第2話 勇者様、いきなり貧乏

えーっと、解説テキストを開いてっと・・・主人公が勝手に自己満した所から。

仕方ない、端折り過ぎてブーイング出た様なので、あらすじから。

解説者としては皆様の殺気を感じてゾクゾク冷や汗をかいております・・・


約100万人の人口を誇るマドリード公国。

王族や貴族を中心とした大都市、パーには約30万人の人々が生活を営んでいる。

その地に辿り着いた勇者はクラウス・ケルマンと名乗るセミロングの美しい金髪を持ち貴族を思わせる若干18歳の青年だった。

春を思わせる心地よい日差を背景にギルドへ立ち寄ったクラウスはそこで勇者の仕事を受ける事となる。

オーク退治の仕事を引き受けたクラウスは冒険の準備をする所で初めて気づくのだった。

彼にはLVもHPも金も持ち合わせていないという衝撃な事実だった。

しかし彼の右肩に背負っている大きな麻袋には何を隠しているのかは企業秘密である。

ちなみに日本ではその昔、”肥後ずいき”というものが江戸時代、細川藩で・・・


「ほっとけっ!」


お約束の笑い顔でクラウスの踏みケリが入りそうなツッコミが出た所で、続きをどうぞ。

そして目が点になった様な拍子抜けの顔で続けるクラウス。


「所で、何で旅路に出てる僕には所持金が0でスタートしちゃってるの。

 というか、設定おかしいでしょ?!」


少々ご立腹の御様子。

え?解説テキストには、貧乏だったという設定で・・・

全力で首を横に振るクラウス。


「聞いてない、聞いてない。」


じゃ、盗賊に所持金盗まれたという設定で解説テキスト変更・・・(書き書き。。。)

