キグウ! 爆乳海賊と再会!
日本に戻って翌日。こっちはまだ暑さが残ってる。
夏休みをずっと欠片の探索に費やし、世界中を駆け巡っていた。宿題持参で回っていなかったら今頃大惨事だった。おかげで、登校日には間に合ったのだが。
オレは祖父が運営する護身術道場に住んでいる。小さな道場だが、祖父の腕がいいのか、利用者は後を絶たない。
祖父も忍者なのだが、世界の治安を維持するため、という建前で、日本で活動している。
朝食が済み、ジイサマが、今日もオレを板の間に座らせた。
「我が孫、
オレはジイサマの話を真面目に聞くでもなく、携帯ゲームでエイリアンをビーム剣で切り刻む。
「それも全ては、全宇宙に平和をもたらすためじゃ。ひとたびオーパーツが海賊の手に渡れば、世界は大混乱に陥ってしまうじゃろう」
「おう、そうだな」
脇道へ逃げたエイリアンを後ろからバッサリ斬り捨てた。
「それでお主が欠片奪還を任されたと言うに……お主は何をやっておる!?」
「別にいいだろ。オレは頑張ってるんだよ」
床に寝そべりながら、画面上のエイリアンたちを一網打尽にする。
「寝転びながら遊戯に興じておるのが、かの?」
「うんうん。そうそう。お、レアアイテム出た」
「真面目に聞かんかバカモン!」
あと少しでレアアイテムが取れるという所で、ジイサマにゲーム端末を取り上げられた。
「しかして虎徹よ、オーパーツとは何ぞや?」
「宇宙じゅうのテクノロジーを持ってしても作成が困難な物質、だろ?」
超兵器。莫大な遺産。宇宙から送られてきた、警告や予言などのメッセージ。それらを称して地球人は【オーパーツ】という。
その在処を記されたデータの一部を【オーパーツの欠片】と呼称している。一説では、欠片を全て手に入れたら宇宙を手にできるとも。その噂のせいで、欠片を狙う悪党は後を耐えない。
「虎徹よ、せっかく祖父との感動の対面だという時も、お主は挨拶もそこそこに部屋に引き籠もって携帯遊戯に興じておったではないか!」
そりゃ、あんだけ面白そうなゲームだったら遊びたくもなるだろ。
「忍者としての誇りはどこへ行った?」
「日本への派遣が決まったときに捨てたかな?」
オレが不機嫌な顔をしたからか、ジイサマは説教を押し込んだ。
「まったく、お主はあの紅い魔術師(クリムゾン・ウォーロツク)と渡り合った。実力は折り紙付きだと言うに?」
部屋の大型モニターに、少女の顔が浮かぶ。シチリアで接触した少女だ。
「ユーニス・ブキャナン。数年前に消息を絶った、ネクサス・パイル首領の忘れ形見じゃ。悔しいが、まともに渡り合えるのはお主くらいじゃろう。海賊に奪われたオーパーツの欠片を奪還せい。よいな?」
「おー」
「よ・い・な!?」
畳をドンドンと叩き、ジイサマが吠える。
「わかったらさっさと学校へ行かんか。今日から新学期じゃろ?」
「わーったよ。じゃあ行ってくるわ」
立ち上がり、オレはカバンを担いだ。
◇ * ◇ * ◇ * ◇
「ったくよぉ、いい加減、説教は聞き飽きたぜ」
こっちはただでさえ、貴重な夏休みの一日が登校日に潰されたってのに。
「お兄ちゃんがちゃんとしないからでしょ?」
イトコの
「オレはなあ、ジイサマみたいにあくせく働きたくねえの。わかるだろ?」
「とか言っちゃって、ホントは手心加えちゃいそうなんでしょ。あの女海賊ちゃんに」
「おま、バカ!」
カバンを振りかぶり、オレは亜也子を追いかけ回す。
キャッキャとふざけながら、亜也子は逃げ回る。オレと違って夏を謳歌していたらしい。肩の隙間から日焼け跡が覗いた。こいつ、情報収集の時はコキ使ってやるから覚悟しろよ。
