ケンカ! 会って早々!
「なんであんたがこの国に……こんなところにいるのよ!」
赤毛ツインテがブチ切れ気味にオレに食ってかかった。
「それはこっちのセリフだっつーの! なに日本人に……現地人に紛れてんだよ!」
オレも負けじと反論する。
「まあまあ、落ち着いてください、
「虎徹、この娘と知り合いかい?」
「いや、別に……」
どうしようか。どう言い訳するか。
地球に来た際の掟により、「地球人に自身が宇宙人であると知られてはならない」と、制約を受けている。
でないと、忍者全体が莫大なペナルティを科せられるという。
大幅な活動制限や罰金などが科せられるらしい。
「ぶつかっただけだよ」と、オレはツインテに向かって眼をしばたかせた。
ぶつかったと言っても、オレが脱出艇に頭から突っ込んだわけだが。
「そ、そうよ。こいつ、謝りもしなかったの! 思い出すだけでも頭にくるわ!」
相手も乗ってきた。
「二人とも、お知り合いですか。なら話は早いですね。こちらは優月。寮で同室なんです」
宙ノ森学園は全寮制なんだそうだ。
「
ぶっきらぼうに、ユーニス・ブキャナンこと河南優月が頭を下げた。日本人っていうには無理があるが、本人も事情があって誤魔化しているんだ。変に探るとこっちの身元もばれかねない。仕方なく、相手のウソに付き合うことにした。
「
こちらも頭を下げざるを得ず、短く挨拶をする。
「ニンジャって、ホントに『ドーモ』って挨拶するのね」
優月が鼻で笑う。
「んだぁ? バカにしてんのか?」
小声同士で、因縁を付け合った。
「ん、優月、どうかなさって?」
「いえ、こっちの話よ」
鏡華に怪しまれたので、優月が引っ込む。
「じゃあ、どこか座れるところまで移動しよう」
太一の先導で、ファミレスへと向かう。
適当にオーダーし、オレはドリンクバーで喉を潤す。
シロップとミルクで程良く甘いアイスコーヒーに仕上げたはずなのに、まるで味がしない。何も飲んだ気にならないのだ。気疲れのせいだろう。
「みなさん、今日は私のワガママに付き合ってくれて、ありがとうございます。二人とも、せっかくのお休みなのに連れ回して、お嫌でしたか?」
鏡華は紅茶を両手に持ってふーふーしている。太一は鏡華の正面に座って、ホットコーヒーを優雅に嗜む。
「いいのよ。ちょっとイレギュラーだっただけで」
優月は、オレの向かいに座って、足を組んでそっぽを向いている。ドリンクバー甘めのホットカフェオレである。
「オレも気にしてないぜ。二人は仲良くやっててくれ。これはオレたちの問題だから」
そう、これは忍者と海賊の問題だ。
鏡華と太一にドリンクバーのおかわりを頼む。二人を優月から引き離したのは、チャンスを作って、優月と会話するためだ。
ここぞとばかりに、優月が顔を近づけてきた。オレの考えを察したらしい。好都合だ。
「ホントはすっごい嫌なんだけど、鏡華のメンツを潰すわけには行かないから、相手してあげるわ」
二人に聞かれないように、小声で話す。
「オレだって冗談じゃねーっつの。お宝が手に入ったら、お前と決着付けてやるから、覚悟しとけよ」
「言ってなさいよ」と、優月がハンと鼻を鳴らす。
「おい、コウモリ玉子。このご主人様に何か言ってやってくれよ」
オレは、優月の小型端末を呼ぶ。さっきから、ステルス迷彩で優月の側で浮いている。
『コウモリ玉子ではありません。私の正式名称は海賊専用自立型端末、ロンメルです』
自身をロンメルト名乗るパルが、窘めるような口調で語った。
もちろん、誰にも聞かれないように、マナーモードで。
「パルにしては、表情豊かだな」
「元々、パルってフランクなの。他の海賊が連れてるパルの方が機械的なだけ。まったく、可愛げがないったらありゃしない」
お前も大概、可愛げがないけどな。
「大体ねアンタ、あたしに勝てると思ってるの? まんまと逃げられたくせに」
「お前なんかに後れを取ると思ってるのかよ? やり合うタイミングか来るまで、恋人ごっこでも何でもしてやるっての」