視聴者の皆様にはどうか無かった事にして目を瞑って下さい。

ちなみに主人公が納得いかない顔で解説者に視線を送っているのは業務上のナイショです。


雑貨屋から出たクラウスが辺りを見渡した時には淡い橙色の光が時折、乱反射しながら一日の終わりを僅かに告げようとしていた。

彼は適当に座る場所を探す為、街並みに沿って更に歩いて行く。

暫くすると川の畔が見えてくる。

彼は腰を下ろして麻袋の中のランタンを取り出す。

しかしランタンには油は残っていなかった。

オークは夜に出没しやすい魔物、暫く考えた彼は荷物を纏めるとパーより少し郊外の方向へ歩いていく。

・・・と解説テキストの通りに音読してみましたー。


「最後の台詞は要らないぞっ。(怒)」


クラウスのツッコミが入った所で続き。


「仕方ない、松明を作るか。

 最初の探索くらいなら数本作れば足りるだろう。」


彼は枝木とツタを集めていくと枝木を分けて束にしていく。

最後に刺々しい茶色がかった枯れ葉をねじ込んで更に上部を縛る。

腰を上げると麻袋に作った松明を入れていく。

ちなみにイケメンの癖に、いかがわしい玩具が入っているかどうかは企業秘密である。


「持ってねぇよ!(怒)」


あ~ご立腹の御様子、こぶしを握り締めながらいつもより当社比50%増しでスペシャルな青筋がクッキリ見えて目が吊り上がっております。

・・・失礼しましたー。


パーより少し郊外に出ていたクラウスはその足でギルドの依頼を受けた洞窟へ向かう事となる。

その洞窟の名はドルイの洞窟、神聖な領域として知られている。

辺りは既に日が落ちており、フクロウの鳴き声が時折聞こえている。

彼はそのドルイの洞窟の前に差し掛かると松明を取り出し、火石で火をつけると炎が揺らぐ様に周辺を照らす。

そのまま洞窟の奥へ進むと、天井に留まっていたコウモリの一部が飛び交う。

暫く歩いて行くと物陰と殺気の様なものが現れ、それは獣とも言えない奇妙な唸り声で具現化する事になる。

ゆっくりとした、しかし重々しい音と微かな振動がクラウスの全身を襲う。

そこには全身が緑で覆われ、強靭な筋肉とこん棒の様なものを振りかざすオークだった。


「来たか。」


クラウスは荷物を置くと左に携えた剣を素早く抜いて低く身構える。

オークがこん棒のようなものを振りかざそうとする時、彼は全力疾走でオークの左足を華麗な剣裁きで切りつけた。

すると一瞬の間を置いてオークのうめき声が聞こえてくる。

更に彼は回り込んで松明を地面に置くと両手で剣を持ち直し、オークの右足に剣を突き立てた。

身動きが難しくなったオークは中腰で倒れ、のたまっている。

その隙に首元に剣を突き立て、地面に置いた松明を拾い、オークの頭を焙って焼く。

一体のオークはそのまま燃えて消失した。


更に進むと3体のオークに遭遇し、回り込むと2体を味方同士で自滅させて鈍らせる。

クラウスは少し荒い息を吐きながら残りの一体も足を狙い、同じ様に火で焙って消失させる。

そして洞窟に入って中腹に当たる手前程の頃合いだろうか、変わった魔物に遭遇する事になる。

一瞬だけ彼の目には牛の様な恰好が見えた後、その後の記憶は無かった。


「ここは何処だ・・・」


暫くして目を開けた時ににはパーのとある宿屋に送還されていた。

しかし、彼は何がが納得出来ない様子だった。

部屋を出ると階段がある、どうやら二階の部屋にいたようだ。

階段を下りてみると、そこには温厚そうに見える赤毛の女将らしい年配の女性が立っている。

それはまるで”中年太りのブタ”だった。


「包丁投げてやろうか。(怒)」


お約束通り、宿屋の女将が包丁を持って来て凄い形相をしている。

解説者は無かった事にしてその場を辛うじて乗り切りました・・・


この世界ではエルフと同様に豚の耳を持ったパイアと呼ばれる妖精種族が存在している。

彼女はそのパイアと呼ばれる属に分けられている。

宿屋の女将は彼を見た途端、少し目を見開いた様な顔で言葉にした。


「あぁ、起きたのね。

 生還して良かったわ。」


しかし、クラウスはどうやら納得していない様だ。

第一、彼は無一文である。

彼はすかさず、腕をまくると超リアルな形相で喋り始める。


「理不尽だ。

 何か来たと思ったらいきなり宿屋に強制送還って何っすか?

 ファンタジーにも道理ってもんがあるでしょ、何でRPGの世界なんですかっ!

 普通だったら危険を予知して撤退するとか無いんですかこの世界はっ!(怒)」


宿屋の女将はたじたじしながら両手で落ち着いてという仕草をする。


「一度、亡くなってしまうと宿屋に戻ってしまうのよ。

 でも、戻らない人もいるのを考えると幸運なのよね。

 あ、そう・・・貴方、3日くらい泊まっていたので90ゴールドツケておいたわね。

 今、支払える?」


「・・・すみません、所持金0です。」


主人公、クラウスは一瞬にして我に返り硬直した。

彼の顔はムンクの様に歪み始める。

宿屋の女将は少し首を傾けて考えたかと思うと、目を点にした様な顔で人差し指を立ててこう切り出した。


「クエストが完了していないのなら、バイトも幾つかあるわよ。

 困っているなら、ディアボロス亭に行ってみたらどうかしら居酒屋よ。

 でも、まずはギルドに行ってみる事ね、報酬貰えるかも。」


クラウスは宿屋の女将の話に頷くと、直ぐに部屋まで駆け上がって準備する。

駆け足でそのままギルドに向かった彼は仕事依頼のベルクと再会する。

相変わらず茶色のボサボサ頭に口髭を生やしている。

ギルドはかなり空いている様だ。


「よぉ、兄ちゃん。

 クエスト終わったかぁー?」


クラウスは事情を話し、ベルクに相談を持ち掛ける。

しかし、ベルクの返答は特に期待できるものでは無かった。


「特にオークが消滅したという話は聞いてないからなぁ。

 今の時点では報酬出せんな。

 所でお前さん、報酬額を聞いて無かったんじゃなかったのか?

