだよ。お前どうせ単独行動だろ?」
「集団でないと何もできない忍者に言われたくないわ」
「うるせえよ、この高性能ぼっち」
「ぼっちじゃないわ。ちゃんと友達くらいいるわよ」
ムキになって優月が否定した。そうか、ぼっちなんだな。
「榎本鏡華が、か?」
「他に誰がいるのよ?」
「あいつを利用してるわけじゃないよな?」
「そんなわけないでしょ」
優月が立ち止まる。その顔は、怒気を孕んでいた。
「鏡華は、不時着したあたしを助けてくれたの。宙ノ森を紹介してくれたのもあの娘よ。利用なんてするわけないでしょ」
冷淡な口調で淡々と語る。余程頭にきたのだろう。
「そうだな。人を見かけや生まれで判断したらダメだな。悪かった」
「何よ、妙に素直じゃない。気持ち悪い」
頬を染め、優月が視線を逸らす。
気持ち悪いは余計だ!
「ところでお前、ケガは?」
「あたしは大丈夫。女の人は記憶は消されたけど、まあ持ち直すでしょ」
「なら心配ないな。お前も無事でよかった」
「な、何よ」
突然、優月が後ずさる。
「どうしたんだよ?」
「なんで、敵を心配するのよ」
オレは、ため息をついた。
「敵とか味方とか関係ねーだろ。お前の方が狙われてる可能性だってあるだろ?」
「それもそうね。なあんだ……」
なぜか、優月は残念そうにうなだれる。
「ん、ん?」
「なんでもないわよっ。じゃ、じゃあ、あたしここだから」
慌てたように、優月が白塗りの塀で囲まれた建物を指差す。
やや古びた赤煉瓦の建物が、優月の住む寮らしい。ちょっとした教会のような建築物だ。
「じゃあね。もう二度と会いたくないんだけど」
「お互い様だ。あばよ」
オレは手を振って、優月に背を向ける。
「虎徹、埜場虎徹」
優月がオレを呼び止めた。妙に挙動不審な様子である。
「んだよ?」
「ホントに、あ、あんたにはもう会いたくないんだから!」
「わかったっての」
呼び止めて言うまでオレが嫌いなのかよ。
もっと文句を言いたかったが、優月はもう夜に溶けてしまった。
まったく。
◇ * ◇ * ◇ * ◇
「海賊と逢い引きじゃと!?」
夕飯時。
ダブルデートの件を話した途端、ジイサマは入れ歯が飛び出さんばかり絶叫し、亜也子に到ってはお茶を盛大に吹き出す。
「人聞きの悪いことを言うな。あくまでも任務だって」
「お兄ちゃんがデートお兄ちゃんがデート……」
念仏のように、亜也子がぶつぶつと何か呟き出す。
「だからデートするのはクラスメイトであって、オレはただの付き添いだって。海賊とは何でもないんだよ!」
オレは集合写真のデータが入ったスマホを見せて、海賊を指差した。わざわざ太一が送ってきやがった。
「うっわー、すっげー美人じゃん。この人がお兄ちゃんのカノジョかー」
だから違うって言ってるだろ? フリだっつーの。
「こやつがユーニス・ブキャナンか。なんとなぁ。敵ながら別嬪なオナゴよ。海賊でなければ、是非ともお近づきになりたいものぞ」
天国のおばあちゃんコイツです。
咳払いをして、ジイサマは真剣モードに。
「冗談はさておき、よりにもよって欠片を巡って戦っておる海賊と接触とは、これも何かの因縁なのかもしれんのう」
「お兄ちゃんがデートお兄ちゃんがデート……」
ワナワナと、亜也子が手を震わせている。
だから、付き添いだって言ってるだろ、いい加減にしろ。
「やっぱり、忍者と海賊がデートなんてまずいよな。わかった。太一には断りの電話入れるわ。待ってろ」
膝を叩き、オレはスマホを手にとる。太一に断りの電話を入れよう。
「いや、待つんじゃ、虎徹よ」
オレのスマホを取り上げ、ジイサマはオレを見下ろす。
「この際じゃ。その逢い引きに行くがよい」
「けどよ、相手は海賊だぜ。何をしてくるか」
「もちろん、敵の罠かもしれん。その時はこのワシ自らが助力してしんぜよう」
やけに、ジイサマは協力的だ。
「わたしも応援するからね!」
「いいけど。ついてくるなよ」
オレが念を押すと、ジイサマは首を横に振った。
「そんな無粋なことなどせぬわ。その代わり、逐一報告することじゃ。よいな?」
「うーん。ついて行きたい。けど、ここは我慢どころだね」
イトコはイトコでモジモジする。
何の心配もないっての。
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