ファンタジーを踏み倒す勇者様は或る意味強い

@gonbei_nanashi

第1話 勇者様現る

時は16世紀頃、マドリード公国では活気に満ち溢れた都市を築いていた。

ゲホゲホ・・・解説者訂正。


とにかく、王族や貴族を中心とした大都市には数多くの冒険者が集まっている。

ギルドでは依頼を求める冒険者が集結し、時にはパーティーを組んでいる。

一般的なRPGで出て来る、あんな感じ。

とりあえずそういうお約束の世界観である。

初っ端からやる気なさそうなユルイ解説者だとツッコんではいけない。



とりあえず、18歳くらいの青年がこの地に辿り着いたのは日差しが心地よくなる季節だった。

青年の風貌はセミロングの金髪にきりっとした目、貴族を思わせるような雰囲気である。

腰には剣を携え、軽装でありながらしっかりとした鎧を身に着け、右肩に大きな麻袋を背負っている。

彼の名はクラウス・・・と、とりあえず勝手に名前をつけておこう。


「おい、僕はテキトーにつけられた名前じゃないぞっ。(怒)」


何か主人公が必死にすっ飛んできてどっかの漫画で出て来そうな笑ったような顔と怒りツッコミポーズが出た所で、町の風景から。

あ、また漫画とか現世のフレーズを出しちゃった、とりあえず無かった事に。

マドリード公国は約100万の人口を抱えており、その中心とする首都はパーと呼ばれている。

決してグーチョキパーのパーや、侮辱を示すような〇×$#!ではない。

ちなみに後世、パリと名付けられた都市はイスという古代都市の名前を取り、"イスに匹敵する"と発展を希望して付けられたもので正確にはパリス(Paris)である。

(※加筆訂正:ちなみにこれは俗説と考えられており、紀元前3世紀頃に現在で呼ばれるパリのシテ島にケルト系部族、パリシイ族が定住し始め城壁都市を造り、パリはこのシテ島を中心に発展たとの事。)

パーには約30万人程の人々が住み、王族と貴族を中心とした国家体制である。

この際、今は王様や貴族なんて出て来ないからすっ飛ばしてもいいや。


「誰だ、おかしな解説者を呼んだのはっ!(怒)」


そこでコブシを握りしめながら悔しそうな顔してる冠だけ立派に見えるオッサンがマドリード公国の王、ヘルメス2世である。

いきなり怒って出て来たので名前だけ紹介しといた、ちなみに風貌などの詳細はまだ解説テキストに乗ってないのでパス。

どうやら大層ご立腹の様だが、とりあえず臭そうなものには蓋をして逃げておく。


王都には、なだらかな山の中腹にゴシック調の聳え立つ宮廷を中心に、城壁から近くには貴族の屋敷がまばらに並んでおり、その更に先からは四方八方に流れる大きくは3つの川に沿って上空から見ると扇状の様に商業施設と民家が混在する構成である。