「でもお兄ちゃん、その人と戦う事になったら、どうするの?」
真面目な顔になって、亜也子は尋ねてくる。
「そりゃあ、戦うだろうな。敵なんだし」
「ホントかなあ? 負けちゃうんじゃない?」
「バカ、オレが負けるかってんだ」
そのうちの数名は、何を隠そう宇宙人である。こいつらは人間に化けて、人知れず地球の社会に溶け込んでいるのだ。
あっちの男子は宇宙人独特の匂いがする。
あそこの女子は、擬体したガワの繋ぎ目が、顎のラインにかけてうっすらと見えた。本人はマスクでうまく隠しているつもりだろうが。
最初は見分けが付かなかったが、オレもようやく宇宙人とそうでない奴らの見分けが付いてきた。
奴らの目的は侵略行為だろうと、人は思うかもしれない。が、実際は「地球に住みたい」とか、「文化に触れたい」とか、「地球人と話したい」といった、単なる好奇心が理由だ。
もちろん、宇宙人たちを見張り、不測の自体があれば取り締まる機関は存在する。
その一つが、オレたちのような忍者だ。
ちゃんと銀河警察の許可を得て運営している、れっきとした機関である。
かつて世界が歴史の教科書に載っているような古い時代から、オレ達の仕事は脈々と受け継がれているのである、とはジイサマの弁だ。
オレと目が合うと、宇宙人生徒の数名はそそくさと立ち去ってしまう。忍者がそんなに怖いとは思えんが。後ろ暗いところがあるか、オレが怒った顔でもしてたのか。何にせよ、地球に何もしないなら、こちらも手の出しようがないので、問題なし。
「じゃあ、私こっちだから。何かあったら連絡してね」
亜也子は横断歩道を曲がった。手を振って、歩道の向こうへと消えていく。
「やあ、虎徹」
男子生徒が校門前に現れた。腕に風紀委員の腕章をしている。
クラスメイトの
最初の友人になった地球人である。
もちろん、こいつはオレが宇宙から来た忍者だとは知らない。
「うっす太一。今日挨拶当番か?」
「そうなんだ。まあ、何もないとは思うけど一応。夏休みはどうだった? イタリアは満喫できたかい?」
オレは、イタリアの古武術道場で修行したことになっている。実際は、オーパーツの欠片の調査で、ほぼ日帰りだったが。
「シチリア島のミネーオ隕石、その落下ポイントとかもあって楽しかっただろうなぁ。ロマンだなぁ」
出た、こいつの宇宙マニアが。
こうなるとオレもついていけなくなる。
「まあな。修行修行で、土産を買う間もなくて悪いな」
「いいよそんなの。じゃあ、確認する」と、太一が手を差し出す。今日は持ち物検査の日だ。新学期早々ご苦労なこった。
オレはカバンの中を開ける。
形式だけの持ち物検査は、数分もかからずに終わった。
「よし。行っていいよ」
肩にカバンを担ぎ直して歩く。その直後、「待ってくれ」と、太一に呼び戻された。
「何だよ? オレは何も違反してねーよ」
「そうじゃない。放課後、時間あるか? 相談したいことがあるんだ」
「別になんも」
道場ならイトコもジイサマもいるしな、問題ない。
それにしても、あんなマジな太一の表情は、初めて見た。随分と珍しいこともあるもんだな。
単なる登校日だから、宿題の進捗などを報告して、本日の授業は無事終了。
放課後、太一が話したいことがあると、教室に残った。
「話って何だよ?」
「実は僕、好きな女子ができたんだ」
ほう。青春してるねえ。
「この子なんだけど」と、太一はスマホを出して、写真を見せてくれた。ショートカットの黒髪を持つ、清純そうな女性だ。
「
灰色を基調としたおとなしい制服は、私立
「お嬢様学校じゃん。よくお近づきになれたな」
