#11 天断の怒り
少女に自慢の髪を燃やされ、天断の口からはブツブツと呪いのような言葉が吐かれる。これをクラスのダチが見たらどう思うだろうか。
今の彼女は、文化祭のオープニングで流れる華やかな青春ムービーではなく、怪談系のアトラクションで髪の長い女幽霊として、おどろおどろしいBGMと共に沼の底から出てきそうな雰囲気である。
「あのー……天断……さん?」
「おーおー女は怒らせると怖いなぁ……髪は女の命だもんな、うん」
のんきに口を動かしながらも、ゆっくりと後ずさる零さん。一応未婚だったはずだが、過去に何かあったのか零さんの顔は珍しくひきつっている。
「小癪な娘がよくも私を怒らせたわね……反省なさい‼」
もはや魔女のような台詞だ。俺は説得を諦め、怒りに任せてこちらに突進してくる彼女を避けるために、白虎を誘導する。
「お前はもう出番がなさそうだな……」
「グルゥ……ガルルッ?」
白虎は状況がいまいち飲み込めていないらしく、首をかしげる。だが、俺が天断の方を指差してやると、白虎は目を見開いて飛びのいた。
そしてそのまま天井が崩れたことによってできた瓦礫の山の陰に隠れ、ガタガタと震えてみせる。よほど怖かったらしい。
炎を纏いながら天断は白服の少女との距離を一気に詰め――。
「これでも食らいなさい! 炎陣――天竜の咆哮‼」
少女の身体に容赦なく拳をねじ込み、龍を呼び出して追撃を加える。天断によって呼び出された龍達は揃って雄叫びを上げ、巨大な口から炎を吐き続ける。
少女は吹っ飛ばされるが、天断の怒りはそれぐらいのことで静まるようなものでもないらしい。荒い息を何度も繰り返しながら、次の仕打ちを考えているようだ。
「天断‼ 床燃えてるって……それに、服も燃えてるぞ! 少しは加減しろよ‼」
「そんなことできるわけないじゃない! この女は私の髪を燃やしたのよ……って、あっつい⁉」
天断は急いで手で払って落とそうとするがなかなかうまくいかない。風にあおられた炎はますます勢いを増し、天断の四肢を焼かんと踊る。
「雷ー! ごめん、どうにかして!」
「ほーら言わんこっちゃない。……俺じゃどうしようもないんですけど……零さん、お願いします!」
「お安い御用だ。嬢ちゃん、ちょっと失礼するぜ。栄花――水雲の舞!」
零さんが指を鳴らすと、先ほどまで勢いよく燃えていた炎たちが一瞬のうちに水色の花になって天断を包み込み、まるでしゃぼんだまのようにぽんぽんと軽やかな音を立てながら弾けていく。
「ふぅ……やっと火が消えた……本当にどうなるかと思ったよ……雷、それに零さんもありがとう」
「まったく……もうちょっと冷静になれっていつも言ってるだろ? 練習でどれだけ力をつけてても本番で出せなかったら意味ないんだからな。天断より俺のほうが少しはマシかな」
「はぁーい。ごめんなさい……って、私がちょっとミスっただけで揚げ足とるのやめてよね! 乙女はみんな幽霊が怖いの! それぐらい分かるでしょ?」
「はいはい、そーですか。焦ってもいいことないぞ。さ、嫌ならさっさと終わらせてしまおうぜ」
前を見ると、よほどおかしかったのか白服の少女がくすくすと笑っている。それに反応した天断のまゆが数センチ上がるが、俺は彼女の肩を押さえてなだめる。
「あははっ。さっきのお姉さん、面白かったよ。いっつもここにいると、誰も来ないし暇で暇で退屈なんだけど……お姉さん、ここに住まない?」
「それはどうも。でも、そうやっておだてられても容赦しないわ。ここに住んでも、私にはいいことなさそうだし」
「そっかぁ。つまんないね。じゃあ、ぎったぎたにしてあげよっと! お姉さんたちは余裕がありそうだし、まだまだ遊べるよね?」
「この様子のどこを見てそう言っているのよ……」
天断のぼやきを歯牙にもかけずに、白服の少女がくるりと華麗に舞い、何やら緑色の宝石がついたブレスレットを宙に放り投げる。すると、今までどこに潜んでいたのか大量の悪霊たちが姿を現した。
「ひ、ひいぃぃぃ! 何よこれ! ちょっと本当に無理よこの数は!」
「仕方ねぇ、俺が相手してやろうじゃないか。嬢ちゃんたちは、なんか手掛かりを探してきてくれ。異能操作はバトルだけじゃない。必ず何らかの原因があってこういう事件は発生しているはずだ。落ち着いてから捜索しようと思ったが、嬢ちゃんをこれ以上怖がらせるのも悪いしな」
「で、でも……」
「連続戦闘には慣れていると言っているだろう。大丈夫だ。何かあったら俺も逃げるさ」
悪霊の数は二十体ほどだが、これから増える可能性も十分にある。戦闘をずっと続けていたら体力を消耗して少女の餌食になってしまうだろう。俺と天断は頷き、零さんと少女を残して奥のフロアへと駆け足で向かった。
学生異能連合 ~お悩み解決は異能で~ 宵薙 @tyahiyo
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