迷彩変化

銀髪ウルフ  

第1話  プロローグ


急に目の前が真っ暗になり世界が彩を失った。

しかしすぐに彩は戻る。

一瞬の闇、一瞬の静寂。

生きている限り誰にでも訪れる瞬間。

その時、人は何を見て何を感じ、どんな行動するのか。

その時の選択がその人を変える。

人は、無になって初めて物事の本質に気づく。

 






真っ暗な闇に響く雨音。

まだ微かに温もりを発している肌が次第に血の気を失っていく。

汗と血で染まった手にはまだ不快な感触がはっきりと残っている。


今日、人を殺した。

光の届くことのない、決して白には戻れない黒色、闇に堕ちたのだ。


❚❚❚は悪事を働てはいけない、善に生きなさい。

そうすればいつか必ず報われる。

すべての行いはきっと誰かが見ているから。

だから、決して人を傷つける事だけはしてはいけないよ。

善には善が、悪には悪が帰ってくる。

因果応報。

それは〝人を傷つけた分だけ自分が傷つく”という事。

そんなの嫌だろう。

だから自分以外の者には常にやさしくありなさい。

そして少しでもいいから人の為に生きて笑顔で人生の幕を閉じなさい。

私はあなたの最期を見ることはできないけれどきっとあなたはそうなれる。

だってあなたは私の       

昔、誰かに言われた言葉が脳裏をよぎる。

今となってはもう、この言葉をくれたその人の顔すらもも思いだせないけれど。

なにかとても大切な事をたくさん教えてくれた、そんな気がする。

だから今日までその「誰か」の言葉を胸に刻んでそれなりに人の為に生きてきたつもりだ。

人を傷つけず、代わりに傷つき、我慢しながらも自分を犠牲にしてきた。


その結果全てを失った。

その時に気づいてしまったんだ。

“この世界は間違っている。そして間違った世界に生きている私たちも皆、間違った命を生きている。”と。

いくら自分が善だろうと相手も善だとは限らない

善と悪。

この世界には相反する存在が必ずある。

その中で善は悪に虐げられ奪わる

弱者は強者に従うしかない。

正義が勝つなんて言葉は所詮、絵空事。

それがこの世界だ。

なぜ、奪われなければならない。

なぜ、虐げられなければならない。

なぜ、失わなければならない。

なぜ、我慢し平然と生きていける。

なぜ、正しくあることを諦めた。

私はたとえ周囲から切り離され、誰からも理解されずに独りになろうとも正しくありたい、そう願う。


ふと空を見上げると、きらびやかな町灯りに虐げられた月が遥か遠くで鈍い光となリ暗い夜空を照らしていた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る