「そうなんだ。うちの経営する宇宙資料館の展示品を運んでいたんだけどね。手伝ったのが縁で、知り合えたんだよ」
榎本鏡華は父親がロボット技師で、月の探査機を作っている。天体関連の話で、太一は榎本鏡華と意気投合したという。
「それで先日、思い切って告白したんだ。そしたら、OKをもらえたんだよ」
「マジかよ。おめでとうさん」
太一の話を聞きながらも、オレはちっとも妬ましいなんて思わなかった。
太一は顔もよく頭もいい。
勉強ができないオレは、何度も太一に助けられた。
コイツに彼女ができなければ、世の女性型はみんな不幸になるぞ、と言ってもいい。
「それで、オレに力になって欲しいってのは?」
「それなんだけど、ダブルデートして欲しいんだ」
「待てよ、オレに相手はいないぜ」
オレは太一と比較して、女子からは刺身のつま程度の存在に過ぎない。
女子と話をしたと言えば、ジイサマの道場で相手をするマダム程度だ。
お客さんの多くはジイサマの目つきがイヤラシイらしく、よくオレが駆り出される。若い女性に限定すれば、それこそイトコの亜也子を話すくらいだろうか。
「心配ない。向こうも相手を呼んでくれるらしいから」
「ホントに、オレもついて行っていいのか? 見ず知らずの男がいたら、デートの邪魔じゃね?」
「相手もOKしてくれたよ」
「なら安心だ。オレも力を貸すぜ」
オレも太一には世話になっている。人肌脱いでやるとするか。
「何々、何の話? ボクにも聞かせてよ」
男同士の会話に割って入ろうとする女子生徒が一人、一本三つ編みをフラフラさせて、オレの机に腰掛ける。新聞部の
「特ダネならボクも付き合うよ。どこへ行くの?」
いいながらカガリは黒いタイツで包んだ足を組む。
「太一がデートだとよ。オレは付き添いに行くんだよ」
「うっひょう!」と、わざとらしくカガリは驚いてみせる。
非モテがデートするってのはこうもビックリされるものなのか?
「いやいや、笑うつもりはないんだ。虎徹君ならともかく、吉原君なら、きっといい人に巡り会えると思ったからさ」
オレならともかく、ってどう言う意味だよ……。
「デートかぁ、ならボクは邪魔かもね。これにて退散するよ」
「おう。そうしてくれ」
カガリはヒラヒラと大袈裟に手を振って、オレ達にガッツポーズを見せた。太一の恋路を応援してくれているらしい。
「じゃあ、今から会いに行こう」
「は?」
「今日の放課後、四人で会おうって約束してるんだ。相手も来るから」
◇ * ◇ * ◇ * ◇
と、いうわけで、ファミレスにて顔を合わせることに。
ファミレスの入り口付近に、二人組の女子が立っていた。共に宙ノ森女子の制服である。
「前にいる娘が、榎本さんだよ」
三つ編みお下げが、こちらに手を振っている。太一も吊られて手を振る。
太一のデレデレっぷりに、オレは毛恥ずかしくなって、伏し目がちに相手を見る。
オレの方は、それどころではなかった。
三つ編みが連れてきている相方を確認したとき、心臓が止まるほどの衝撃を受けたのである。
鏡華が連れてきたのは、ふんわりとした赤毛を太めのツインテールで結んだ、青い瞳が印象的な、まるで炎のような少女だった。
「あ、ああああ……」
印象的すぎるほど、鮮明に覚えている。あのときの屈辱は忘れない。
「あ、アンタ……」
相手の方も、オレを見て目を見開く。
こいつの顔は忘れない。いつかこいつに落とし前を付けさせないとと、何度練る前に思ったことか。
「やっぱりかあああああ!」
女の方の友人、オレにあてがわれたダブルデートの相手は、海賊だった。
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