森山帖
宝生実里
序 森閑たる童子
不意に
刹那の間に、靄は佇む人──少年の姿となっていた。
緑がかった黒髪が木漏れ日に艶めく。陽に透かした青葉と同色の
規則的な鳥の声に少年は上を向いて、ある枝に一瞥をくれた。丸く大きな瞳に土鳩の影姿が映る。しかしそれも一瞬のことで、少年はすぐに興味を失ってさる方角へ目をやった。
──誰かが死ぬ。
予感があった。そしてその予感は外れる類のものではないことを、少年はよく知っている。
白い裸足が一歩、また一歩と小さく動き始めた。踏み倒された草花は、吹きかける微風ですぐに元の姿となる。北に向かった少年の姿は再び靄となり、木々の狭間に溶けた。あとには何も残らない。
はじめから誰もいなかったように、森の山は再び静まり返った。
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