第2話 炎の夜に
午前2時、夜空には無数の星々が瞬き、人々が深い眠りについたころ、町中の人々を起こすかのようなけたましいサイレンが鳴り響く。
その音の向かう先にはすでに多くの野次馬が集まっていた。
皆、着の身着のまま出てきたからなのか寝巻姿の者が多い。
それぞれの服装は異なるがその顔に浮かべる表情は皆同じ。
不安と恐怖、この二つだ。
だがそんな混沌の中、この場に似つかわしくない好奇の目を向ける集団がいた。
マスコミ各社。
スクープを上げることに必死で周りとの温度差に気づいていない。
愚かな集団。
自分の、そして会社の利益に目が眩み今しなければならないことに気が付けていない。
最も、それはこの場にいるほとんどの人に言えることでもあるが。。。
皆口では怖い、かわいそう、などと言いつつも内心では自分に被害がなくてよかった、そう思っている。
自分に関係ないからこそ野次馬、などといった行為ができる。
もしも自分が被害者の立場であればそんなもの、見たくもないはずだ。
だがこうして真夜中にも関わらず多くの野次馬で現場は溢れている。
その光景は現代人の無関心さを表しているようでもあった。
しかし真夜中の出来事にも関わらずこれだけ多くの野次馬が集まったのには現代人ならではの理由だけではなく、物理的要因ももちろんある。
それは現場が住宅街ということや異常なまでに大きく鳴り響いていたサイレンの音だ。
その音が眠りにつく人々を起こしここまで引き寄せた。
夜の眠りを妨げられるという点ではサイレンの通り道に面したアパートに住んでいる東郷慎一も例外ではなかった。
けたましいサイレンに起こされたとき慎一は自宅業務がようやく終わりベットに身を投げ心地よい睡魔にいざなわれながら深い眠りにつこうとしていた。
ようやく眠れる、そう思っていたそんな中にやかましいほどの大きなサイレン。
「ちっ、んだよ。うるせーな。」
舌打ち交じりにベットから起きだして窓の外に目をやる。
幸い、近くに大きな建物がない為3階にある彼の部屋の窓からでも外の様子はよくわかる。
窓の外を見たときに真っ先に目に入ってきたのは眩しいくらいの強い光だ。
その光の中心に目をやると夜の闇を全て照らすかのごとくオレンジ色の柱が一本、地上の騒ぎなど意に返さないほど穏やかで静かな天に向かって伸びていた。
その炎は慎一が今までに見たことがないほどに純粋できれいな色をしている。
そのどこまでも純粋な色は火災だという事も忘れ慎一がつい見惚れてしまうほどに美しい閃光を放っていた。
あれは、そう火災だ。
そしておそらく火災の出火場所であろう柱の根本はあたり一面濃い煙で覆われていた。
「火事か。こんな夜中に災難だな。」
慎一はそうつぶやき窓のカーテンを閉め、温もりの消えかけたたベットに戻る。
あれだけ派手に炎が上がっている事を考えると被害はかなり大きそうだ。
明日には新聞やニュースやら大騒ぎになっているだろう。
それに慎一の働く会社もここからそう遠くはない。
そうなると明日は朝からこの話題で持ち切りになることは明白だ。
ならばこれだけ近いんだし話題作りの為にも野次馬に行くべきかな、など不謹慎なことを考えたが、やめた。
連日の残業に心身ともに疲れ切っていた慎一には目先の睡眠をお預けにしてまで野次馬に行く気力はない。
最後にもう一度窓に目を向けるとカーテン越しにもわかるくらいオレンジ色の炎は鮮烈で、その色はまぶしすぎるほどに強い光となり辺り一面を照らしていた。
(結構ヤバそうだなー。まぁ自分には関係ないし今頃消防隊員の人たちががんばってるさ。)
、、、、、。
一瞬、何かが胸が詰まるようなかすかな不安を覚えた。
だが自分に何か関係があるはずないしあの辺りには知り合いなんて住んでいない、それに万一にもここまで被害が広がってくることはないだろう、この不安は火事とはきっと関係ない。
ついさっきまで残業していたから仕事上のやり忘れとか何かの買い忘れとかそんなところだろう。
もしかしたら胃もたれや胸やけを勘違いしただけかもしれないし。
大したことじゃないさ、気にしないほうがいい。
そう思うといくらか気持ちも軽くなり慎一は再びまどろみ始める。
口まででかかったあくびを噛み殺し、布団を頭まで引き上げ、カーテンから入ってくる光を無理やり遮り眼を閉じる。
温もりの消えたべットが再び温まるのに時間はそうかからなかった。
途中で起きてしまったのですぐには寝付けないと思っていたが自分でも意外なほどにすぐに深い眠りに堕ちる。
眠りにつくと普段あまり夢を見ない慎一にしては珍しく、昔の夢を見た。
これは背丈からして慎一が小学生低学年くらいの頃だろう。
顔はわからないが誰かと一緒に遊んでいるところらしい。
この人が誰なのかはよく思い出せないがこのうしろ姿と声、そしてこの場所はよく覚えている。
なんだかとても懐かしく、それでいてとても悲しい風景に感じた。
このまま永遠に夢の中にいたい、そう思えるほどに心地よい空間が確かにそこにはあった。
そしてその情景を夢の中に見たとき、眠っている慎一の頬をやさしい涙がつたる。
顔に優しい笑みを浮かべながら、静かに、泣いていた。
だが翌朝、ケータイのアラームに起こされ布団から出た時、慎一は昨夜不意に感じたはずの不安も昨夜見たはずの夢の事もを覚えてはいなかった。
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