「上等じゃないの。だったら表に出なさいよ。決着付けてあげようじゃない!」
優月が机を両手で叩き、立ち上がる。
「んだとコラ、やってやろうじゃねーか!」
釣られて、オレも立ち上がった。
当たりがシンと静まりかえる。
そこで、オレ達は冷静さを取り戻す。
太一と鏡華が、オレ達の側で目を丸くしていた。もう戻ってきていたのか。
「うそ、もうキスですか?」
鏡華が、口を塞いでうっとりする。
「はあ!? 見ればわかるだろ! ケンカしてんだよケンカ!」
「どこをどう見間違えればキスになるのよ!?」
オレたちは弁解した。
「そうは言うが二人とも、言い訳すると余計怪しまれるぞ」
太一が冷静にツッコミを入れる。
オレは気まずくなって、露骨に優月から顔を背けた。
鏡華と太一が笑う。
そうこうしている間に、注文が来た。
優月が席に着いたので、オレも座り直す。
腹が減っては何とやら。オレは出てきたナポリタンをかき込む。
「ちょっとアンタ、パスタをズルズル音立てないでよ。焼きそばじゃないのよ?」
「るっせーな。お前の食い方も大概じゃねーか」
優月は、ちまちまとスプーンの上で巻いて食べている。
「それって、ガキへの食べさせ方だろ?」
「いいじゃないの別に。ていうか、忍者って焼きそばしか食べないと思ってたわ」
小声で優月が忍者をディスってきた。
「うるせえ。忍者を馬鹿にすんなっ。焼きそばしか食わねえ忍者なんてどこの少女マンガだよ?」
「焼きそばで思い出したけど、虎徹って、お昼も毎日ナポリタンパンなんだよ」
太一の言うナポリタンパンとは、ナポリタンを挟んだコッペパンのことだ。オレの大好物である。
「悪いかよ! ナポリタン馬鹿にすんな! 完全食だぜ?」
あれを食わないと、一日が始まった気がしねえんだよ!
「炭水化物の塊が完全食って、どういう食文化なのよ忍者って」
「焼きそばの偉大さなんて、海賊様にはわかんねーよ」
さっきから、忍者や海賊という単語が飛び交っているが、太一と鏡華には聞き取れないように配慮している。
「あの、ちょっといいですか?」
鏡華が小さく手を挙げる。
「どうかしたの、鏡華。うるさかった?」
優月が尋ねると、幸せそうに鏡華が微笑む。
「違うんです。お二人って、仲いいなって」
「どこが!」「どこがよ!」
オレと優月が同時に立ち上がった。
「では、今日は顔見せ程度ということで解散しますか。もう遅いし」
というわけで、とんでもない因縁を残し、その日はお開きとなった。
喫茶店を出て、四人で集合写真を撮る。
太一と鏡華を中央に配置して、オレと優月は離れて写真に収まった。
「二人も隣同士になればいいのに」と鏡華が気を遣った。
「も、もう少し慣れてからにしようぜ、な?」
「そうね。お互いのことを知ってからがいいわね」
お互い嘘をつき、丁重に断った。
にしても優月の奴、さっきからガチガチだな。
顔見せも終わり、店を出た。
人気のない公園に着く。改装工事のために遊具などがすべて撤去されたからか、土曜日だというのに、人っ子一人いない。
「じゃあ、もう遅い。お開きにしよう」
「待ってくれ。こいつにちょっくら用がある」
優月の方も、オレの意図に気づいてか、立ち止まった。
「あたしもよ。だから二人は先に帰ってて。あたしは、一人でも帰れるから」
「けど、危ないぞ」
「いいから」と、オレは太一の肩に肘を置く。「送ってやれって言ってるんだよ」
赤面した太一が目を見開く。「わ、わかった」
「うまくやれよ」と、オレも返す。
太一は強化と手を繋ぎ、仲むつまじく去って行く。本当にうまくいって欲しい。
二人を見送り、オレは優月と向き合う。
「さて、色々聞きたいことがあるんだがな」
「奇遇ね。こっちも教えて欲しいことが一杯あるの。根こそぎ聞き出すわよ」
優月の瞳が、一瞬で殺気立つ。
ここなら、誰も来ない。監視の目も行き届かないだろう。
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