石畳で敷かれた街並みには魚や肉を売る屋台が並び、建物には幾つかの防具・武器といった店が立ち並ぶ。

勿論、ポーションといった薬や魔法を売る店もある。

”ファンタジーの世界”なので。

クラウスは、まばらに行き交う人々の流れに沿って街並みを見ながら歩いている。

暫く歩いていると伝書鳩と剣をモチーフにした看板が見えてくる。


「ここがギルドか・・・」


扉を開けると、ざわざわとした声が聞こえる。

幾つかの窓口に整列して並んでいる所、ダルそうに待っている者もいる。

端の方に並んだ主人公は周りを見渡す。

壁には幾つかの張り紙に「WANTED」という字が刻まれているが、それ以外は格子状の窓口と鉄板の様なもので出来た台しかない。

どれくらいだろうか、暫く待っていると目の前の冒険者が用を済ませていた。


「あい、次の人。」


茶色のボサボサ頭に口髭を生やした何処にでもいそうな窓口のオッサンは目線合図も付け加えて主人公を呼んでいる。

これまた、ダルそうにした人である。


「余計なお世話じゃい。」


窓口のオッサンに軽くツッコまれた所で、主人公は窓口に近づく。


「兄ちゃん、通行手形を見せな。

 それからレベルは幾つ?」


主人公は右肩に背負っていた荷物を降ろすと通行手形らしきものを取り出して窓口に渡す。

しかし、主人公はそれ以外に答えられない様だ。


「ちょっと、先から主人公って言葉が聞こえるけど名前で呼んでいいぞ。」


どうやらクラウスも少し苛ついている様である。

続けて少し困った様にこう答えるのだった。


「僕は普通の勇者なのでレベルとか言われても困るなぁ。」


いや、ここの世界は”ファンタジー”ですから。

イライラなクラウスが考え込んでいる所、窓口のオッサンは首を傾げてしまう。


「ま、いいや。

 所で君はクラウス・ケルマンと言うのかね、俺はベルクだ。

 ここのギルド使うなら覚えといてくれ。

 あと、今までの戦歴が無いとLV1の仕事しか出せないぞ。」


「そうか、仕方ない。

 LV1の仕事はどんな仕事か教えてくれないか、ベルク。」


ベルクは手元の紙をパラパラめくるとイライラなクラウスに紹介して見せた。


「「イライラなクラウス」ってちょっと引っかかるな。

 もう怒ってないから。(怒)」


クラウス様のご機嫌が宜しくないので少し控えますです、はい・・・

我慢に耐えかねた様なコブシの握り方と目線が怖い、仏の顔も3度までの雰囲気で怒ってるし。


「クラウス、こんなのしかないぞ。

 とりあえず、回復魔法か薬は準備した方が良い。

 大した金にはならんが引き受けてみるか?」


どうやらベルクが提案したイベントは洞窟に住みつくオークの退治らしい。

クラウスは腕を組んで暫く考えた後、決意した様に答える。


「わかった、引き受けよう。」


「期限なしだが気をつけな。

 書類はこっちで片づけておくから、とりあえずお疲れ。」


ベルクは片手をヒラヒラさせながらそう答えると、次の人を呼ぼうとしている。

クラウスはそのまま荷物を右肩に持ち直すとギルドを出た。

ちなみにクラウスは勇者なので魔法は使えない。

彼は街並みを歩いていくと、雑貨屋のような店を目にする。

ちょっと洒落た感じの店のドアを開けると鈴の音がカランコロンと鳴り響いた。

出迎えたのは金髪の髪をポニーテールで結び、覗いた耳はすこし尖り、若くて可愛いらしい清楚なお嬢さん・・・に見える。

しかし、解説テキストには表現のぼかしが入っている。

解説者の独断と偏見で表現するならばエルフなので年齢は100歳超えの婆だろうか、婆のくせに胸もちょっと大きくてセクシー。

序に付け加えると”Oh, yeah.””Aan”といった効果音が出て来る所だろうか。


「失礼ね、余計な説明は要らないわよっ!(怒)」


おっと、お約束なのかエルフがすっ飛んで来てどっかの漫画の様に笑い顔で怒ったポーズが出た所で続きます。

クラウスは店の中を見渡していると、エルフは少し中腰になってクラウスの顔を伺いながら聞く。


「いらっしゃい、初めて見る方ね。

 今日は何をお探しですか?」


「この店にはどんな商品があるのかな?」


クラウスが聞くとエルフの店員はバインダーの様な注文リストを持ち出してくる。

もう面倒くさいのでお約束を破って現世の説明で良いや。

リストにはHPやMPといった数値と値段が書かれている。


「貴方、勇者に見えるけどレベルは幾つ?

 お勧めのお薬を紹介できるわよ。」


どうやらクラウスは腕を組んで深刻に考えている様だ。

エルフの店員は心配そうに見ながらこう答えた。


「一番安くて手軽に使えるのはポーションよ。

 10ゴールドでHP100の回復が出来るわ。」


更に深刻に考えるクラウス。

そこで思いつめた様に発した台詞は次の通りだった。


「僕にはHPが無い、LVも金もない。

 大体、ゴールドって何の単位だよ、HPってヒットポイントの略だろ?

 なんで体力の値なのに命中ポイントなんだよっ?(怒)

 それRPGの世界であって純粋なファンタジーの世界じゃないっ!」


おっと、主人公クラウスが雑貨屋の机に激しく手をついて暴走、ブチキレ始めた。

これを世界観設定のアンチテーゼ、逆ギレと言わずして何と言おうか。

エルフの店員は動揺して唖然としたまま、小さく答える。


「お、お帰りになられますか?」


「僕は正統派の精神論で勝って見せるっ!」


クラウスは自信の満ちた声で腕をまくって見せる。

どうやら回復薬は不要の様である。


クラウス・ケルマン18歳、どこからともなく現れた素性の見えぬ勇者。

その金髪の美しい髪を靡かせたその光景は正義に満ちた貴族を思わせる。

彼の冒険の目的は果たして何処にあるのだろうか、まだ誰も知る由はない。


勇者という名の無謀な冒険が今、ここに始まる。


あっ・・・これ締め括りで弁解しておくと最後にカンペが出た主人公の台詞以降は解説テキストに載ってなくて解説者のちょっとした独断と偏見ですわ。

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