 討伐の報酬は50ゴールドだぞ。」


という訳で、クラウスは残念な顔のままギルドを出るのだった。

討伐しても40ゴールドの損である。

八方塞がりの彼は宿屋の女将が紹介してくれた居酒屋を探してみる事にした。

道行く人に尋ねながら道を進むと、東洋風のインパクトある建物が見えてくる。

建物の中に入ってみると微妙な雰囲気の部屋に微妙な人が迎えた。

しかし、そこそこ繁盛している様な様子。


「あら、いらっしゃい。

 お一人様っ?♡」


出迎えたのはエルフと同様に馬の耳と鼻を持ったグラネ属。

銀髪のたてがみと紳士的な装いは高貴に見えるが決して高くは留まっていない、仕草は女性に近い。

クラウスはこれまでの事情を話す事にした。

暫く、静かに聞いていた酒場の主人は思いついたかのように一つだけ手を叩く。


「OK、良いわよ。

 人肌脱いであげるわ、ハリーと呼んでちょうだい。」


主人はそう答えると、バッチリキマったウインクを投げた。

まるで周辺がピンク色に染まり、無数のハートが飛んでいくかの様だ。


「あれれ・・・噂で聞いたのに、どうして私だけ弄られないのかしら。」


ハリーは不思議そうな顔で首を傾げている。

所で、話を元に戻すと酒場には数人のスタッフが働いていた。

クラウスと一緒に働くのは、ヴァーユ、アグニ、スルヤと呼ばれる若い三人組の男だった。

普通の人間と外見は変わらないが、それぞれ風、火、太陽を表すかのように水色、燃える様な赤色、黄色の髪を持っている。


「クラウス、1番テーブルと3番テーブルにビールお持ちしてね。」


ハリーの声が聞こえると、クラウスは慣れない手つきでトレーにビールを乗せて運んでいく。

しかし、それなりに上手く溶け込んでいる様だ。

和気藹々とした仕事は順風満帆に見える。

店終いになる頃、赤髪のアグニが切り出す。


「クラウス、景気づけに一杯やろうぜ。」


水髪のヴァーユと黄髪のスルヤもアグニに賛同する。

「いいね、それ。

 いっとく?♡」


そうこうする内に、早くも3日が過ぎてしまう。

夜な夜なの宴会も好調の様だ。


「あらあら、あんた達はお酒が進むわね。

 お勘定が結構な額になるわよ。」


微妙な顔でハリーが書き込んだ伝票を見ると3人で300ゴールドのツケになっている。

割り勘しても100ゴールドの借金である。

クラウスはその請求額に唖然としたが、その瞬間に何処かでキレた様だ。


「もうやってられるかっ!

 プッハー、今日も酒が美味いっ!!」


クラウスはビールの注がれたジョッキを改めてゴクリと飲んだ後、弾ける様な良い音を立てて机に置きなおす。

その光景にハリーを含む全員が半開きの口で唖然とした目を彼に向ける。

ちなみに解説者からのお知らせ、お酒と煙草は二十歳から。

(中略)未成年の飲酒・喫煙は法律で禁止されております、(中略)お客様のご協力をお願いします。(某大手スーパーの店内放送を一部拝借。)


という事で、一周回って”本来の貧乏という設定”で解説テキストに抗えなかった勇者様は掛け持ち転職アルバイターとして明け暮れて幸せに暮らしました。

終わり・・・めでたしめでたし。


おっと、主人公クラウス選手がヤバそうな顔しながら猛ダッシュでやってきたぞっ!

そしてお約束の笑い顔でレスラー級のジャンピング・キーックっ!

カンカンカン、ノ~ックアウトォっっ!!!


「んなわけねぇ~だろっ!(怒怒)」


お後が宜しい様で何より、それでは次回にご期待を・・・

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