第4話 新しいおもちゃ
「さてと、これで今日の授業は終わりなんだけど、まだ少し時間があるからこの授業での単位の取り方について説明しておこうかな。新入生の君たちの中にはもうに聞いてる人もいる子もいるかもしれないけどこの授業にテストはありません。よって単位の取り方は課題のでき次第。わかりやすいでしょ?」
そう言い盟和大学の哲学教授である凌駕海翔は人の好きそうな、少しはにかんだ笑みを浮かべる。
その笑みがでた瞬間、彼の周りにいる女子達から黄色い歓声があがる。
身長は180を超え、細身だが筋肉質な身体つきで端正な顔にはあどけなさが残る。
その容姿は映画俳優と言われても遜色はないだろう。
容姿端麗、頭脳明晰。
まさに絵に描いたような人物である。
この前教授に就任したばかりとは言え彼の優秀さは折り紙つきだ。
となれば当然、世の女性、とりわけ女子大学生たちが放っておくわけがない。
そんなこんなで授業の初日にも関わらず授業の15分前には前の席が埋まっているという異例な現象が起きていた。
もっとも十割が女子であるが、、、。
またその際席の奪い合いによるけが人が複数名出たのだがそれもご愛敬、というやつだ。
そんなにいいもんかねぇ。
教室の後列にすし詰め状態で追いやられた男子サイドの総意見だ。
だが口にだそうものならどんな仕打ちがくるかわかったものではないので誰も口にする勇気はない。
彼の周囲の女子達が落ち着き、凌駕が授業の終わりを告げようとしたとき、後方の、窓際に座ってい学生から質問が挙がった。
「ねね、せんせー、一個だけ質問。単位レポートだけって言ったけどさ、出席とかって関係あんの?ほかのせんせー達結構うるさいんだよね。やれ欠席は何回までだー、とか遅刻がどうのこうのって。」
凌駕は質問の主を探し声のほうを見た。
声の主はすぐに分かった。
今時のファッションと言ったらいいのかはわからないが、だだぼついた洋服に身を包み、見るからチャラそうな青年がこちらに愛想のいい笑顔を振りまきながら手を振っていた。
質問の主と目が合う。
「えっと、そうだね、簡潔に答えるなら僕は出席に関してとやかく言うつもりはないよ。」
言い終えると同時ににクラスをも見渡す。
出席もなし、テストもない、この二つを聞くと学生達はたいていが喜ぶ。
講師自身で自分の講座は楽単だ、と言っているようなものだから遊ぶことしか頭にない彼らからしたら当然と言えば当然なのだが、、、。
だがそこで喜んでいるようではこの問題の本質に気付けていない。
准教授の時から数えて今年で3年目、前期後期、全学年合わせれば12回この話をしたが、今までにこの問題の本質に気が付いた人間は一人だけだった。
だからこのクラスも例年通りだろう、そう思っていた。
だから彼らを見たときには驚くと同時に関心もした。
無関心、怪訝、好奇心、それぞれ違った表情をしてはいたが他とは異なり、目の前の情報に踊らされていない、その点だけは彼らに共通している。
(三人。いいねぇ。面白くなりそうだ。)
一人でにやつきそうになるのをこらえながら他に質問はないかと学生達を見渡す。
するとすぐに別の質問が飛んできた。
「彼の質問に追加で僕も質問、いいですか?」
先ほど質問をした彼の隣に座っている学生だった。
先ほどの彼とは違い、ジーパンにシャツにセータ、着崩したりはせずにきちんとした着こなしをしている。
見た目からして性格も先ほどの彼とは正反対だろう。
「いいよ、ただし授業の時間は決まってるからすべて答えられるとは限らないからね。」
「わかりました。では単刀直入に聞きます。なぜテストも出席もないのですか?大学生ですし義務、までとはいかなくても必要性はあるかと思います。それに学校ですから当然学校の指針と言うものがあるはずのに勝手な事していいのですか?」
理論的、かつ客観的に物事を捉えている。
大学一年生にしては上出来だが、おしい。
実る前の青い果実といったところか。
「うん、まず、君たちは決して安くはないお金を払って大学に通っているよね。つまり、お金で授業というサービスを買っているわけだ。その時点でサービスを与える側と受ける側の関係が成立する。それなら当然お客さんにはサービスを選択する権利、自由がある。だから僕の授業を受けるか受けないかを決めるのはお客さんである君たちなんだ。あくまで僕の仕事は授業というサービスを提供することであってそれを強要する権利は僕にはないしそれは僕の仕事外。僕の仕事は学問の研究とお客さんに満足してもらえるような授業の構成だからね。」
そういい時計を見る。
授業終了時刻を一分過ぎていた。
「おっと、もう時間だね。今日はこれでほんとに終わろう。今回は初回だからレポートはなしです。ただし、次は今回と次回分、合わせた内容のレポート提出にするから予習しておくといいよ。お疲れさまでした。」
それだけ言うとpcをもって教室から出ていく。
扉に手をかけたとき後ろから声をかけられた。
「せんせー、それってつまり来たくないならく来るなってことっしょ?聞く気がない奴に教える気はないってこと?それとも馬鹿には理解できないって言ってるの?さっきのサービスどうのこうのって話も裏を返せば研究にしか興味ないってことでしょ?せんせーって案外冷たいね。」
言い放つが否や一斉に女子達が非難のまなざしを向けてくる。
その眼が語るは、先生様に余計な野次飛ばしてんじゃねぇ、その一言。
だが、そんな女子達の殺伐とした雰囲気を気にも留めず質問した彼はいたずらっぽい笑みを浮かべながら手を振っている。
明らかにこちらを挑発し出方をうかがっている態度だ。
そんな彼の態度を見て一言。
「授業は終わりだよ。だけど一つだけいいかな?一日の時間は限られているよね。だから当然やれることも限られる。なら僕はその時間を有効かつ合理的に使いたい。今の君の質問に答えることは僕の時間を使うほどの意義のある質問だと、君はそう思うかい?鳴海圭君、君ならわかるってくれると思うけど。いいかい、質問は授業時間内に。これ覚えといてね。」
そう言いにっこりとほほ笑むと唖然としている彼をを一瞥し後ろ手に扉を閉める。
そうして教室を後にする彼の後ろ姿はなんだか楽しそうでもあった。
教室に残された彼が苦虫を噛み潰したような顔になっていることを想像しさらに楽しくなる。
(うん、やっぱり今年は面白くなりそうだ。)
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